綾瀬はるか、読み終えた脚本の最後に書き残したメッセージの真意【「ルート29」インタビュー】
2024年11月3日 18:00
女優・綾瀬はるかが、「こちらあみ子」で鮮烈な長編監督デビューを果たした森井勇佑監督の新作「ルート29」に主演し、新境地開拓といえる姿を披露している。唯一無二の世界観で描かれる今作を経て、綾瀬はいま何を思うのか――。
「こちらあみ子」で第27回新藤兼人賞金賞に輝いた森井監督が次作の題材に選んだのが、中尾太一の詩集「ルート29、解放」。同書にインスピレーションを受けた、独創的なストーリーのロードムービーに仕立てて撮りあげた。
綾瀬はオファーを受けた際、1年弱にわたり映画やドラマの仕事を休んでいたという。主演を引き受けるに至った心の移ろいは、どのような揺らぎがあったのだろうか。
「『次の作品は、縁を感じるものや運命を感じるものをやりたい』とずっと思っていました。そうして今回のお話をいただいたのですが、台本を読んだらすごく優しい時間が流れていて、自然と涙が流れていました。自分自身、1年弱ものあいだ作品に入らなかったのは初めてのことでしたが、この作品なら気負わずスッと入っていけそうな気がして。加えて、森井勇佑監督の前作『こちらあみ子』が大好きだったので、(あみ子役の)大沢一菜ちゃんに会ってみたいという気持ちもあり、やってみようと思いました」
他人と必要以上のコミュニケーションを取ることができない孤独な女性・のり子は、鳥取で清掃員として働いている。ある日、仕事で訪れた病院の入院患者・理映子から「娘のハルを連れてきてほしい」と頼まれ、何かに突き動かされるように姫路へ向かう。やがて見つけたハルは風変わりな女の子で、初対面ののり子に「トンボ」というあだ名をつける。のり子とハルは姫路と鳥取を結ぶ国道29号線を進むなかで、さまざまな人たちと出会いながら互いの絆を深め、からっぽだったのり子の心は喜びや悲しみの感情で満たされていく。
脚本を読み、涙を流したという綾瀬だが、どの部分が心の琴線に触れたのか聞いてみた。
「のり子は誰かと交わることもなく、自分の生活を淡々と生きている人。過去に何かがあったのか、積極的に人とつながりを持とうとはしていません。それを心のどこかで寂しく思う気持ちもあったのかなと。だからこそハルとの旅を通して、初めてさまざまな“感情”をもらい、心が明るくなっていくんです。台本を読み終わった後、最後のページに『のり子、ハルに出会えてよかったね』と感想を書いてしまうほど、自然と物語に入り込んでいって……。読めば読むほど毎回大好きになる不思議な台本でしたね」
感想を書き込んでしまうほどの思いを抱いた脚本を執筆した森井監督は、綾瀬と同年生まれ。第37回東京国際映画祭のガラ・セレクションに出品されて登壇した舞台挨拶では、森井監督について「だいたい監督は自分よりも年上の方が多いのですが、世代が同じなので、より一緒に作っているという安心感がありました」と語っていた。綾瀬が森井監督に信頼を置くのには、世代が同じだからというだけではない理由がある。
「私は森井監督がかけてくださる“言葉”がすごく好きで、言われた言葉はメモをとって、忘れないようにしようと思いました。たとえば『のり子の中には“宇宙”があって、そのおかげで心が満たされている豊かな人なんです』というお話や、演出してくださる時の『心に隙間がある感じでお願いします』という表現も印象に残っています。
監督の中で撮りたい画がしっかりあって、テストをせずにすぐに本番なのも新鮮でしたね。いざカメラが回る時にも『自分が感じたら始めてください』と、まるでドキュメンタリーのようにその時に生まれた生々しさを大切にされているというか、私たちの心の機微やひだを大事にしてくださる気持ちが嬉しかったですね。だから私も『ここでセリフを言おう』と頭で考えるのではなく、言葉を発するタイミングすらも“宇宙”に委ねたいと思いながら演じていました」
テストをせずにすぐ本番…という現場だったが、スタッフたちからはピリピリとは真逆の、常に優しい空気が流れていたという。
「スタッフさんがみんな優しくて、フワーっとしている感じでした。撮影中は、物語同様に優しい時間がずっと流れていて、いらいらしたり急かせかしたりする瞬間がなかったです。一菜ちゃんとスタッフさんの掛け合いを見ていても、“親戚のおじさんたちが夏休みに集まっている時間”に見えるほど(笑)、穏やかな時間を過ごしていました。みんなそれぞれ自分の“宇宙”を持って集まっている現場でしたね」
共演した大沢と、いかに対峙したかも聞かねばならない。森井監督が「こちらあみ子」に続いて起用したのにも、それだけの理由があるのだと本編を観ればうなずかされる。
「第一印象は『あ、あみ子だ! 本物がいる!』(笑)。最初は目を合わせても、下を向いてしまうぐらいシャイで恥ずかしがり屋さんなところがあり、それはそれでその姿が愛おしかったんですが、気づいたらちょっとずつ、ちょっとずつ近くに来てくれた感じがありました。雨に濡れるシーンの撮影の後、『大丈夫? 風邪ひいちゃダメだから』とふいに大人っぽいことを言うなど優しくて気遣いのできる人。『かっこいい!』と思わずキュンとしてしまう瞬間がたくさんありました。
それに、どの表情も絵になるので、ずっと追っていたい監督の気持ちがすごくわかる。私もカメラマンさんなら『もうちょっと撮らせて!』と粘ってしまうだろうなって(笑)。何かを掴む力もとても早いし、かといって余計なものを纏っていなく、発する言葉一つ一つがシンプルだけど優しくて面白くて真髄をついている。誰よりも大人かもしれない一菜ちゃんを見ていてこちらも学ぶことが多かったですし、本当に魅力的でした」
森井監督が作り上げた世界観の中で、綾瀬がのり子(トンボ)として生きていることに大きな意義を感じる。綾瀬にとっても語り尽くすことが困難であろう、今作の魅力を問うてみた。
「ハルをはじめ、出会う人々が不思議で魅力的な人ばかりで、生きているのか生きていないのかがわからない。映像のかわいらしさも相まって、観終わった後に『生きるっていいな』と勇気をもらえる映画だと思います。一方で、生と死の境目を曖昧にすることで『死ぬことを怖がることもない』という不思議な感覚になる瞬間がありました。みんなひとつに繋がっている感じもあって、温かい気持ちになれます。一見ファンタジーな物語だけど、生きることと死ぬことや、ひとりぼっちの女性が心を開いていく過程など、誰しもが共感できる普遍的なテーマを描いている作品だと思います」
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ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
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