坂元裕二「片思い世界」をネタバレありで解説! 「自分の38年の脚本家人生はこれを書くためにあったと思っている」
2025年4月14日 18:30

脚本家・坂元裕二(「怪物」「ファーストキス 1ST KISS」)が4月13日、広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を果たした映画「片思い世界」(公開中)のティーチインイベントに登壇。坂元は、作品に込めた思いや、いままで宣伝では触れられなかった主人公3人の設定について、ネタバレありで語った。
物語の主人公は、現代の東京の片隅、古い一軒家で一緒に暮らす、美咲(広瀬)、優花(杉咲)、さくら(清原)。仕事に行ったり学校に行ったりバイトに行ったり。家族でも同級生でもないけれど、互いを思い合いながら過ごす、楽しく気ままな3人だけの日々。もう12年、強い絆で結ばれているそんな彼女たちの、誰にも言えない“究極の片思い”が描かれる。大ヒット映画「花束みたいな恋をした」の脚本家・坂元と土井裕泰監督(「罪の声」)が再タッグを組んだ。

主人公3人が置かれた特別な状況は、本作の“大切な秘密”ということで、これまでの宣伝活動は“ネタバレ厳禁”というスタンスで行われてきたが、本イベントではネタバレありで、トークが繰り広げられた。最初に坂元は、物語の着想について、「2年か3年前に親戚が亡くなりまして。その帰り道にふと思いつきました」と明かす。
坂元「ただあとから思うと、これは自分が子どもの頃に考えていたお話なんじゃないかと思ったんです。僕は子どもの時に、ふとんのなかでよく泣いていたんです。人が亡くなったり、祖父が建てた家が台風で飛ばされてしまったりして。自分じゃなくても、家族やおじいちゃん、おばあちゃんが死んでしまうんだと思ったんですが、それが受け入れられなくて、毎日ふとんのなかで泣いていたんです」
また、時期を同じくして、子ども図鑑などで見た天国や地獄の描写なども忘れられなかったそう。「そこには閻魔さまがいて、舌を抜かれたり、血の池に入れられたり、釜ゆでにされたりする、とあって、ものすごく怖かった。でもそれが受け入れられなくて、ふとんのなかで話を考えていたんです。別の世界に行って、普通と同じように暮らしている。ご飯も食べるし、おならもするし、すべったり転んだりもする。これは4歳か5歳の頃から考えていた話だったんです」といい、「身の回りの誰かが亡くなることで、人が死ぬんだということを理解する。そうしたときに人は成長すると思うんですが、それをどう受け止めていくか。それが傷になる人もいるし、成長につながる人もいると思う」と説明する。
本作のパンフレットのインタビューのなかで坂元は、「自分の38年の脚本家人生はこれを書くためにあったと思っている。棺桶に入れるならこの作品だと思う」と語っている。その理由を、「単純にとても気に入っているということ。もちろん自分はテレビ出身の人間だから、何かを残したいというわけではなく、放送時間を過ぎたらみんな忘れればいいやと思ってやってきたんですが、本作は残ってもいいかなと思った」と、胸中を吐露した。
この日は、映画を鑑賞したばかりの観客から、さまざまな質問が寄せられた。まずは、「主人公の3人は生きている人と交わらない。この物語をファンタジーにしなかった理由は?」という質問が。坂元は「自分は現実的な人間なので、交わったことがないんです。うちの母は『あそこに幽霊がいる』というような人間なんですが、自分自身は見たことがなくて。やはり書き手としてそこは嘘はつけなかった。だって実際に会ったことがないから……」と答える。
坂元作品といえば、テンポの良いやりとりや、共感性の高いセリフなどが印象的だ。「どういう時にアイデアを思いついて、どういう風に肉付けしているのですか?」という質問には、「みんな誰しも、何十年も生きていれば『こんな面白いことがあった』というようなエピソードトークがあると思います。だからまず、その人が持っているエピソードトークを書くんです。この人はこういう性格だとか、こういう趣味があるとか。例えば、その人がトイレに閉じ込められた時に、3時間気絶したとか……これは『大豆田とわ子と三人の元夫』の松田龍平さんが演じた役の話なんですけど。その時、トイレにボールペンがあったので、トイレの壁一面にずっと自分の履歴書を書いた、と。それは結局使わなかったんですけど、そういうことを考えるようにしていますし、大事にしています」と、創作の裏側を明かす。
続いては、「これまでは残された側の人たちを描くことが多かったと思うが、今回、残した側の視点で描こうと思ったのは?」という質問。坂元は、「結局、(映画を)見る側は、死に出会ったわけではないので、残された側だと思う。そうすると鏡のように残された側も描かれることになる。もちろん優花の母親などは出てきますし、残された側も描いたつもりなんですが、自分の気持ちとしては、先に逝ってしまった人たちに気持ちを残して描こう、というのが今回のアプローチでした」と述べた。

そして最後の1問は、「中学生とか高校生くらいの若い人がもしいらっしゃったら」という坂元のリクエストにより、若い観客からの質問で締めくくることに。その観客は「怪物」「ファーストキス 1ST KISS」「片思い世界」を鑑賞し、「それぞれ作風が違うのにも関わらず、どれも“坂元作品”であると感じられた」といい、「作品をつくる上で持っている芯の部分は?」と質問する。坂元は「あまりないです」と返しつつも、以下の通り、回答した。
坂元「それは自分では良い意味で解釈しているのですが、僕は人が好きなのであって、あまり自分自身には興味がない。だから自分のことを書きたいと思ったことはほとんどないし、誰か面白い人を見つけたときに、この人のお話をつくりたいなと思うことが多いです。この人の面白さは自分しか気付いてないんだろうなとか」
坂元「『花束みたいな恋をした』もそうなんですが、自分の知り合いの男女がいて、そのふたりが飲みながら、ずっとカルチャーの話をしているんですよね。この姿を誰も映画にしようとは思わないだろうけど、僕は、これは面白くなるんじゃないかと思った。そういう関心から来ているんですけど……(中略)面白い人を見ると、その人について描写したくなる。それが自分の癖なんです。だから書いているものはバラバラだったりしますが、それは人間が好きだから、という長所だと思っています」
坂元の回答を聞いた観客は、「それは絶対に長所だと思います。私は(坂元さんが)面白い人だと思っているので、ぜひ自分の映画も……つくりたかったら、ですけど」と返し、会場は大笑い。坂元も笑いながら「今後『これがわたしの話です』というのをちょっと考えてみます」と返していた。最後に坂元は、観客に向けてメッセージを伝えた。
坂元「こういうお話ですが、新しい社会や新しい学校など、いろんなところで新しい関係をつくる時に、この人に自分の言葉が届かないんじゃないかとか、上手く付き合っていけないんじゃないかとか、社会との関わりにおいて、人は“片思い”を持っていたりすると思うので。そういう方々の後押しになれたらいいなと思ってつくった面もたくさんあります。皆さんの勇気が出るような映画になれたら幸いです」
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