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坂口健太郎×渡辺謙、“楽しい”と思わせた豊かな芝居場の真意【「盤上の向日葵」インタビュー】

2025年10月30日 07:00

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孤狼の血」で知られる柚月裕子の小説を映画化した「盤上の向日葵」が、10月31日から全国で封切られる。9月18日、第30回釜山国際映画祭オープンシネマ部門で上映される直前、主演の坂口健太郎、共演の渡辺謙へのインタビューが叶った。(取材・文/関口裕子、編集/大塚史貴)

この世に7組しか現存しない将棋の駒が傍らに残された白骨死体。その事件の容疑者となった若き天才棋士・上條桂介が、数奇な運命と大人たちに翻弄されながら生きた証をたどるヒューマンミステリー。

坂口は奨励会を経ずプロになった謎多き天才棋士・上条桂介を、渡辺は将棋士としては一流だが、人として最低な賭け将棋の真剣師で桂介の人生に大きく影響を与える東明重慶を演じる。

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――「盤上の向日葵」のオファーを受けようと思った一番のポイントをお聞かせください。

坂口 上條桂介の生い立ちや過酷な環境で必死に生きているところに、強い愛情のようなものを感じたからですかね。桂介は、東明重慶(渡辺謙)を憎みながらも、自分にはないものを持っていることに羨望の眼差しを向けたり、決してポジティブとは言えないけれど幼い頃に受け取った愛ある記憶があるのか、父・上条庸一(音尾琢真)に情のようなものを感じている。桂介の人生から、そういう濃いエネルギーみたいなものを感じたことが決め手になったように思います。

渡辺 シンプルにいうと、この話を持ってきたのが、30年近く一緒に仕事をしてきたプロデューサーの矢島孝君だったから。満を持して彼がオファーをくれたことは、「お、来た!」とちょっと嬉しかったし、原作が柚月裕子先生で、脚本も良かった。桂介を坂口君が演じると聞いたこともあって、僕の中ではスムーズに「やろう」となった感じです。

――現在、釜山国際映画祭に参加されているわけですが、映画は国を超え、文化的背景の異なる人も巻き込んで、見た人に深い記憶を残すことができる芸術だと思います。今日、釜山国際映画祭で上映され、大勢の方に見ていただくことに対して、お二人はどのような思いをお持ちでしょうか?
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坂口 今は配信などもあり、他の国の作品を見る壁はどんどん低くなっています。もちろん字幕はありますが、たとえ言葉が分からなくても、見れば作品の質感なんかは伝わるもの。そんな映画を見ることで、その人の価値観に新たなものを加えたり、変えることもあると思っています。この作品の登場人物は、共感性には乏しいし、感情移入もしづらいと思いますが、韓国の観客の皆さんに、二人が生きた爪痕みたいなものを感じていただけたらうれしいですね。

渡辺 でも釜山でご覧いただく方々には、欧米の映画祭の観客より、この作品の持つ文化的背景や時代感を身近に感じてもらえる気がします。もっと言うと、こういう一筋縄では事を運ばせない将棋の真剣師たちの、血沸き肉躍る勝負にも馴染む感覚があるんじゃないかと。もちろんそれがどういうふうに伝わるかは分かりませんが、期待感はあります。

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――映画祭とは、観客の言葉を直接耳にする機会がある、稀有な場所だと思っています。そういう意味でも、今日これからどういう体験をお二人がなさるのか、すごく楽しみです。

渡辺 圧力を跳ね返すみたいなタイプの映画は、皆さんに受け入れてもらいやすいような気がするので、楽しみです。

――海外版のポスターからもイメージされるように、桂介と重慶は将棋に求めるものが逆の、陰と陽の関係にある人物だと思います。将棋を拠りどころとする貧しい環境で父親に虐待されながら育った桂介、勝負に溺れ、賭け将棋の世界で真剣師として生きる“鬼殺し”の異名を持つ重慶。彼らにとって将棋とは何だと思いますか? また棋士という役作りをどのようにされたのかお聞かせください。

