【ストーリー】
10歳の小学4年生・上田唯士は両親と3人家族で、おなかが空いたらごはんを食べる、ごくふつうの男の子。最近は、同じクラスの三宅心愛のことが気になっている。環境問題に高い意識を持ち、大人にも物怖じせず声をあげる心愛に近づこうと奮闘する唯士だったが、彼女はクラスの問題児・橋本陽斗にひかれている様子。そんな3人が心愛の提案で始めた“環境活動”は、次第に親たちも巻き込む大騒動へと発展していく。
――呉監督にお聞きしたいのですが、主人公・唯士役に
嶋田鉄太さんを起用することになった経緯を教えてください。鉄太さんは、監督の前作「
ぼくが生きてる、ふたつの世界」で、
吉沢亮さん演じる主人公の幼少期の友だち役で出演されていましたが、そのオーディションのときから印象が強かったのでしょうか。
呉監督:台本通りにはセリフを言わないんです。 言えないのか言わないのかわからないけれど、でもそのアレンジが絶妙に等身大で、あ、すごいなと思ったんです。とにかく目で追ってしまう。それで主人公の友人役として出てもらいました。現場でも、それこそカメラを通して見た時も、なんかこうフォトジェニックさとか、それがすごく素朴でいいなと思って。
前回は昭和の子、今回は令和の子ということで、ぜひ、ご一緒したいなと思いつつ、でも他にもいるかもしれないから、オーディションという形で来てもらって、何百人という子どもたちに会ったんですが、私だけじゃなくプロデューサーも意見は一緒で、主人公はこの子しかいないね、つい目で追ってしまう存在感だなって見ていました。

――鉄太さん、今のお話を聞いてどうですか? 主人公の唯士役の決まった時はどんな気持ちでした?
鉄太:とにかく嬉しかったんです。嬉しかったんですが、主人公っていうのがよく分からなくて。どのくらいすごいか、今やっとちょっとずつ実感が湧いてきた感じです。
呉監督:今?
鉄太:撮影中は何も…とりあえずやろうって思っていて、やっと今日(※取材時は完成披露上映会当日)、初めてみんなに観てもらうわけじゃないですか。だから(実感が)やっとちょっとずつ。今まで0だったのが2~3センチぐらい。
――鉄太さんはプレッシャーみたいなものは感じなかったですか?
鉄太:あまりプレッシャーは……、でも緊張はしました。一応してはいたんです。
蒼井:私も中学2年生とか3年生頃に映画のメインキャストのオーディションに合格したんですけど、その時は同世代が大勢いたので、けっこう遊んでいたかもしれないです。
呉監督:「あの子とまた会える」というような感覚?
蒼井:そうそう、みんなで泊まりで撮影だったから、ちょっと(鉄太くんの気持ちが)わかるかもしれない。

――蒼井さんは、呉監督と今回が初タッグになります。本作出演をオファーされた時の気持ちや、初めて脚本を読まれたときの感想はいかがでしたか。
蒼井:まず、「いいんだ、私でも出れるんだ」っていう喜びが大きかったですね。でも台本を読んでみたら、今までの呉監督作品のイメージと全然違う。私の中では違うタイプの作品だったので、これはまた面白いなと思って。とにかく呉さんに「映画に出てもいい」って言われてることが嬉しくて、すぐ「出ます、出たいです」ってお答えしました。
――監督は、ずっと憧れていらした蒼井さんに今回オファーされた際、唯士の母・恵子というキャラクターを思い描いていて、やはり蒼井さんが「ぱん」とはまった感じだったのでしょうか?
呉監督:最初に台本を読んだときに、この恵子という役は少し間違ってしまうと、ステレオタイプというか、流れちゃう、危険だぞっていう思いがありました。「
ふつうの子ども」、ある程度「ふつうってなんだ」と疑問を持ちつつ、ベースにあるのはいわゆる「ふつうの家族」を出したかった。でも、そのふつうの中のちょっとした心の機微だったり、人間の豊かさみたいなものを描きたい、と考えていました。
そしてキャスティングの段階に入って
蒼井優さんのことを思い出した時に、そこですごく腑に落ちたというか。今まで私は彼女の出演作を軒並み観させてもらっていますが、どれも違和感が無いんです、その役に。例えば「
オーバー・フェンス」。原作を知っていたので、その役すごく難しいぞと、ちょっとうっかりすると、ただのメンヘラになっちゃうぞっていう危険性を思いながら、これをどうやって?と観ていくと、これは蒼井さんだから成立したんだと。思えばこれまでの作品全部がそうでした。今回もやっぱり、蒼井さんだから、この恵子を生身の人間にしてくれた、と思っています。

