【世界の映画館めぐり】圧倒的な寺院群に驚き、街の散策が楽しい南インド・ティルチラパッリで良質ドラマ「Thiru.Manickam」を鑑賞
2025年3月16日 13:00

映画.comスタッフが日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は南インドのティルチラパッリの映画館を訪れました。
世界の映画館めぐり南インド編、最後の街はタミル・ナードゥ州のティルチラパッリです。ティルチラーパッリなど様々な表記があるようですが、現地では略してティルチーと呼ばれていました。チェンナイから南下し、フランスの香りを感じる街、ポンディシェリからの移動です。電車、高速バスが選択できましたが、あいにく良きタイミングの電車がなく、高速バスに乗ることに。とても素敵な街ですが、日本語情報がそれほど多くなかったので、これから訪問を考える方の参考になれば……と映画館情報の前に、筆者の旅の道のりを記します。

バスは深夜発。見知らぬ街での一人歩きはなるべく避けたいものです。世界のどこでも、もちろん日本でも悪い人間はいるものですが、筆者自身日本で何度も痴漢に遭いましたし、インドの女性の性的被害も頻繁にニュースになるので、用心のために黒いトップス、黒いカーゴパンツ、黒のストールと影武者のように気配を消したコーディネート、性別&国籍不明な謎の東アジア人ルックで行動していました。幸い、滞在中に一度も危ない目には遭いませんでしたが、北のラジャスタン州から避寒のために休暇を南インドで過ごしているという男性(良い方でした)にどこから来たのかと問われ、「日本です」と答えたら、「だから忍者のようなんだね!」と、見事に企みを見透かされました…。

バスとホテルは日本のサービスで言うところの楽天トラベルやじゃらんのような主に国内ユーザーをターゲットとしたインドの旅行サイト「MakeMyTrip」経由で予約しました。このサービスはSNS的機能もあり、ユーザーがインド各地、世界各国の様々な観光地での写真やコメントをシェアしており、それらを眺めるだけでも楽しく、アプリを起動するとあっという間に時間がたちます。

高速バスは日本と同様、いくつかの民営の会社が運営しており、私が選んだバスはすべてが寝台仕様でした。ポンディシェリ~ティルチー間は、約3時間程度、運賃は2500円くらいでした。座席は一人用と二人用があり、一人用を選択。二人用では家族やカップル、友人同士の利用が主でしょうが、同性同士の他人が一緒になることもあるようです。それにしても、スマホ一つで外国でも旅のあれこれをすべて自分で手配できるなんて、便利な世の中になりました。
高速バスは指定された乗り場で、ティルチー行きかを確かめ乗車。乗車時に名前を問われ、名簿に照らし合わせてチェックしてくれるので、ほぼほぼ間違いはないと思います。23時頃出発で、到着はAM1時過ぎ予定。車内は清潔で、クリーニング済みの毛布と枕、寝台をプライベート空間にできるカーテンが完備されています。道中トイレ休憩はなかったものの、ミネラルウォーターが配布され、音量を気にせずスマホで映像を見たり、音楽を聴く人、家族連れの子どもたちが声を上げたりと、静寂を求められる日本の夜のバスとは正反対でにぎやかだったので、心細さもなく楽しく快適な移動でした。ティルチーの先の街まで行くバスだったようで、乗務員さんは私が異国人の旅行者だとわかったからか、降車のタイミングで声をかけてくれたのも助かりました。

近年の円安傾向もあり、海外の長旅ではなるべく節約を心がけていますが、ここでは安全と快適さを求め、深夜の降車バスセンターからほど近く、さらにタクシーなどで移動しなくても済む、街では比較的高級なホテルに宿泊しました。翌日、美味しい南インド料理の朝食をいただき、街の中心部のホテルに移動します。

短距離移動に便利な、インドの三輪タクシーのほとんどのドライバーがナビ替わりに運転席正面にスマホを備え付けていますが、時々スマホを持っていないドライバーさんに声をかけられました。一度だけ、稼ぎが少なく買えないのかな?と不憫になる気持ちと、いや、この街の道がすべて頭にインプットされている超ベテランなのかも…という信頼心で乗ったら、コミュニケーションの問題もありやはりとんでもない場所に行ってしまうという予期せぬミステリーツアーとなったので、やはり短期旅行者は配車アプリ利用か、街角でドライバーたちを管理している親分的な人を見つけて、場所と金額をきちんと交渉するのが良さそうです。

早く映画館と映画の話題に移りたいところですが……このティルチラパッリは、かつてチョーラ王朝(8世紀~14世紀)の首都であったことから、観光地、そして巡礼の地として多くの見どころがあります。とりわけ有名なのが、スリランガムという街にあるインド最大級規模を誇るランガナータスワーミ寺院です。精巧な彫刻が施され、まるでウェス・アンダーソン映画に登場しそうな鮮やかなパステルカラーに彩られた寺院の屋根や巨大ゴープラム(ヒンズー寺院特有の塔門)に圧倒されます。また、ロックフォートと呼ばれる、なんと38億年前、世界で最も古い地層の一つと言われる巨大岩の上に建てられた寺院、そして、ヨーロッパの都市にありそうな立派なカトリック教会もあったりと、世界の寺院や教会建築が好きな方にはたまらない、歴史ある街です。


それらの施設にお参りに来る方も多いからか、市内は門前町のような活気ある下町のムードで、長いバザールが続き散策も楽しめます。衣料品の屋台でヴィジャイがプリントされたTシャツ(非公式グッズかもしれませんが…)、コンビニのような小さな商店で「プシュパ2」の広告入り紅茶を買いました。


