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空を飛びたい――中国社会の変貌を背景に描く“夢にとりつかれた男” コンペティション作品「飛行家」製作陣に聞く【第38回東京国際映画祭】

2025年10月31日 15:00

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画像1Ⓒ2025 TIFF

中国社会の変貌を背景に、ひとりの男の半生をユーモラスに描いた映画「飛行家」が第38回東京国際映画祭のコンペティション部門で公式上映された。来日したポンフェイ監督、原作&脚本のシュアン・シュエタオ、主演のジャン・チーミンが取材に応じた。

【「飛行家」あらすじ・概要】
1970年代から現在に至る時代を背景に、空を飛ぶ夢にとりつかれた男を描く作品。中国東北地方に暮らす平凡な労働者リー・ミンチーは、自作の飛行装置で空を飛ぶという夢を追いかけているが、実験は失敗する。やがて改革開放政策のなか、ミンチーと妻は廃工場を改装してダンスホールを開業するが、ミンチーは空を飛ぶ夢を捨てきれない。2023年・東京国際映画祭で上映された「平原のモーセ」の原作者シュアン・シュエタオの小説を「再会の奈良」のポンフェイ監督が映画化した。
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――まずは、製作のきっかけを教えてください。
ポン・フェイ:最初に原作を読んだとき、強烈な“浪漫主義”の香りに包まれました。空気そのものが詩的で、人物たちがユーモラスで深くて……とても惹かれたんです。そこから脚本化が始まり、完成までに約6年かかりました。長い時間でしたが、育てていくようなプロセスでした。
――小説を読んで「映画にしたい」と思った瞬間を覚えていますか?
ポン・フェイ:最初の数章を読んだだけで“これは自分の世界になる”と感じました。映像で描ける風景が次々と浮かんできたんです。
――小説から映画化にするあたり、どのような議論を重ねましたか?
シュアン・シュエタオ:原作は中篇で、“人探し”という構造の中に、間接的に主人公の一生を織り込んでいます。けれど映画では、もっと“直接的”に人生を描こうと考えました。ひとりの男の時の流れを、真正面からスクリーンに流したいと。精神的なトーンは小説と通じつつ、物語構造では“距離を取る”ことが大切でした。小説と同じでは、映画の意味がなくなってしまうから。ポン監督は東北へ“田野調査”に出て、老工員たちを取材し、その声を作品に取り込みました。そこから物語が本当に息をし始めたんです。
――ポンフェイ監督とシュアン・シュエタオさんの出会いは?
シュアン・シュエタオ:きっかけは「再会の奈良」。あの映画のユーモアと温もりのバランスに驚きました。すぐに意気投合して、「ぜひ一緒に」となりました。脚本の方向性を探る中で、時間を大胆に扱う“大河的”な映画にしようと決めました。試行錯誤を経て、最終的な形には2人とも満足しています。
――「再開の奈良」とはまったく違うトーンですね。
ポン・フェイ:そうですね。だからこそ楽しかった。スタイルを変えることは、映画作りの喜びの一つです。
――ジャン・チーミンさんへお聞きします。今回の企画の出会いはどのようなものだったのでしょうか?
ジャン・チーミン:最初に原作を読んでから脚本を読みました。シュアン先生とは以前から知り合いで、彼の作品世界には馴染みがあったので、自然に入っていけました。原作はとてもロマンチックで、特に“熱気球で飛び立つ”ラストが好きでした。脚本では構成が変わっても、核心は同じです。理想を抱いた人が、どこへ向かうか、どう生きるか。それがこの物語の核です。
――役づくりの中で意識したことはありますか?
ジャン・チーミン:僕にとって2つの“手がかり”がありました。ひとつは“内面的な核”。もうひとつは、言葉と地域性。前半のリー・ミンチーは、飛行器を愛する理系青年。そんな“具体的な東北人”は珍しい。後半になると、より生活者に近づいていく。南方出身の僕にとって、初期の“青さと衝動”をどう出すかが難しかった。「鉄西区」を何度も観て、沈陽に住む親戚を訪ね、口調や立ち居振る舞いを身体で感じ取りました。撮影中はみんなで「このセリフ、東北っぽい?」と議論しながら作っていきましたね。