――蒼井さんは呉監督とご一緒されてどうでしたか?現場の雰囲気はいかがでしたか?
蒼井:みんなを伸び伸びやらせてくださる。なんでしょうね、フラットなんですよね。みんなが同じところに立っているというか。監督が上にいて、というよりも、みんなで作っているという感じがすごく強くて。演出を受けても、必要以上の緊張感がないので、呉組ってこうやって空気が作られていっているんだっていうのを感じました。
――脚本を読まれて、蒼井さんご自身も恵子というキャラクターをイメージされていたと思いますが、実際に演じる上で気をつけたことはありましたか?10歳の子を持つ母親という役でしたが、その点について事前にプランなど立てられていたのでしょうか?
蒼井:まず、監督から「いいお母さんじゃなくて良いです」って仰っていただきました。最初「
ふつうの子ども」っていうタイトルからして、私の先入観で、親はその受け皿のようになるのかなっていう感覚で読んでいたのですが、その視点でいくと、どうにもこうにも違和感がたくさんあって、親に。親たちも子どもの延長でしかなくて、全然しっかりしていないし、ちょっとどうかしてる。それはそうだよなと、呉さんと(脚本の)高田さんだもんな、と。監督にそう言っていただいたことで、納得がいき、そこからまた一歩進んだっていう感じでした。
10歳の男の子と仕事するのは、本当に鉄太くんでよかったなって。いつもこんな感じですから。なんだろう、緊張しているのかしていないのかがよく分からない、必要以上に自分以上のことをしない。大人たちは鉄太くんと一緒でずっと楽しくて。すごく若い子とお仕事すると、体調面に関しては、みんなが先回りしてやらなきゃいけないこともありました。でも、その時々の鉄太くんをみんなが見つめている感じで、鉄太くんっていう存在を、現場のみんなが「かっこよかった」って思っていると思います。
――鉄太さんは、撮影中楽しかったこととか大変だったこととか、振り返ってみてどうですか?
鉄太:大変だったのは、図書館のシーンです。本は好きなんですけど図書館自体が無理で、置いてある本が僕の好きなものと種類が違って、字が多い系のがたくさんあったからか、微妙な気温だし、気持ち悪くなっちゃって。
呉監督:図書館で撮影の日が一番体調悪かったよね。
鉄太:待ち時間に寝ながら…本当につらかったです。あとは駐車場のシーンで、変装するために厚着したんです。それで調子に乗って、冬でも着ないぐらい着こんじゃって。
呉監督:自分で変装する衣装を選んだからね。
鉄太:繋がりがあるから着替えられず…サングラスとマスクくらいにしておけば良かった。

――今回、クラスメイトは29人ですよね、同世代の29人とお仕事してみて、どうでしたか?
鉄太:疲れました。同世代の子といると騒いじゃう。ちょっと上の方がいるとなんか落ち着くというか、ちょっと抑えられるというか。
蒼井:同世代の子が騒いだら一緒に騒ぎたくなっちゃうもんね。
鉄太:学校のシーンの撮影が終わった後、本当に体調悪くなる。知らず知らず疲れている。
――お母さん役の蒼井さんとご一緒してみてどうでしたか?
蒼井:ダメだった?
鉄太:あー…(一同 笑) すごく優しかったです。話しかけてくれるし。
蒼井:楽しかったよね。
――蒼井さんは鉄太さんとの共演いかがでしたか?
蒼井:なんだか話しかけたくなる子なんですよ、近所の子みたいな感じで。もちろん俳優さんとしては素晴らしいんですけど、お芝居していないところでもずっと可愛かったです。
鉄太:ありがとうございます。