また、こちらはタミル・ナードゥ州の米どころとして知られているそう。たまたま入った小さな食堂で食べたミールス(南インドの定食)が絶品で、滞在中2度も通ってしまいました。ヨーグルトも個包装のものが添えられていたので、衛生的にも安心です。1週間もインドにいると、だんだん手で食事するのにも慣れるものですね。そのほか、日本の牛丼店やラーメン屋的存在なのでしょう、お昼どきに労働者や制服姿の学生さんたちが列をなしている立ち食いビリヤニ屋も発見、Googleでも地元の方々から超高評価だったのでトライしてみました。立食で手食はインド初心者の私にはハイレベルすぎたので、テイクアウトにしましたが、ホテルに戻ってポンディシェリで調達してきたワインと合わせたら、こちらも脳内麻薬が溢れる美味しさ。ティルチーには高級店から庶民的な店までたくさんの選択肢があり、インド料理ファンは胃袋がいくつあっても足りなそうです……。

そして、いよいよこのコーナーのメインの映画館訪問です。今回は、市内のLA CINEMA MARISというシネコンに行くことに。フランス語学習者はLA?と一瞬戸惑うと思いますが、インドでは定冠詞ではなく何か別の意味を持つのかもしれませんし、ロサンゼルスの略かもしれません。こちらの劇場はネット販売に対応していたので、チケットと、座席指定、フードメニューをネットであらかじめ購入してみました。

LA CINEMAはシネコンチェーンで、90年代に建設されたというティルチーの施設は新しくはありませんが、4Kプロジェクションとドルビーアトモスサラウンドシステムを備えた6スクリーンを擁する大型施設です。チェンナイ、ポンディシェリで観た映画はテーマがヘビー、かつバイオレンス描写の多い激しい作品だったので、こちらではなんだかほんわか良作ムードのポスターに惹かれ、特にあらすじも読まず「Thiru.Manickam」(Nandha Periyasamy監督)という作品を選択しました。345.5ルピー(約586円)で、入場開始時刻まで館内に入れず、外の階段で座って待ちます。


館内は清潔でとても広いので、目当てのスクリーンに向かうのに、少し迷ってしまうほどでした。同時期に公開されていた「プシュパ2」はかなり大きなスクリーンで展開されていたようですが、「Thiru.Manickam」は100席程度の上映室で鑑賞しました。週末だったこともあり、こちらは家族連れが多く、地方都市の休日のシネコンならではの雰囲気を楽しみました。インターミッション中の売店は大盛況で、筆者はクリームパフとローズミルクというインドスイーツとドリンクのセットをオーダー。優しい甘さが美味でした。


映画は「RRR」にも出演したベテラン俳優、サムティラカニさんが主演です。宝くじ販売で家族を養う主人公のマニカムが、老人が落とした高額当選券から思わぬトラブルに巻き込まれるドラマです。ネタバレは伏せますが、とある人生の出来事をきっかけに、善行に徹した主人公の生き方が心を打つ物語でした。ということが、英語の字幕なしでもわかるほど、シンプルかつドラマチックな脚本と、俳優陣の演技力、豪華な音楽に引き込まれました。

貧困という社会問題がベースにありますが、重たくつらい描き方ではなく、サスペンスドラマのような展開と、家族をテーマとした心温まる良作で、「教科書的」という感想もあるようですが、真面目な日本人には好意的に受け取られる物語ではないでしょうか。そしてなぜか、さまざまな料理のシーンが非常においしそうに撮られており、機会があれば字幕付きで再見してみたいです。

3つの街で映画鑑賞と、大充実だった南インドの旅はこれでおしまいです。帰路、チェンナイまでは、国内LCCのIndiGoを利用しました。空港での手荷物チェックがかなり厳格ですが、価格や設備もほぼ日本のLCCと変わらず、また荷物預け入れも無料で快適でした。なお、ティルチラパッリ空港内の敷地に3輪タクシーは入れず、ゲートからかなりの距離を歩くことになるので、市内からの移動は普通のタクシーを利用するのが賢明です。

待合室で、私の前に座っていた裕福そうな一家のパパが、空港価格なのか日本円で1000円近くで売られていた日清シーフードヌードルを、3人の子どもたちに食べさせており、空腹とともに故郷を思い出します。最終日なのでお小遣いをほぼ使い果たした私、「お父さん、今だけ私を養女にしてもらえませんか…」と心の中で思わぬ邪念が沸いてしまいました笑。

そんな待合室で、時間つぶしに地元の新聞(英語版)に目を通していたら、映画コーナーを発見、インドのスターやハリウッド映画界のゴシップなども取り上げられていますが、英国アカデミー賞(BAFTA映画賞)ノミネート関連でインドの監督たちの世界での飛躍が大きく扱われていました。パヤル・カパーリヤー監督の「All We Imagine as Light」は昨年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞。審査員を務めた是枝裕和監督が絶賛し、東京国際映画祭にカパーリヤー監督を招待してのトークイベントが行われました。またサンディヤ・スリ監督による「サントーシュ」は昨年の東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞。スリ監督は、山形国際ドキュメンタリー映画祭を観客として訪れた際に観た作品に触発され、それから映画学校で学び作品の発表を始めたというキャリアの持ち主です。

二人はともに女性監督で、対面したわけではありませんが、ともに日本で開催されたイベントを取材したので、今度はこのような形で監督たちのさらなる活躍に触れられたことがうれしく、忘れがたいインドの映画旅の終わりとなりました。今年もエンタメ大作から、映画祭で注目を集める作家性の強い作品まで、日本でもたくさんの魅力的なインド映画に出合えることに期待したいです。
LA CINEMA公式HP(https://www.lacinema.co.in/)
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