【インタビュー】田中泯、俳優業は「全て偶然」 世界配信「フクロウと呼ばれた男」では、暗躍する大物フィクサー役

2024年4月25日 14:00


演じるのは、「何かの偶然や運命のいたずらで、自分もひょっとしたら、こんな人間になっていたかもしれないな」と思う役
演じるのは、「何かの偶然や運命のいたずらで、自分もひょっとしたら、こんな人間になっていたかもしれないな」と思う役

国際的なダンサー、舞踊家であり、現在では俳優として、日本の映画・ドラマ界でも圧倒的な存在感を放つ田中泯が、ディズニープラス「スター」のオリジナルドラマシリーズ「フクロウと呼ばれた男」(4月24日から配信中)に主演。国家の裏側やタブーに切り込む社会派政治ドラマで、あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、時にもみ消し、時に明るみに出して解決してきた国家の黒幕、“フクロウ”こと大神龍太郎を演じている。

大物フィクサーとして暗躍するという謎多き人物に、いかにしてアプローチしたのか? また、“遅咲き”の俳優デビューを飾った当時の心境や、出演作を決める際に大切にしていることなどについて話を聞いた。俳優業は「全て偶然」。そう語る田中のキャリアの一端を感じ取ってもらえれば幸いだ。(取材・文・写真/内田涼)


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●子どもの頃から「世の中っておかしいな」と常に思っていた

――ずばり、大神龍太郎とはどんな人物なのでしょうか?

田中泯(以下略):彼には彼なりの正義感みたいなものがあって、フィクサーという立場を選んだのだと思いますね。その正義感というのは、恐らく彼が感じる社会や人間関係、それに経済ですね。そういういろんな事柄に対する感受性の問題なのかな。単なる思想という風に片付けるのは、ちょっと違うかなと思いますね。

――メイン演出を手がける森義隆監督は、「龍太郎という人物の根幹は、政治と社会への強烈な憤り」だとおっしゃっています。

そうかもしれないですね。僕自身もやっぱり、子どもの頃から「世の中っておかしいな」「大人って嘘つきだな」とか、常に思ってきた人間なので、龍太郎という人物もまた、「あぁ、この人もそうなのか」と。共感じゃないですけど、そういう部分は自分に近い感覚がありますね。役柄そのものは、フィクサーですから、芸術の世界で前衛的な活動をしてきた自分とは、かけ離れているのかもしれませんが。

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――このドラマを見ていると、社会が抱える矛盾や違和感。それと同じくらい自分の無力さのようなものも感じてしまいます。

そうですよね。普通に誰もが「いまの世の中、このままでいいんだ」と思っているとしたらーー、変ですよね。でも、じゃあ、「誰が正してくれるんだろう」ということもあるし、「自分は不満を言っているだけのひとりなのか」とか、それはずーっと変わらず、恐らく人類が社会を作り始めてから続いているクエスチョンなのかもしれないし、ずーっと、その矛盾を抱えながら、続いているのが、社会というものなのかもしれないし。

格差なんか、その典型ですね。それも資本というものに、ある種の価値観を譲ってしまったというか。お金がない人たちに、そのしわ寄せが行ってしまうだとか、仕組みそのものに問題があるのかもしれないしね。政治家が変わったところで、それを変えられるのかなという問題もあるし。答えは出ないですね。

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――その上で、大神龍太郎という人物に、どのように命を吹き込んだのか、教えてください。

それはどんな役もそうなんですけど、「この人はどんな日常を送っているんだろう?」とか、それと人との接し方とかね。そういった部分に、どんな特徴があるんだろうか。その人物を僕なりに引き寄せていくための工夫というのは、けっこうしているんですね。

役づくりという言葉が当てはまるのかどうか分からないんだけど(笑)、空想することが好きですし、「じゃあ、どんな格好して歩いているのかな?」とか、背中が曲がってくる年齢に差し掛かった人だから、「じゃあ、背中を伸ばすのはどんなタイミングなのかな?」とか。そんなことを自然と考えるようになるんですね。すると、その人がしゃべる内容だったり、クセみたいなものも思いついたり。それからしゃべる癖だとか。そんなことも日常的に考えるようになるんですよね。面白い作業ですよ。


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●「たそがれ清兵衛」で俳優デビュー 当時は「これで演技はやめよう」とも

――長年、ダンサー、舞踊家としてご活躍されて、現在では声優・朗読も含めると、映画だけでも「たそがれ清兵衛」(2002)を皮切りに、出演作品の数は優に40を超えていらっしゃいます。