坂口 僕は、昔よく家で将棋を指していたのでルールも知っていましたし、桂介はあまり特殊な指し方をしないので、棋士としての役作りは特にしませんでした。ただ唐沢先生(小日向文世)に教えてもらって指し始めた頃は耳を触る仕草を入れたり、重慶と出会った後、クライマックスに近づくにつれて、少し早指しになっていったりはありました。いずれにしても指し方というよりは、桂介の将棋における父親ともいえる二人の影響を、ニュアンスとしてどう出すかという芝居ですね。

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渡辺 桂介と重慶の指し方や将棋に対する思いは、確かに異なります。でも、俺らには将棋しかない。だから将棋を指す目的……、勝ちを求めることの気概は似ているんだと思います。だからこそ重慶は桂介に、自分の持てるテクニック、指し方、技を伝授したいし、託したいんだと理解しています。

棋士の役作りとしては、重慶は金を賭け、そのために命がけで将棋を指す男。とにかく相手を精神的に追い詰めて追い詰めて勝つみたいな指し方なので、熊澤尚人監督と相談しながら、鉈割り元治こと兼埼元治(柄本明)と指す時は、急に立ち上がって上から相手を見下ろしたり、とにかく相手をイライラさせる。本当はとても失礼なことなのですが、駒をパチパチ鳴らして相手を精神的に追い込んだり、将棋盤があるところではめちゃくちゃやりましたね(笑)。どこまでやるかは、監修の飯島栄治先生と相談しながらでしたが、いつも「重慶だから仕方ないですね」とおっしゃるので好き放題やらせていただきました(笑)。

――渡辺さんは、今年、「国宝」でも一つの芸事に集中し、懸ける役を演じられました。そのようなオファーが相次ぐのは、渡辺さんの中のその要素を見込まれてのことかとも思いましたが、共通する感じた部分はありますか?

渡辺 一つのことに命を懸けるところは似ていると思いますが、重慶はいい加減で信用が置けないし、何を考えているか全然分からない(笑)。花井半二郎は、常識人かどうかは別として普通に生きていますが、芸に関しては一歩も譲らない。僕としては、そこは全然異なるアプローチで演じたつもりです。

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――いかにも……。桂介は、小日向さん演じる唐沢先生、音尾さん演じる父・庸一、柄本さん演じる鉈割り元治、そして渡辺さん演じる重慶と、とても個性的な先達たちとの勝負や関わりを持って成長していくわけですが、坂口さんがそれぞれの皆さんから桂介のように得たものがあれば、そのエピソードを教えてください。

坂口 もちろん現場では、「お久しぶりです。よろしくお願いします」というところから撮影に入りましたが、皆さんとは「初めまして」ではありませんので、学ばせていただく機会は、この作品に限らずありまして……。今回、特に印象に残ったのは、お金に関するやり取りから始まる、父親役の音尾さんとの映画の肝となるシーンのお芝居です。あのシーンの音尾さんは、僕の想像以上に悲しみに満ちていた。台本の父は、桂介を虐待してきたひどい親一色でしたが、音尾さんが演じた瞬間、ひどい扱いはしてきたけれど、曲がりなりにも親子として生きてきた思いや、彼が抱えてきた苦しみが見えた。100パーセントひどい親父なら、むしろ桂介はあそこまでならなかったと思うし、彼の悲しみを見たことで自分の純粋な怒りをぶつけられなくなってしまった。あのとき、僕からいろいろな思いがあふれ出たのは、あの音尾さんの芝居に反応したからだと思います。お芝居をして至福を感じるのは、ああいう瞬間にめぐりあったときですよね?

渡辺 そうだね。それにしても、あの日、めちゃくちゃ暑そうだったよね。

坂口 むちゃくちゃ暑かったです。あの暑さの中でのアクションはきつかった(笑)。でも芝居としては、本当に気持ちのいい瞬間でした。

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――いい話ですね。あのシーンはワンテイクで撮られたんですか。かなり体力も精神力も必要そうでしたので。

坂口 もちろんいろいろなカットを撮ったので、結果、6、7回は演じたと思います。でも毎回、同じように堪えられず、溢れてしまいました。熊澤監督も「感じるままにやって」と言ってくれたので、ああいうシーンが生まれたんだと思います。

――重慶は、そんな桂介の人生を左右する存在ですが、渡辺さんとの演技も迫力あるシーンの応酬でしたね。

坂口 心が空っぽになった桂介、そこに重慶がやってくるシーンがあるのですが、そのときの雰囲気が「何してんの」だったんです。あの何でもない感じが桂介を救うんです。あのシーンは、いろいろなパターンを撮りましたが、何の感情も入っていないような重慶の「何してんの」が一番有効だった。重慶には羨望の眼差しでついていったり、バチバチにやり合うこともありましたが、結果、桂介のすべてを分かってくれている。あの重慶の何でもない雰囲気を感じたとき、僕自身、これは“イケない”なと感じ、踏みとどまりました。なんだかぞくっとしましたね。

――お二人のリアクションが素晴らしいシーンでした。渡辺さんはいかがでしたか?

