吉沢亮×横浜流星「国宝」日本の伝統芸能を描いた作品は世界を席巻できるのか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2025年6月7日 11:00

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末6月6日(金)から「国宝」が公開されました。
邦画においては“規模の大きな作品”――試写の際、配給会社が用意する物から力の入れ具合が見えたりもします。私が参加した試写に限りますが、東宝において作品資料が「冊子」の形になっているのはコロナ禍以降では久しぶりのように感じました。
メガホンをとったのは、こだわりの演出で定評のある李相日監督。
主演の吉沢亮は歌舞伎役者を“リアル”に演じるため、実に1年半もの期間を稽古に費やしています。その甲斐があり、演技は圧巻。来年の日本アカデミー賞で主演男優賞の最有力候補になるのは間違いないでしょう。
また、そのライバルを演じた横浜流星も日本アカデミー賞で助演男優賞の筆頭候補になるのでしょう。


撮影において特筆すべきは、超本格的な撮影。終盤に登場する劇場は“リアル”に感じますが、実はそれは「セット」だったりと、半端ないこだわりが感じられるのです。
撮影期間が3カ月(日本国内での標準は1カ月半)で、撮影後の編集、音楽、CGでは(李相日監督の過去作と比べると)2倍以上の期間をかけているなど、製作費はどれだけかかっているのか心配にもなりますが、内容から察するに、製作費は12億円以上がかかっていると想定されます。

製作委員会で意外に思ったのは、幹事会社が「アニプレックス」と「MYRIAGON STUDIO」となっている点です。
後者の「MYRIAGON STUDIO」については、アニプレックスが100%出資する子会社。実写作品の企画、開発、プロデュースなどを手掛ける会社となっていて、実質的には「アニプレックス作品」といっても過言ではないのです。
そして「アニプレックス」といえば、「鬼滅の刃」の幹事会社などで知られたソニーグループの稼ぎ頭ですが、そのアニプレックスが「国宝」という、ここまで規模の大きな邦画実写映画を手がけている流れには新鮮さがあるのです。
これは「国宝」が、日本が世界に誇る「歌舞伎」を題材にした作品なので、世界的なセールスが期待でき、「世界展開できるコンテンツ」だという判断があってのことなのでしょう。
ただ、製作費12億円以上というのは、結構ハードルが高い設定になっているのも事実です。
例えば、日本の映画館の上映だけでリクープしようと思ったら、製作費12億円の場合、興行収入30億円を突破してようやく黒字になってくるようなビジネスモデルなのです。

「国宝」は無事に興行収入30億円を突破できるのかというと、私は少し厳しい気がしています。
そこで、ここからは本作を見た“私の感想”を述べていきます。
まず、私はずっと前から「歌舞伎」に興味がありました。
そのため「シネマ歌舞伎」などを見てきた経験があるのですが、正直なところ未だに「歌舞伎の面白さ」を見出すまでには至っていないのです。
そんな状況だったので、本作には「一見さんにも理解できるように歌舞伎の面白さを教えてもらえる作品」になっていることを期待していました。
例えば、戦時中において壇上に女性を上げると風紀が乱れるというお達しで男性が女性を演じる「女形」が生まれたといった背景を冒頭で知りました。
この辺りはつかみとして良かったです。
ただ、それ以降は、特に中盤あたりから視覚的に目が人物を追っていても、自分の感情があまり動いていないような気がしていました。
「これは脚本の問題なのか、監督の問題なのか、あるいは原作を映画化するには時間の問題があり175分を費やしても難しかったのか――?」と色々考えが巡りました。「時」の経過に伴う状況などがブツブツ切れていくような印象を受け、個人的には感情移入が難しい感覚があったのです。


ただ、終わってから試写室を移動していると、涙を流している人の姿も。“入り込める人”も確実にいて、その人たちとっては文句なしの高評価になるのだろうと思いました。
おそらく私の感覚は「一見さん代表」の感じです。海外の人は私のようなタイプが多いのでは?と予想しています。
この仮説が正しい場合は、本作の海外へのセールスはそこまで期待ができないのかもしれないのです。
果たしてこの意欲作が世界を席巻できるのか。日本だけでなく世界興行収入の動きにも注目したいと思います!
執筆者紹介

細野真宏 (ほその・まさひろ)
経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono
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