ポール・トーマス・アンダーソン監督が打ち明ける、一夜にして最高のシーンが生まれた製作秘話【インタビュー】
2025年10月1日 19:00

「ワン・バトル・アフター・アナザー」(10月3日公開)は、「ブギーナイツ」「マグノリア」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」といった傑作を放ってきた天才ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作だ。20年間温めてきたという構想を、レオナルド・ディカプリオ主演で映画化した、監督にとって最大規模の野心作である。
冴えない元革命家の父親が愛娘を守るため、次々と現れる刺客たちと死闘を繰り広げる本作は、監督として初の本格的アクション演出への挑戦でもある。ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロらアカデミー賞俳優が脇を固め、それぞれがクセの強いキャラクターを怪演している。
アンダーソン監督はこのほど、オンラインでの会見に参加。一夜にして最高のシーンが生まれた製作秘話や初の大規模アクション撮影で学んだこと、長年の盟友ジョニー・グリーンウッドとの音楽制作、そして「映画の神様からの贈り物」と呼んだ砂漠のロケーション発見まで、天才監督のクリエイティブ術を余すところなく語ってもらった。(取材・文/小西未来)

そういう瞬間は実際にはなかったんだ。スタートするのに十分な材料があるとは感じていたけど。確かに20年間、このアイデアをあれこれ練って脚本を書いていた。でも、実際に動き始めたのは、ベニチオ(・デル・トロ)が自分の登場する場面の本読みにきてくれて、この物語のなかで最高のシーンをたった一晩で、夕食の席で書き上げたからなんだ。だから常に進化し続けていた。
基本設定はある、ストーリーで重要なポイントもある、登場人物も揃っている。現場で発見する余地は残しておかないといけないけれど、何かが見つかることを願って指をくわえて待つわけにもいかない。ただ、僕たちには十分な基盤があったし、感情的なプロットもしっかりあった。つまり、カジノのテーブルに向かってギャンブルを始めるのには十分な材料があった。
いい質問だけど、どれも本質的には同じなんだ。確かに撮影は森の中の小さな小屋から始めた。レオとチェイス(・インフィニティ)の場面で、4人くらいがちょうどいいくらいの狭い現場だ。つまり、映画の核心部分を最初に撮った。
これは本当に魔法のようなスタートで、この映画で核となる二人の主人公をじっくり理解することができた。そして、午後になると出かけて行って、警官たちに追いかけられるシーンを撮り始める。日が沈むまでそういうことをやって、こういう撮影スタイルのおかげでどんどん勢いがついていった。
素晴らしいプロデューサーで助監督のアダム・ソムナーには助けられた。彼は「ブラックホーク・ダウン」から「グラディエーター」まで、大規模アクション作品の経験が豊富だ。こういうことのやり方を知っている。だから僕に経験不足の部分があっても、彼は経験豊富だからすべての要素をどう動かすかを知っていた。
結局のところ、これほど大きな映画であっても、現場で周りを見回せば、これまでと同じ15人から20人のメンバーなんだ。カメラがあって、音響係がいて、俳優がいる。それに集約される。キッチンテーブルでの親密なシーンをやって、素晴らしい仕事ができたと満足して帰宅することもある。道路に出て、車を撮影して、スピードを出して走るときは違う。それほど満足感はない。編集でうまくつながって観客にとってとても興奮するものになることを願うだけで。

観客として映画で見るよりも、現場はずっと退屈だということを学んだよ。俳優との共同作業で得られるような強烈な満足感は確実にない。僕にとってはそれが一番楽しくて、一番満足できることなんだけどね。
アクションはレゴを組み立てるようなものだ。アクションを成立させるために必要なピースがあり、それを手に入れる必要がある。ときにはスタントコーディネーターや助監督でプロデューサーのアダムに現場を任せなければならない。彼らがみんなの安全を守りつつ、うまくやってくれることを信頼しなければならない。一歩下がらなければならない。じっと我慢して、彼らに任せなければいけないんだ。
もう何年ものあいだジョニー・グリーンウッドと仕事をしている。プロデューサーのほかでは、もっとも親しいコラボレーターだ。なにしろ、最初の最初から関わっていて、ずっと前から音楽を書いてくれている。演出において大事なのは、役者に音楽を聴いてもらうことだ。ラッシュ映像と一緒に、ジョニーが書いた音楽をみんなにきいてもらった。そうすることで、みんながこの作品のトーンを感情的に理解する。みんなが同じ音楽を体に感じる。そのおかげで僕たち全員を同じ方向へと推し進めてくれる。同時に、音楽はラッシュ上映をエキサイティングにもしてくれる。自動車が丘をただ走るだけの映像をつづけて1時間もみるのは普通だったら退屈だからね。
ちなみにある朝、現場に向かう途中でスティーリー・ダンの「ダーティ・ワーク」を聞いて、レオにも聞いてもらったんだ。「最後の最後で、君のテーマソングを見つけたと思う」と言って。
こうした音楽も、映画製作中にインスピレーションとして持ち歩いている芸術作品の一つだ。映画作りのときに、音楽のようなものをとっかかりにするのは常に助けになる。僕たちみんながそれを理解できて、感じることができる。リズムがどうか、メロディーラインがどうか、それが何であれね。だから音楽はどんな映画でも不可欠な部分だけど、この作品では特に重要だった。
そしてジョニーの音楽は常にユニークで常に特別なんだ。エルパソでの例の長いピアノ曲があった。ラッシュ映像をみて、その音楽を一緒に流してくれていた。そのおかげで感覚がつかめた。このシーンがどこに向かっているのか、どんな緊張感があるのか、何を維持する必要があるのかを。こんな風に作業できるのは途方もない贅沢だよ。ジョニーが僕たちより一歩先を行って、脚本やラッシュ映像に応えてくれているなんてね。

最後に主人公たちが道路にいることはわかっていたし、砂漠にいることもわかっていた。それがこの物語が導いた場所で、そこでクライマックスを迎え、終わることになる場所だとわかっていた。何年もかけてさまざまなロケ地を探しているうちに、クランクインが近づいてきた。そんなとき、ボレゴ・スプリングスから東に1時間ほど行った、アリゾナ州境のすぐ近くに行き着いた。のちに「丘の川」と呼ぶことになるこの道をぼくらは運転していた。車のなかにいるみんなが一緒にこの区間にわくわくしていることに気がついた。何年ものあいだ探し求め、もうどこでもいいと思いはじめたときに、ついに映画の神様からの贈り物のようなものが目の前に現れた。もちろん飛びついたよ。
このロケーションが最高なのは、あまり詳しくは言えないけれど、物語にとってもっとも重要な機会を提供してくれたことだ。ウィラがチャンスを掴み、自分の状況をコントロールして、優位に立つ。
あの道を駆け抜けるのは確かにとてもスリリングだけど、最高の部分は彼女が形勢を逆転させることだ。そこが一番気に入っている。だからこそあのシーンは心に響くんだと思う。

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