菅田将暉が発した“観客の目を引く曖昧さ” 黒沢清監督と初タッグ、改めて芽生えた映画への愛
2024年9月28日 11:00
憎悪の連鎖から生まれる“集団狂気”を描いたサスペンス・スリラー「Cloud クラウド」(公開中)。同作の撮影現場では“10年ぶりの再会”が実現している。
黒沢清監督と菅田将暉。初対面は、菅田の主演作「共喰い」(青山真治監督)で参加した2013年・第66回ロカルノ国際映画祭。2022年、57歳の若さで亡くなった青山監督から紹介された時以来だった。
そんな2人が“監督&主演”として初タッグを組む。完成した作品では“黒沢清成分”を存分に摂取することができ、そして“俳優・菅田将暉”の魅力を再発見することが可能だ。
“10年ぶりの再会”によって生まれた異様な野心作。黒沢監督と菅田に充実の撮影を振り返ってもらった。(取材・文/映画.com編集部 岡田寛司、撮影/間庭裕基)
やりたがっていましたよね、青山は菅田さんともう一度――。多分、青山が予想していたよりも、菅田さんはどんどんと売れっ子になっていき、さまざまなものに出ていかれた。青山の発想が追いつけなかったんでしょうね。
そして“観客の目を引く曖昧さ”できちんと演じる。これが物凄い力だなと思いました。下手な俳優がただ曖昧に演じてみると、単にわけのわからない、印象に残らない“希薄な人”になっていきますから。
「いいよ」という返事ひとつをとっても、それが本当に良いのかどうかわからない。喜んでいるのか、困っているのか。「一体、どっちなんだろう」というクエスチョンが残るような曖昧さを的確に出してくれていました。そんな“曖昧”な吉井が、生きるか、死ぬかという曖昧では済まされない状況に陥ってしまう。これが「Cloud クラウド」の大きな流れになっていて、菅田さんの演技に導かれ、観客もいつの間に極限状態を味わうことになるでしょう。
あとやっぱり“怖さ”。わかりやすく痛い&苦しいという映画はたくさんありますが、黒沢作品の“怖さ”は、ある種の心地よい刺激みたいなものがあって……ファンタジーなのか、現実なのか本当にわからなくなるという印象もあるんです。
そもそも“見えていない”方が怖いんですよ。実は“見えている”方が嘘っぽかったりする。画面の奥の方で相当ひどいことをやっているけど、そこが暗がりになっている。だから、何が行われているのかははっきりとは見えないので、これは(映倫の)基準には引っかからない。映倫の人もわかっていると思いますよ。「あ、これはひどい事をしているな」と。でも、基準はクリアしていますからね(笑)。
普通の社会システムの中では、なかなかうまく生きることができない。少しは悪いことではあるけど、懸命に生きているという姿がなかなか健気で――でも、どこかビクビクしている部分が、 非常に現代的だなと思いました。「いつかこういう人を主人公にしたい」と考えましたね。“真面目な悪者”とでもいえばいいんでしょうか。遊び半分にやっているわけではない部分には、とても好感を覚えたので、いつか使いたいと思っていたんです。
吉井に関しては、少し不遜で、ほんの少しリスペクトが足りないイメージ。そのチューニングをやりすぎない程度に行っていました。自分はもっとこういう生活を送りたい、そんな中でも転売の仕事が少し上手くいき始めたので、そっちの方に脳みそが引っ張られながら喋っているような感じと言えばいいんでしょうか。
吉井は、ある意味“真面目”なんだと思うんです。スパッと悪態をつくことができない人物。それが出来ないからこそ、より強い恨みをかってしまう。もしすんなりと悪態をつけるような人間だったら、“あんな事”にはなっていないと思います。
良々さんが家を訪ねてくるシーンがあるのですが、あそこはコワおもしろかったです。いや、やっぱり怖いかな……。インターホンを鳴らすという展開があるんですが、良々さん、1回多く鳴らしているんです。
あとは芝居面で言えば、やっぱりく黒沢さんの演出手法はすごかった。演じる側としても新鮮で、全ての演出に納得感があるんです。理屈をつけて組み立てていくわけではなく、 画の中の動きから始めて、そこに自然と気持ちが乗っかっていく。偶然性をしっかりと必然的に作ってるような感じで、そこが演者としては気持ちが良かったです。
やっぱり気持ちだけで芝居を作ろうとすると、自分の引き出しの範疇から出られない場合があるんです。想像できる範囲というのは、自分の人生や経験からでしかないので。でも、まずは“動き”に徹してみることで、それが広がっていく。その結果、表現も豊かになるというのは学びになりました。やっぱり伝えすぎなくてもいいんだなと。それが“お客さんを信じる”ことにも繋がっていくんですから。
執筆者紹介
岡田寛司 (おかだ・ひろし)
映画.com編集部員。1987年生まれ、千葉県出身。舞台挨拶、現場取材、インタビューなどを担当。プライベートでは、脚本を書くこともあります
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