ニューヨークでストリップダンサーとして生きるアノーラ。クラブでロシア人の御曹司イヴァンと出会い、彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルの報酬で「契約彼女」になり、二人は衝動的にラスベガスの教会で結婚。しかし、イヴァンの両親から結婚を反対され……自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘するアノーラの等身大の生きざまを描く、現代のシンデレラストーリーだ。
(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――パワー全開の映画ですが、撮影も思い切ったものでしたか?
マディソン:そうですね、エネルギー全開でゴールへ向かって突っ走りながら撮ったシーンもあれば、じっくり撮ったシーンもありました。
ベイカー:インディペンデント映画なので、時間が足りないのはつきもの。いつも慌ただしく、ゲリラ撮影手法も用いているので、現場はカオスになりがちです。でも、ぼくの映画はそもそもカオスだから、撮影手法と作風の相性は良いのかもしれません。
メイキング(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――適切なトーンについても意識しましたか?
ベイカー:トーンのバランスについては、最初から強く意識していました。脚本や撮影を含む制作のあらゆる段階で意識していて、どのようなトーンを用いるか、どこでトーンを変えていくかについて、キャストの間で意思統一を図る必要もありました。キャストのみんなは驚くほどの結束力を見せてくれ、どこで大袈裟に演じるべきか、どこでリアリティに根付かせるべきかを、まるで事前にしめし合わせていたかのように自然に演じてくれたので、非常に驚きました。特にシリアスなシチュエーションでも、絶妙な加減で笑いを誘う芝居をしてくれました。トーンのバランスは、この作品における最大の課題だったかもしれません。
(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――アノーラの役作りへのアプローチを教えてください。どのように人物像を解釈しましたか?
マディソン:アノーラは心に鎧をまとい、感情を強くガードしていいます。隙を見せたくないために、さまざまな気持ちを抑圧しているけど、実はとても脆く、痛みを抱えた人だと思いました。その攻撃性や虚勢の裏側にあるそうした内面が透けて見えるような演技をそれぞれのシーンでアニーがどのような心境にいるのかを常に意識していました。それは痛みを伴う旅でもあります。だからこそ、心の繊細な部分と、鎧をまとった部分、そして負けん気の強い部分の両方を表現できるように心がけたのです。
メイキング(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――監督から役作りの参考に映画を何本かすすめられたそうですね。
マディソン:ショーンは70年代の映画が好きみたいで、イタリアのセクスプロイテーション映画をたくさん勧められました。「ヴァンピロス・レスボス」や、日本の映画「
女囚701号 さそり」も。すごく気に入りました。フランス映画もいくつか見ましたね。それぞれの作品にそれぞれのエネルギーや雰囲気があって、ショーンに影響を与えた作品だろうし、私がキャラクターを演じる上でその作品もインスピレーションを与えてくれました。
海外映画祭での一コマ(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――演技力はさることながら監督との信頼関係も伺えます。お二人の出会いは?