渡辺 俳優それぞれに、役へのアプローチ方法があると思います。ずっと役にフォーカスし続けて、自分の世界で完結する方法もあると思いますが、坂口君はかなり委ねられている気がしました。シチュエーションや言葉、空気から生まれてくるものを信じているというか。僕もきっちりロジカルに組み立てるより、その場から生まれるもので繋がっていくほうがドキドキするし、観客もドキドキさせられるんじゃないかと思っている。そのバイブレーションはすごく近いです。なので、息詰まるようなシーンなのに楽しい(笑)。生まれるものが豊かだからかな。現場に行くのも、坂口君と芝居するのも、楽しかったです。

坂口 ありがとうございます。

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――いい話ですね。「息詰まるシーンなのに楽しい」という話もありますが、俳優には役に入るのが精神的にきつい作業となることもあるのかなと思いました。今回のような作品だと特に。もし精神的に厳しい状態になったとき、お二人はどう対処されているのか、うかがえますか?

渡辺 こういう振れ幅の大きいお話を演じていることきこそ、結構かっちり往復できている気がします。身構えずにダイブしたほうが、あまりガチガチに固めて演じるよりいいというか。とにかく飛び込んでそのシチュエーションの中で生きていくほうが、振れ幅のあるもののときは、生まれるものも大きいかな。

坂口 僕もどちらかというと、切羽詰まった緊張感のあるシーンのときのほうが、カメラの前でリラックスしているかもしれません。腕相撲するときって、ギリギリまでリラックスしていて、用意スタートでグッと力を入れるじゃないですか。その感覚にすごく近いかも。ずっと力を入れていると本来の力を出せないうえに、本番で疲れちゃう。

――確かに(笑)。

坂口 相撲の立ち会いだって、ずっとやっていると疲れちゃう。

渡辺 力の抜き方。

坂口 そうですね。ずっと力を入れているのではなく、パチッと切り替えるほうが、本来の力を出し切れるような気がします。

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――桂介の周りにも、マインドセットというか、気持ちの切り替え方を教えてくれる大人がいたら、違う人生になったのかもしれませんね。

坂口 教えてもらえなかったし、自分自身にもその感覚はなかったんでしょうね。だから深みにはまってしまった。そう考えると、僕も時々、桂介を引きで見ていたかもしれません。肩に手を置いてあげたい瞬間もありましたけど、桂介の精神に近くなりすぎてしまうと引っ張られるし、作りすぎてエゴも発生しそうだったので。だからあえて分けて考えたわけですが、そうすることで熊澤監督の演出や目の前の謙さんの演技を「ああ、そういうふうに来るんだ」と新鮮に感じられた。その繰り返しが楽しいんです。

――その熊澤監督の演出を、具体的にお聞きしてもいいですか?

坂口 演出とは少し違うかもしれませんが、あるとき監督が、一瞬一瞬を逃すまいと命がけでモニターを凝視している背中を見たんです。ここまで振り絞って、ワンカットワンカット撮っている監督の背中を見ると、ちょっとこちらも奮い立つというか。汗だくで、モニターを命がけで見ている姿を見て、安心して身を預けられる。そんな感覚を味わいました。

渡辺 僕は、割とフリーハンドだったな(笑)。振れ幅が大きいので、何やっても許されたというか。「こんなのありですか。あんなのありですか」というのは、もちろん毎シーン、相談させてもらいましたけど。良いコラボレーションができたと思います。

坂口健太郎渡辺謙熊澤尚人監督が登壇した釜山国際映画祭でのワールドプレミアは、4500席を埋めた観客からのスタンディングオベーションのうちに終了した。


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