ジュリアン・ムーアのターニングポイントになった作品は? 【最新作「メイ・ディセンバー ゆれる真実」インタビュー】
2024年7月12日 10:00
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「キャロル」のトッド・ヘインズ最新作「メイ・ディセンバー ゆれる真実」が、7月12日から公開された。本作は、90年代に起きた13歳少年と36歳女性のスキャンダル=メイ・ディセンバー事件”の真相を、さまざまな角度から見つめる心理ドラマ。事件の当事者であるグレイシーを演じたジュリアン・ムーアがオンライン取材に応じ、本作の役柄について、また、自身のターニングポイントになった作品を語った。
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23年前、当時36歳の女性グレイシーは、23歳年下の13歳の少年ジョーと運命的な恋に落ちるが、2人の関係は大きなスキャンダルとなり、連日タブロイド紙を賑わせる。グレイシーは未成年と関係をもったことで罪に問われて服役し、獄中でジョーとの間にできた子どもを出産。出所後に晴れて2人は結婚する。
それから20年以上の月日が流れ、いまだ嫌がらせを受けることがあっても、なにごともなかったかのように幸せに過ごすグレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)。そんな2人を題材にした映画が製作されることになり、グレイシー役を演じるハリウッド女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が、役作りのリサーチのために彼らの近くにやってくる。エリザベスの執拗な観察と質問により、夫婦は自らの過去とあらためて向き合うことになり、同時に役になり切ろうとするエリザベスも夫婦の深い沼へと落ちていく。
撮影後に初めて脚本家のサミー・バーチさんに会えた時、彼女の文章が複雑そうに見えて、とてもシンプルであるとお伝えしました。非常に無駄なく、美しく書かれているのです。一方、撮影中に私たちが感じたのは、この作品が非常に力強い作品だということです。多くの感情が含まれています。非常に衝撃的なものもあり、私たち全員とても驚かされました。そして、信じられないくらいシンプルで、ある家庭内で起こる出来事なのですが、アイデンティティー、道徳観、倫理上の罪、家族構造など、大きなテーマも同時に描かれているのです。それらは私自身、関心があり、心動かされる事柄ばかりで、そのすべてがこの美しい脚本に詰まっていることに惹かれました。
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ナタリーのことは大好きです。彼女とは顔見知り程度の仲でしたが、いつも彼女に感心していましたし、彼女の作品が大好きでご一緒できることがとても嬉しかったのですが、彼女がどんな感じなのか分からずにいました。ナタリーはすぐに、信じられないくらい心を開いてくれました。温かい人で、チャーミングで、相手をしてくれて、準備万端でした。
ですが問題は、(撮影のために)すぐさま関係性を作り上げないといけないことでした。リハーサルの時間がありませんでしたし、話し合う時間もあまりありませんでした。なので、私は自分の行動や話し方に、彼女がすぐさま真似できるような特徴を持つ必要がありました。
面白かったのは、私がグレイシーのふるまいをナタリーに示すようなシーンで、観客の方たちも観て分かるように、彼女はそのふるまいをエリザベスとして真似し始めました。最初にそれを行ったのは、ドレスショップで娘の服を選ぶシーンです。私は足を組んだり、身体を前に傾けたり、腕を組んだりしたのですが、目の端でナタリーが同じように動くのが見えました。楽しかったですし、一緒にこのようなシーンができたことが喜びでした。その後はナタリーが私の声の出し方を会得し始めて、それも面白かったです。私たちふたりとも楽しんでいたと思います。
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グレイシーが恋に落ちて不倫をして、前の結婚に終止符を打ったことが彼女にとってどういう意味を持つのか考えました。また、彼女の物語の中で、彼女はお姫様であり、王子様に救い出してもらう存在なのです。グレイシーはこの物語を繰り返し話しますよね。自分がどれほど無垢で、幼く、温室育ちで、自分を救ってくれたこの王子様は13歳だったのだと。彼女の中では、彼女が“子ども”でジョーが“大人の男”なのだと観客は気づきます。ジョーのほうが経験豊富な男性なのだと。
つまり、彼女の人生は彼女に対して、「経験してはいけない」「権力を持ってはいけない」「自立してはいけない」と語っているわけです。彼女は兄弟や父親や夫など、自分を支配してきた存在について話しますよね。彼女はこういった昔ながらの発想を信じているわけです。そういうわけで、自分のことを非常に女性らしくそして子どもらしく見せています。
そこで私は、非常に頑固で、道徳的に一線を越え、そして世界中に自分を子どものように見せている女性を表現したいと思いました。とても女性的なジェスチャー、とてもガーリッシュな服装、それから話し方……そういったことをトッド・ヘインズ監督と話しました。それから、ナタリーが真似することができる具体的なものも必要だと思うとも伝えました。そこで私は「これはどう?」と舌足らずな子どもっぽい話し方をトッドに提案しました。このようにしてグレイシーは生まれたのです。
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分からないですね、難しいんです。だって、脚本を読むまでどんなキャラクターか分からないでしょ? 脚本を読んでから、「この役をやりたい」って思います。私はいつもオリジナル作品に惹かれるのと、リアルな女性像、生きている女性についての物語に心を動かされます。逆に、冒険のような物語にはまったく心惹かれません。なぜかは分からないのですが。例えば、山登りをする役とか。時にはそういった話が来ることもありますが、山なんか登らないわよって(笑)。そういった身体的なものには全然惹かれないですね。
私が心惹かれるのは、観る側の立場であっても、感情的なものです。昨夜、旦那と何年も前に起こったタホー湖付近の雪崩のドキュメンタリーを観ました。ストーリー自体は雪崩の話というわけではなく、雪崩から40年後にこの雪崩に関係していた人たちにインタビューをするというものでした。雪崩が彼らの生活にどんな影響を残したのか、お互いの関係性はどう変化したのかについてのストーリーです。亡くなった方、彼氏を失った方、親友を亡くした方、また、彼らの両親に電話で話を聞いたり……。つまり、自然災害についての映画を観る時であっても、私たちは人間関係について見ているのです。昔起こったことが彼らの関係を作り変えてしまう。これが、私がいつも興味感心を持っていることです。
何がその人を作り上げているのか、他人とどのようにコミュニケーションをとっているか、どんな人と結婚するのか、なぜ結婚してないのか、なぜある事柄中心の生活を送っているのか。そういった人間らしいことにいつも一番心を打たれます。
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20代の頃に舞台とテレビでキャリアをスタートさせたので、最初は自分が映画でキャリアを築くことになるとは思っていなかったです。それが30代初めに、3本の映画が同時期に公開されました――トッド・ヘインズの「SAFE」、ルイ・マルの「42丁目のワーニャ」、ロバート・アルトマンの「ショートカッツ」。それまでは映画のキャリアなど全くなかった、全く知られていない私が、この3本の映画が公開されたことにより、突然状況が変わって、この3本は私にとって大きなターニングポイントになりました。自分にとっても驚きでしたし、この変化が、トッド、ルイ、ロバートという3人のアーティスティックな監督の作品によるものだったことを、とても光栄に感じています。
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