マディソン:「企画案を聞いてもらいたい」ということでショーンからコーヒー・ミーティングの提案がありました。そこで、ショーンと彼のパートナーであり作品の共同プロデューサーでもあるサマンサ・クワンと3人で会うことになったのです。お二人の飼い犬2匹も同席してね。一通り話を聞いて、すぐにワクワクしましたし、そもそもショーンと組めることに大きな期待がありました。そのあと友人として、仕事仲間として関係性を築いていき、そこから1年後に撮影がスタートしたのです。
ベイカー:企画の話をした時に、マイキーがワクワクしている様子が伝わってきたので、すぐに信頼を寄せることができました。アノーラというキャラクターに対して徹底的に向き合い、準備をしてくれるだろうと確信できました。「ダイアレクト・コーチ(セリフの方言指導のコーチ)を雇い、ダンスレッスンも受けます。演じるために必要なことは何でもします」と言ってくれて、早い段階で覚悟を決めているのが分かりました。だからこそ、彼女に信頼をおくことができたのです。
メイキング(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Picturesマディソン:ロシアの舞台経験を持つ役者と組むのは初めてでした。ロシアの舞台演劇はスタニスラフスキーの理論がベースになっています。私はハリウッドのメソッド演技には馴染みがあるのだけど、本流のスタニスラフスキーとは少し異なる部分があるので、その違いを見ることができたのも興味深かったし、ユーリーもマークもひたむきで才能溢れる役者だと思います。2人とも繊細で、それぞれに独自の面白さを持ち合わせています。
マークにはエネルギッシュで若々しいフィジカルなユーモア、チャップリン的な魅力がある。ユーリーのユーモアはドライであとからじわじわくと効いてくるタイプ。対照的な2人だけど、どんなキャラクターもこなせるに違いないと思いました。ユーリーは撮影中いつも私を気遣ってくれたし、マークはいつも冗談を言って笑わせてくれた。これまで一緒に仕事をした中でも最も才能のある2人だと思います。
ベイカー:2人とも映画作りのメカニズムを熟知していました。カメラアングルや照明についてしっかり理解していて、編集も意識しながらテイクごとに繊細な工夫を凝らしてくれ、たくさんの提案もしてくれました。きっと刺激的なストーリーだったのでしょう、脚本からさまざまなアイデアが湧いたみたいで、それをさらに磨き上げてくれて。楽しいコラボレーションでしたね。
メイキング(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――アニーとイヴァンの出会いのシーンの撮影で印象深かったことは?
マディソン:クラブでの撮影はエネルギーが独特で大好きなロケ現場でした。アニーが職場で働く姿を表現するのは楽しかったです。2人が初めて言葉を交わす場面でアニーは後にあんな展開になるとは思ってもないし、イヴァンがいかに裕福かを知りませんし、観客がアニーと共にそれに気づくと思うとワクワクします。そして相手役としてマークは最高でした。
(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――マイキーの魅力について教えて下さい。
ベイカー:僕が考えるマイキーの魅力は、撮影開始までにリサーチを重ねアニーを真に理解してくれたこと。だから演技に深みがあります。彼女の演技のすごさは他にもあって、アニーは自立していて生きていくために抜け目ないうえ、ニューヨーク気質でケンカにも強いタフな女性。でもそれは表向きの顔にすぎない。自分を守るための上っ面なんだ。その下に本当の顔を隠し持っているけれど、それは最後になるまで明かされない。映画を通して徐々にアニーのことが見えてくる。つまり アニーに対する理解が深まっていく。それはマイキーの演技に深みが感じられるからこそだと思うし、キャラクターへの理解の深さ、とその表現力も彼女の素晴らしさだと思う。
――監督にこう言われていかがですか?
マディソン:うれしいです。監督との仕事は楽しく、素晴らしい共同作業でした。とても特別な経験だったので、監督に対しても特別な気持ちがあり、素晴らしい監督だと思います。
ベイカー:そういってもらえてうれしい。でも、少し照れくさいね(笑)。
(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures――これから映画を観る観客に期待してほしいポイントは?
ベイカー:この映画は非常に深刻でセンシティブな題材を扱っていると認識しています。同時に、映画はエンターテインメントであることも常に意識しています。ですから、観客にはとにかく楽しんでもらいたいですし、みなさんをワイルドな旅に誘いたいと心から思います。だから僕が望むのは、観客に楽しんでもらうのと同時に、映画が扱う題材について議論してもらうこと。その両方を願っています。
マディソン:何も期待せずに映画を観に行くのは、とても素敵なことだと思います。私は予告編をあまり見ないで映画を観に行きますが、それは、その方が興奮度が高まるから。だから、映画から何を感じ取るかは観客に委ねられているのだと常々思っていて。私が願うのは、監督も言うように映画を楽しんでもらうこと。キャラクターを楽しみ笑ってもらえるとうれしいし、会話、コミュニケーションのきっかけになればと思います。