【第82回ベネチア国際映画祭】オリゾンティ部門藤元明緒監督「LOST LAND」に審査員特別賞 コンペティション部門金獅子賞はジム・ジャームッシュ監督
2025年9月7日 09:22

第82回ベネチア国際映画祭が現地時間の9月6日に閉幕し、ジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画「FATHER MOTHER SISTER BROTHER」が金獅子を受賞。下馬評のもっとも高かったチュニジアのカウテール・ベン・ハニア監督による「The Voice of Hind Rajab」は、銀獅子審査員グランプリに留まった。また批評家の星取りで高い評価を得ていたパク・チャヌク監督の「NO OTHER CHOICE」は無冠に終わり、ベニー・サフディ監督が元総合格闘家、マーク・ケアーの実話を描いたA24製作の「THE SMASHING MACHINE」に銀獅子監督賞が贈られるという、やや番狂わせ的な結果となった。
女優賞も、戦前のイタリアの名女優を貫禄たっぷりに演じた「DUSE」のバレリア・ブルーニ・テデスキではなく、中国映画「THE SUN RISES ON US ALL」のシン・シレイにわたる意外な成り行きに。一方、男優賞は下馬評通り、パオロ・ソレンティーノの「LA GRAZIA」に主演したベテラン、トニ・セルビッロに授与された。
脚本賞はフランク・クルテスの小説を映画化したバレリー・ドンゼッリと、共同脚本家のジル・マルシャンに、新人俳優に贈られるマルチェロ・マストロヤンニ賞はイルディコー・エニェディ監督の「SILENT FRIEND」で瑞々しい魅力を見せたスイス出身のルナ・ウェドラーがさらった。
今回の映画祭は政治色のある作品が目立ち、たとえテーマに関係はなくてもガザのジェノサイドに言及する監督が少なくなかった。そんななかで、イスラエルの戦車に殺されたガザの6歳の少女、ヒンド・ラジャブの肉声を使ったハニア監督のドキュ・ドラマが金獅子から外されたことは、ある意味、審査員が政治的論争を避けようとした結果と思えなくもない。審査員長のアレクサンダー・ペインは、ハニアとジャームッシュ双方の映画とも極めて良く選択が難しかったと説明したが、アメリカのインディペンデント出身の彼がジャームッシュに花を持たせたかったとも考えられる。

日本関連では、オリゾンティ部門に出品された藤元明緒監督の「LOST LAND ロストランド」が、審査員特別賞を受賞した。日・仏・独・マレーシア合作の本作は、現在も迫害を受ける民族ロヒンギャの物語であり、世界で初めてロヒンギャ語で撮られたもの。藤元監督は、「国籍も故郷も命も奪われ、いまも迫害に苦しむロヒンギャの人々、またミャンマーで苦行に晒されている人々に明るい未来が来ることを願っています。出演してくれたロヒンギャたちの素晴らしい才能が、これから世界に広がっていくよう、映画を愛するみなさま、どうかあたたかいエールをお願いいたします」と語り、喝采を浴びた。
受賞式ではさらに、「アルマーニ・ビューティ」賞で、映画祭のスポンサーとなっているアルマーニ・ブランドのデザイナーであり、9月4日に亡くなったジョルジオ・アルマーニを偲んで、オマージュが捧げられた。(佐藤久理子)
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