声をかけていただき、じゃあ試してみますと「たそがれ清兵衛」に出演したのが、僕が57歳の時ですから。若い頃から、俳優さんになりたいと思って、生きてきたわけじゃなくて。無我夢中で踊りをやってきて、57歳にもなったときに、映画に出てみないかと言われて始めた仕事ですから。「俳優というのは、どんな役でもこなせて初めて俳優だ」と言われたこともあったけど、僕からしてみたら、もうそんなのとんでもない、とんでもない(笑)。昔の人にしてみれば、晩年といえる年齢で、俳優の“ひよっこ”になったわけで、そんなこと言ってられないでしょ。だから、自分はどんな役でも演じられるとは思っていません。

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――私も含めて、「田中泯さんが出演を決めた作品だから、きっと面白いはずだ」と期待するファンはたくさんいます。ご自身が、出演作を選ぶ際の基準や、出演作に対して期待することを教えてください。

そうですね。先ほども言いましたが、どんな役でも器用に演じられるわけではない。でも、役柄に対して「何かの偶然や運命のいたずらで、自分もひょっとしたら、こんな人間になっていたかもしれないな」って。そう思える役なら演じてみようと決めているんですね。例えば、「メゾン・ド・ヒミコ」(05)とかね。そういった意味では、お断りする仕事もけっこう多いです。

僕らの仕事は、全て偶然のおかげで、いまこうしていられるわけで、偶然の組み立て違いで、どうなっていたかわからないですからね。(天を指さしながら)そもそも、あの両親のもとで生まれたというのも偶然なんですから。僕が選んで生まれてきたわけじゃないでしょ(笑)。

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――作品との出合い、監督や共演者との出会いもまた“偶然”の産物と言えるかもしれません。

全くその通りだと思いますね。「あぁ、あの監督とお仕事できるんだ、うれしいなぁ」ってね。それに、もしも初めての出演映画が「たそがれ清兵衛」じゃなければ、いまの僕は、一体どうなっていたかなと思いますね。だから、僕はすごく運が良かったですね。ちょっと休憩していると、山田洋次監督がそばに来て、いろんな話をしてくださったり。映画ならではの共同作業というか、みんなで作っていくことに感動した覚えがあります。

でもね、当時は「これで演技はやめよう」と思っていて、ずっとやろうとは思ってなかったんですけど。何となく、ひとつ、ふたつ、三つと重ねていくうちに、「あぁ、これは面白いことになるんじゃないかな」と思い始めて。だから「作品が楽しみだ」と言ってもらえるのは、本当にうれしいし、ありがたいことなんです。


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●街を歩いていても、気付かれず? 「ファミレスで食事もしていますよ」

――最近では、坂本龍一さんが全曲を書き下ろした舞台「RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI『TIME』」の東京公演を終えたばかり。この作品はオランダ、台湾での公演を経て、日本初上演が実現しました。また、ご出演したヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」は、日本で生まれ、いまや世界中の観客を魅了しています。“作品とともに、旅をしている”。そんな感覚がありますよね。

PERFECT DAYS」は、いま80カ国くらいで(配給が)決まっていると聞いていて。まあ、若い頃から、世界中を旅していて、当時からいろんな映画監督にも出会っているんですよね。ヴィムもそのひとりで、日本へ来て「PERFECT DAYS」のキャスティングしているときも「そういえば、田中泯はまだ踊っているか?」って。それで会いたいということになり、出演することになりました。

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――作品や人が時間をかけて、世界を旅するのとは対照的に、「フクロウと呼ばれた男」はディズニープラスで世界同時に配信されることになっています。どんなことを期待しますか?

いやーー、わかんない(笑)! たくさんの国の人たちが、一斉に見るわけでしょ? 一体、どうなるんですかね。そういう意味では、僕はすごく楽しみにしているんです。「フクロウと呼ばれた男」という作品は、何と言うか、すごく特殊な出来ばえだと思っているので、国や文化によっても、受け取られ方がかなり違ってくるんじゃないかな。どんな反応が待っているのか、興味はあるけど、想像はできないですね。

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――“俳優”田中泯さんの魅力を、ますます多くの人が知ることになるのは確かだと思います!

でもね、普段、街を歩いていても、全く気付かれないですよ(笑)。ファミレスで食事もしていますよ。でも、声をかけられることは、ほとんどないなぁ。きっと、演技しているときの田中泯という人物は、別人なんですよ。ただ、不思議なことに、子どもには気付かれる。きっと、何かを見抜いているんですね。

フクロウと呼ばれた男」(全10話)は、デビッド・シン(「時をかける愛」)がエグゼクティブ・プロデューサーと脚本を務め、森義隆(「宇宙兄弟」)、石井裕也(「舟を編む」)、松本優作(「Winny」)が演出を担う。1~5話が4月24日、6・7話が5月1日、8~10話が5月8日に、ディズニープラスの「スター」で独占配信。

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