【「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」評論】深く、濃く、やわらかく、優しい。ノスタルジックな魅力溢れる人間讃歌
2024年6月23日 14:00
かつてウィスキーの広告で、「深く、こく、やわらかい」というキャッチコピーがあったが、この映画はまさにそんな言葉を彷彿させる。優しく、じわじわと温まる心地良い美酒のような効果。いきなりお酒の広告を思い出したのは、本作の主人公ポール(ポール・ジアマッティ)が酒好きで、さまざまな場面でアルコールが小道具の役割を果たしているからだ。
舞台は1970年、雪の積もるボストン近郊の全寮制男子校。クリスマス休暇を前にした最終日、親たちが子供を迎えに来るなか、何人かの「訳あり」学生たちが、置いてけぼりをくらう。やがてそのなかでも、母親が再婚したばかりのアンガス(驚きの新星、ドミニク・セッサ)だけが帰る場所を失い、冬休み中、学校に残る羽目に。彼の見張り役を任されたのは、生徒にも教師にも疎まれている、気難し屋の教師ポール。そんなでこぼこコンビに、息子をベトナム戦争で亡くしたばかりの料理長メアリー(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)が加わり、3人の奇妙な休暇が始まるなか、お互いの秘密が明らかになっていく。
キャット・スティーブンス、ザ・オールマン・ブラザーズ・バンド、バッドフィンガーなどの、1960年代末から70年代の音楽がふんだんに使われ、「フィルム的なルック」に加工したレトロな雰囲気がなんともいえない郷愁を誘う。1961年生まれのアレクサンダー・ペイン監督は、70年代のアメリカン・ニュー・シネマを観て育ったそうで、たしかにこの時代への甘みなノスタルジーが溢れている。否、甘みなだけではない。ベトナム戦争という時代的な背景や、その暗い影響ものぞく。
だがそれでも、この監督が主眼を置くのは政治的なテーマではなく、あくまで人間関係にある。それぞれ辛い事情を背負った人間たちが、ぶつかり合い、反発しながら、意識的にも無意識的にも他人のクッションとなることで支え合い、お互い少しだけ気持ちが楽になっていく。
友だちのいない独身男のポールは、「ひとりが好きなんだ」と嘯くが、クリスマスをたったひとりで過ごしたい人などどこに居るだろう。一方、聡明だが問題児で過去に退学を繰り返してきたアンガスは、休暇中にさまざまな大人に出会うことで、外の世界を知る。
「サイドウェイ」(2004)以来のペイン監督とジアマッティの再会を祝す本作は、アンガスのイニシエーションの物語であり、同時に、ポールの成長物語でもある。「人間はいつでも変われる」というポジティブなメッセージを通して、「素晴らしき哉、人生」を謳うのだ。ペインの尊敬するフランク・キャプラ監督のように。
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