黒沢清監督が選んだ“本当に恐ろしい”フランス映画上映、O・アサイヤス監督と対話 「蛇の道」との共通点は…
2024年6月12日 19:00
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フランスの芸術文化勲章オフィシエを受章した黒沢清監督が、1998年に発表した同タイトルの自作を、フランスでセルフリメイクした「蛇の道」の公開を記念し、6月11日、黒沢監督のお気に入りのフランス映画の1本だというオリビエ・アサイヤス監督の「パーソナル・ショッパー」上映会が東京日仏学院で行われた。上映後は黒沢監督がオンライン登場したアサイヤス監督と互いの作品について語り合った。
クリステン・スチュワート主演、第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞した「パーソナル・ショッパー」は、双子の兄を亡くし、霊媒の力を持つ主人公が、パリでセレブの買い物代行業で生計を立てる中、不思議な現象に遭遇する物語。
黒沢監督は本作を「本当に恐ろしい映画。幽霊との遭遇という現象をここまで真面目に、本格的に描いた映画は映画史上初めてではないでしょうか」と絶賛し、「日本映画ではホラー映画として扱われず、この映画の怖さがまともに語られていなかったのが残念だった。今日はフランス映画を1本上映できるとのことだったので、この作品を選びました」と上映作選出の理由を挙げる。
「幽霊が出てくる映画は古今東西たくさんありますが、この映画ほど死んだ人間と生きた人間がコンタクトしながら断絶しているのを描いた作品はなかったのではないでしょうか。ホラー映画というジャンルかどうかも断定できません。そういったジャンルから出てしまった映画とも言えます」と説明する。
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主人公が、死んだ兄に会いたくてコンタクトを待っているという設定に言及し、「実際兄らしき霊が接触してくるが、こういう設定はノスタルジックだったり、ファンタジーな映画になることが多い。かつて僕が撮った『岸辺の旅』はそのような映画だった。本当に会いたかった兄の例が接近してきたら、主人公はどうしようもなく怖い、ここがぐっとホラー映画に接近する。どんなに親しい人間的付き合いがあっても、いったん幽霊になってもその遭遇は怖い、それがこの映画の肝」と強調。
さらに「こういう幽霊映画は一方で、主人公の妄想かもしれないという余地を作ったりしますが、この映画は本当に幽霊とわかるのが本当に怖い。妄想ではない、客観的事実であると、ああいう表現を使う勇気に頭が下がる思いです」とアサイヤス監督の幽霊の表現を称える。
そして、「なぜ幽霊は怖いのかはとても難しい疑問。おそらくかつて生きていた人間、家族のように親しくても、いったん死を経験すると何かが大きく変容してしまう。そのことを受け入れなければいけない。そのことがこの映画から受け取れる考察。この映画は幽霊との遭遇を描きながらも、死とは何だという壮大なテーマがあると考えています」とホラーやサスペンスの体を取りながらも、人間の深淵なテーマが描かれていると主張した。
黒沢監督の友人であり、「蛇の道」原案、Jホラーの代表作として知られる「リング」(中田秀夫監督)の脚本を担当した高橋洋氏に鑑賞を勧めたそうで、「彼は古今東西の幽霊に通じているのですが、この映画を見ていなかったので勧めたら、『やられた!』とつぶやいていました。こんな恐ろしい映画を作ってくださってありがとうございました」と貴重な逸話も披露した。
本作についてアサイヤス監督は、当初のアイディアは、現実的な物語だったと告白。「パリで満足ではない仕事をしながら自分を見失った若い女性が自分のアイデンティティを見つける中で、芸術や精神世界に近づいていく。そこでヒルマ・アフ・クリントを紹介できると思った。彼女の絵から、交霊術、この映画は見えない世界とのつながりに移っていった」と、抽象的絵画の先駆者として知られ、神秘主義者のスウェーデンの女性画家の存在が大きかったと明かす。
黒沢監督と同様、ジャンル映画として、アメリカ映画から影響を受けているという一方で、「目に見えないものは悪、というように、不可視なものにかかわるアメリカ映画は機械的。しかし我々は見えない物は不可思議であり判別不能だが、私たちに恩恵を与えるものという態度で作りました。私自身見えないものに親しみを感じて、信じています。目に見えない存在に囲われていると信じているので、黒沢さんの映画が好きなのです」と語った。
幽霊という見えないものをテーマにした二人のトークは盛り上がり、話題は撮影方法やその意図、主演スチュワートの俳優という枠を超えた仕事についてなど広範囲に及んだ。
生きている人間の世界と死んだ人間の世界を描く本作をアサイヤス監督は「この映画は喪に服する映画。自分に向き合うと同時に亡くなってしまった人を考える時間です。彼女の心の旅路に寄り添うものの、その旅先にあるもの、死者の世界の扉を開けるのかも、心の中の問題です。喪に服するのは自分の内面の冒険の時間だと思うのです」と結論付ける。

そして、「同じことを黒沢監督の『蛇の道』に感じました。ホラーやアクションなどジャンル映画の形を取りながらも、喪の映画だと思ったのです。人間の最も根源的な、子を失ったことの悲しみ。復讐と同時に、それが一人の感情から二人の感情に発展していくところが素晴らしいと思いました」と黒沢監督の最新作との共通点を挙げる。
黒沢監督は、「僕は、フランスで生まれ、生活している方々の心の深いところは撮れないと思いました。ジャンルの規則にのっとった映画だったらできると思って、『蛇の道』を撮りました。娘が死んで喪に服している二人の物語、復讐は現代社会では犯罪です。主人公二人は娘の喪に服しつつ、犯罪者になっていきます。ハッピーな映画にはならず、普通の人間が犯罪者になる映画としました」と解説する。
両作は、女性の孤独や欲望を描いている点でも共通しており、「『蛇の道』も『パーソナル・ショッパー』も孤独な立場にいる女性が、異国にいてますます孤独に追い詰められていく。自分とは何者か、という自己の旅から見出した自分と折り合いを付けなくてはいけない。『パーソナル・ショッパー』はホラー映画の枠組みを使って、自己探求という深いテーマを扱えたと思った」と黒沢監督。
アサイヤス監督は「ジャンル映画は非リアリスト映画だから、ある種の人の心に触れ、入り込めるわけです」と黒沢監督の意見に同調する。
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両監督は同年齢で多ジャンルを手掛けている、という点でも共通点があり、「日本で自分で似たスタンスで撮っている監督は正直誰もいません。もちろん素晴らしい監督はいます。でもフランスには何人かいて、その一人がアサイヤス監督。世界に仲間がいるとわかるだけで勇気づけられました」と黒沢監督がコメントすると、アサイヤス監督は「最初に見た『CURE』から、記憶に刻まれ、黒沢さんの映画を尊敬しています。『パーソナル・ショッパー』は既に、私の手を離れ、映画自身が行くべき道をたどっています。これに黒沢清が出会って、想像した通りのことを仰ってくれたことに感動しています」と心を通わせ、互いの活躍にエールを送った。
黒沢監督がフランスで撮影した最新作「蛇の道」は6月14日に公開。
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