【「スンブ 二人の棋士」評論】勝負を超えて師弟がたどり着く真の成長の姿と境地が深い感動を呼ぶ
2025年6月1日 10:00

またしても韓国映画に名作が誕生した。イ・ビョンホン主演の「スンブ 二人の棋士」である。今年3月26日から韓国で劇場公開され、27日目で動員200万人を突破し、その時点で今年公開された映画の中で第5位の成績となるヒットを記録。5月5日に開催された第61回百想芸術大賞(2025)では映画部門の脚本賞、最優秀演技賞(男性)にノミネートされた。そして、劇場で上映が続く中、5月8日から早くもNetflixで配信がスタートしている。
作品は、曺薫鉉(チョ・フニョン)と李昌鎬(イ・チャンホ)という韓国を代表する実在の囲碁棋士を主人公にしたヒューマンドラマ。世界囲碁選手権を制覇し、国民的英雄の“国手”となったばかりのフニョンが、才能を見込んだ弱冠10歳のチャンホを弟子に迎えたことで生まれる師弟関係と、二人の天才棋士による壮絶な対決の行方が描かれる。
師弟にして最大のライバルとなるこの二人を、イ・ビョンホンとユ・アインが初共演で演じ、コ・チャンソク、チョ・ウジンらが脇を固め、「ミッション:ポッシブル」(2021)などのキム・ヒョンジュが脚本(ユン・ジョンビン共同)と監督を務めた。
最大の見どころは、師弟の感情の機微を重ね合わせて表現する囲碁対局の描写である。タバコの煙、棋士の手の動きや目つき、貧乏ゆすり、囲碁石の打ち合いを交互に映すなどして、勝負の緊張感と感情のせめぎ合いが伝わってくる。そのカメラワークも巧みで、勝負に没入する師弟の精神世界(宇宙)に観客も入り込んだような感覚になり、時に幻想的なシーンも挿入されることで、天才同士ゆえの苦悩にも心を揺さぶられる。また、囲碁を知らなくても楽しめるエンタテインメント性も高められているのが本作の大きな魅力だ。
勝負の世界の師弟を描いた名作はこれまでにもある。例えば、トム・クルーズとポール・ニューマンが共演した、マーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」(1986)。現役を引退したハスラーが、才能ある若いハスラーを一流に育てることで、自らの勝負師としての魂に再び火をつけるというストーリー。ニューマンが第59回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した。
本作では、弟子に負けた師匠がショックのあまり勝てなくなるが、初心に帰って自分自身に勝つことの大切さを悟り、勝負を超えて二人がたどり着く人としての成長の姿と境地が深い感動を呼ぶ。そして、コミカルさもあわせて勝負師、師匠を演じたイ・ビョンホンの静かな迫力に圧倒させられるに違いない。
最後に、弟子を演じたユ・アインにも触れねばならない。本作は2021年に撮影を終えていたが、彼が常習的に麻薬投薬をした疑いが持たれ、公開が無期限延期された。ユ・アインは懲役1年を言い渡されてソウル拘置所に収監されたが、今年2月の第2審で懲役1年、執行猶予2年に減刑され、釈放されたという経緯がある。
それも踏まえて評価しなければならないが、10歳の弟子チャンホが成長して最初に登場したシーンで顔を見た時はユ・アインだとは思えなかった。顔や体格が少しぽっちゃりし、囲碁のことしか頭にないような表情から、役に入り込んでいることが一目でわかる。師匠を演じたイ・ビョンホンの名演に引けを取らない彼の存在感が、本作の完成度を高めているのは確かだ。エンドロールで、実在のチョ・フニョンとイ・チャンホの写真を見て驚愕することだろう。
執筆者紹介

和田隆 (わだ・たかし)
1974年生まれ。映画業界紙の記者、編集長などを経て取締役に就任。キネマ旬報などに寄稿。2014年より映画.comで国内映画ランキング、新規事業などを担当。映画もプロデュース。
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