浜野佐知、西川美和らが“女性映画監督の未来”を語り合う――横&縦のつながり、“作り続けること”の大切さ【第37回東京国際映画祭】
2024年11月5日 12:00
第37回東京国際映画祭の新設部門「ウィメンズ・エンパワーメント部門」のイベント「ウィメンズ・エンパワーメント シンポジウム:女性監督は歩き続ける」が11月4日、東京ミッドタウン日比谷 BASE Qで行われた。
同イベントは、女性映画人の躍進を支え続けた故髙野悦子氏が、ジェネラル・プロデューサーを務めた東京国際女性映画祭の功績を振り返り、切り拓かれた道を歩き続ける若手からベテランの女性監督たちが、これまでとこれからを語り合うシンポジウムと、「映画をつくる女性たち」の上映で構成。第四部「女性映画監督の未来」では熊谷博子、浜野佐知、松井久子、山﨑博子、佐藤嗣麻子、西川美和、岨手由貴子、ふくだももこ、金子由里奈、甲斐さやかが登壇。聞き手を映画文筆家・児玉美月氏が務めた。
まず児玉氏がテーマとして掲げたのは「横のつながり」だ。
浜野監督「私と山﨑さんは日本映画監督協会に在籍しているのですが、1女性監督がやっと7人になったという時代があったんです。せっかく7人に増えたのだから、互いが“点”でいるよりも“線”になろうということで女性会員だけが集う“七夕会”を設けました。それを何度か開催しているうちに、日本映画界のさまざまな部署に女性が増えてきているので、もっと大きな“面”にしようということで“女正月の会”を開催することになりました。これらを経験して『日本の女性映画人たちはつながれるんだ』と実感したんです」
25年開催された「女正月の会」だったが、コロナ禍で“中断”。しかし、浜野監督は「私たちはフィルム世代ですが、フィルムを知らないデジタル世代の若い女性監督たちもたくさん増えている。フィルムとデジタルでは、現場の作り方も製作手法も異なっていますから、もう一度女性監督たちがつながっていけるような形を、こういう映画祭を中心に持てたらいいなと思っています」と願いを込めた。
「女正月の会」をもう一度――。ふくだ監督から「西川さん、お願いします!」とふられた西川監督は「本当に考えたいと思います。まずはお花見とかやったらいいんじゃないかな」と提案。さらに「監督だけではなくて、スタッフとの“つながり”から救われることもすごくあって。これまでも女性のスタッフに悩みを共有して救われてきたこともあるので、垣根無く集まれる機会が生まれればいいなと思います」と語っていた。
一方、岨手監督が“横のつながり”としてあげたのは、全国のミニシアターの興行主、宣伝、配給の方々が集うコミュニティシネマ会議だ。
岨手監督「そこで初めて気づいたのは、監督だけをやっていると“現場”のことだけしか知らなかったということ。映画は循環しているんですよね。観客がいて、そこに向けた企画が立ち上がって、製作、仕上げ、宣伝、配給を経て、劇場があり、そこにお客さんが来る。その間にあるアーカイブも含めて、ものすごく色々な部署によって映画は支えられているということがわかりました。若い監督たちにも、そういう“知る機会”にぜひ立ち合ってほしいと思っています」
続けて、話題はそれぞれのロールモデルや後進育成に関する“縦のつながり”について。浜野監督が「映画監督は特殊な仕事だと思うんです。“ひとりで立つべき”孤独な職業。だから、私にはロールモデルはいません。後進の育成については、私たちの世代に若い監督を育てる力はないですよ。てめぇで頑張ってついてこいと(笑)。それに若い監督たちも誰かに育ててもらおうなんて、多分思っていないはず。自分を育てられるのは自分だけ」と語ると、金子監督は“監督は孤独”に紐づけて「(日本の)監督は、映画の前面に出てきてしまう側面があると思うんです。メディアとしての取り上げられ方も、監督だけが押し上げられるような感じも減っていけばいいのかなと感じています。たとえばプロデューサーや撮影監督のインタビューも増えていけばいいなと思っています」と意見を述べた。
「映画製作と子育て」という話題では、ふくだ監督が自らの経験を踏まえて、意見を述べた。
ふくだ家督「私は“子育て”だけをし続けることはできない人間だと自己分析しているんです。子育ては超しんどくて、これをやり続けている方々には全員国民栄誉賞を与えたいほど。映画を作っている時間がないと自分を保てなくなる瞬間がたくさんあります。(映画製作は)私が私として生きていくためでもあり、子どもが良く生きていくためのものでもある。それらをどうにか“つなげたい”。それができなかった時代があることはわかっていて、だからこそ女性監督はこんなにも少ないんだとも思います。でも、ここで私が子育てに専念してしまうと、また道が絶えていく。“やり続ける”ことでしか成せないものあるんだと思います」
「映画をつくる女性たち」を手掛けた熊谷監督は「自分が作った作品を見て、改めて思ったことは“作り続ける”ということがどれほど大変なことなのか、それをしみじみ感じています」と胸中を吐露。
熊谷監督「一度映画を作ることを目指した人間には、色々な苦境は訪れます。お金のことも、家庭のこともある。でも、皆それぞれに才能もあり、意志もあると思う。そういう人たちが“作り続けられる環境”をどう作っていくのか――それは私たちだけではだめなんです。ここにいる皆さんの協力が必要です」
共通質問として投げかけられたのは「“好きな映画”は?」というもの。「風と共に去りぬ」(熊谷監督)、「道(1954)」(山﨑監督)、「踊る大捜査線」(ふくだ監督)、「稲妻(1952)」(岨手監督)という旧作から、「ペペ」(金子監督)、「小さな私」(西川監督)、「春が来るまで」(甲斐監督)といった東京国際映画祭上映作品も飛び出し、浜野監督&佐藤監督は「自分の最新作が“一番好き”」という意見で共通していた。
また、イベントのラストには「action4cinema 日本版CNC設立を求める会」の一員として活動している西川監督、岨手監督から、来場者に配布された「制作現場のハラスメント防止ハンドブック」「育児サポート勉強会」の説明が行われた。
西川監督「映画界のハラスメントが問題になりました。現場でも準備中に講習を受けるという流れにはなっているのですが、実際に講習を受けようと思うと、数十万円のレクチャー費用がかかったりします。小規模作品の場合は、製作費からその費用を捻出するのが難しい――。(ハンドブックは)どんな人にもわかりやすい文章を心掛け、数ページ台本に刷り込むだけで“身近に”“恒常的に”スタッフ全員に行きわたるというものを目指したものとなっています。製作現場を健全化し、働きやすいものにしていくために作ったものですので、是非皆さんも目にしていただき、製作関係者の方がいれば勧めていただければと思っています」
岨手監督「育児サポート勉強会は誰が中心というわけではなく、さまざまな部署のスタッフが集まって、定期的に行っているものです。俳優部、制作部、プロデューサーなど色々な人が参加しています。情報共有で解決することもあったり、悩みを“言葉”として語ることで楽になることもたくさんあります。女性に限らず、男性の参加者もいますので、興味のある方は是非ご参加いただきたいと思います」
「制作現場のハラスメント防止ハンドブック」は、「action4cinema 日本版CNC設立を求める会」の公式HPから閲覧可能。第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。
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