――監督は、鉄太さんをはじめ29人の児童たちをまとめるのも大変だったと思いますけど、現場での様子を見ていると、監督が一番“
先生”のように見えました。子どもたちを演出するというのは、どんな経験でしたか?
呉監督:うっかり「
先生」って呼ばれちゃっていました。「
きみはいい子」の時もそうだったのですが、「先生、あの子が僕を叩いてきました」「あの子がガム食べながら本番やってます」「その子、アメ舐めてます」とかいちいち報告して来てくれるんですよね(一同爆笑)。でも、なんで
先生なんだろう。
私は話が好きだからいろんな子に話しかけてたし、大人も子どももそうですけれども、映画をやっていて、確かにその役でもあるけれども、役を演じてもらっている、その人自身を知りたいというのがあるので、いろいろと気になる人に話しかけちゃうんですね。子どもでもちょっと様子を見ていて、あ、いつもと何か違うなと思ったら話しかけてみたりとか。そうすると、自分が想像していた以上の言葉で返してくれたり、その会話って面白いなと。 鉄太もそうでした。
――鉄太さんは本作の撮影から1年ほど経って、今ではドラマなどいろいろなお芝居をされていますが、せっかくの機会なので蒼井さんや呉監督に聞いてみたいことあれば、ぜひ質問してみてください。
鉄太:(蒼井のほうを向いて)僕はいついかなる時でも、演技で泣くことができないんです。今回もそうですけど…
蒼井:できない?本当に?
鉄太:ワサビ塗ったりしてます?
蒼井:ワサビを塗る人いないよ。私は塗ったことがないけれど、ハッカはすごく目が痛くなるらしいよ。真面目に答えると、そのシーンに行くまでのところをずっと通しておけば泣けます。そこの気持ちになるように、ずっとお芝居をやり続けていく。 そのシーンの前に台本を読み返す。
鉄太:ちょっとなんか僕とは違う気がする、感性が違う。僕にできますかね。
蒼井:絶対できるよ。でも昔、ある監督が「涙が出るかどうかが問題なんじゃなくて、心が泣いてるかどうかです」と仰っていて。だから心が泣いてれば涙が出るかどうかはどうでもいいんだって。
鉄太:ありがとうございます!(次に監督のほうを向いて)何を食べたら、こういう映画を思いつきますか?ちょっと、いいイメージですけど、変じゃないですか?

呉監督:私が?
鉄太: 監督は自分のことを「ふつう」って言ってますけど、ふつうなのかちょっと怪しいなと。どうしたらああいうのを思いつくんですか。何を食べていますか。
呉監督:この話が私に来るまでにプロデューサーとか、(脚本の)
高田亮さんとか、いろんな人たちがこういう映画があったらいいよねって考えて。企画書をもらって、私が乗っかった方だから、私だけの気持ちじゃないんだけど。まあ、そこからもちろん自分でも考えるんだけど。じゃあ私が一番好きな食べ物、一番好きな食事でいいですか?立ち食いそば!
鉄太:やっぱ変わっているなあ。
蒼井:私も好き。
鉄太:うちのお父さんみたい。(一同大爆笑)
呉監督:美味しいよ。海外にはないから、あんなに安くて早くて美味しいもの。
鉄太:じゃあ立ち食いそばを食えば、これが思いつく。いただきました!
呉監督:絶対に美味しい。地方に行ったら、絶対に入る。ご飯食べた後にも入る。
鉄太:ご飯食べた後に立ち食いそば行くんですか。
呉監督:病的に。
鉄太:ご飯食べたのに。
呉監督:なんていうかな、立ち食いそばみたいな庶民的で心に沁みる映画を作り続けたいな。
鉄太:あ、でも僕うどんがいい…。
呉監督:うどんもあるよ、立ち食いうどん。絶対立ち食いそば屋にある。選べるよ。食べてみてください。
鉄太:じゃあ、とりあえず食べてみます。