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――では、ジャン・チーミンさんを起用した理由を教えてください。
シュアン・シュエタオ:以前から彼の演技を見ていて、いつか一緒にと考えていました。脚本を詰めていたある日、ポン監督が「やっぱりジャン・チーミンが一番合う」と言って――全員すぐに納得しました。この役は年代も広く、東北という地域性も強い。難しいけれど、彼の“理解力”と“真実味”があれば絶対に成立すると思った。結果的に方言の完成度も非常に高かったです。
ポン・フェイ:僕も彼の映画「宇宙探索編集部」、ドラマ「ロング・シーズン 長く遠い殺人」を観て、強い印象を受けました。ある朝、脚本のラストシーンを書き終えた瞬間に「この人物はジャン・チーミンだ」と確信したんです。すぐに制片を叩き起こして「見つかった!」と(笑)。小説の人物が、脚本を経て、ついにスクリーンに姿を現した瞬間でした。
――作品の中では時代の変化も大きいですね。
ジャン・チーミン:そうなんです。撮り終えたとき、“自分の年齢を超えた人物”を生きた実感がありました。90年代の空気感はまだ想像しやすいけれど、そこから先の変化を体で追うのは難しい。シュアン先生から当時の人々の話をたくさん聞いて、脚本も現場で更新しながら、全員でその時代を再構築していきました。
――映画には“幻想的な浪漫”と“現実の重み”が共存しています。どのようにバランスを取ったのでしょう?
ポン・フェイ:最初から決めていたんです。上(浪漫)を飛ばすには、下(現実)の地盤を固めなければならない。人物と世界がどれだけ真実に感じられるか――そこが土台。そこがあってこそ、観客は“空を飛ぶ”感覚を信じられるんです。
シュアン・シュエタオ:映画の本質は“人と人の関係”です。時代は背景として存在しますが、結局は関係の中に滲む。主人公と子どもとの間には血縁がない。でもそこにある相互の支えこそが、時代を超えた“家族”の形なんです。
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――鈴木慶一さんの音楽も印象的でした。日本の観客からも「意外性がある」と反響がありましたね。
ポン・フェイ:鈴木さんとは3度目のタッグです。今回はすべてにおいて“極致”を目指しました。電子音を多く使ったのは、工業的で冷たい質感で“最もロマンチックな感情”を表現したかったから。たとえば主人公が初めて飛ぶシーンのテーマ曲が、彼が理想を捨てると消え、再び夢を取り戻すと戻ってくる。観客は気づかなくても、“あの少年が帰ってきた”と感じられるようにしています。
シュアン・シュエタオ:僕も何度も聴きましたが、音楽が“もう一つの物語”を語っている。ロシアの重厚さ、アメリカのロード感、日本的なリズムも混ざっていて、まさに“視聴覚の旅”でした。
――日本の観客へ、それぞれメッセージをいただけますか?
ポン・フェイ:どんな夢も、持つ人は美しい。たとえ無謀に見えても、忘れてしまっても、また一歩を踏み出してほしい。
ジャン・チーミン:この映画は、一人の男の夢と時代の軌跡を重ねた物語です。夢は大きくなくていい。根を張り、行き先を持つことが大切だと思います。
シュアン・シュエタオ:僕たちは一つ一つのシーンに、観客の感情を思いながら取り組みました。現実的でありながら、美しい――それを実現するのは簡単ではありません。昨日、日本の作家の友人から「観終わって、生きる意欲が湧いた」とメッセージをもらいました。その言葉で、この映画を作って本当に良かったと思いました。

第38回東京国際映画祭は11月5日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。「飛行家」は、11月1日ヒューマントラストシネマ有楽町にて18:20~、11月3日TOHOシネマズ シャンテにて20:50上映。

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