日本映画史上初の70mm映画「釈迦」の復元にむけて――背景や課題、作業の過程を国立映画アーカイブ研究員が語る【3月20日に調査報告会を開催】
2024年3月18日 18:00
国立映画アーカイブと京都文化博物館などの共催による企画「[報告と上映]日本初70mm映画『釈迦』の復元にむけた調査報告会」が、3月20日の13時30分~18時に、京都府京都文化博物館(3階:フィルムシアター)で行われる。
日本映画史上初の70mm映画として重要な作品「釈迦」(1961年、大映、監督:三隅研次)。同作は、オリジナルのスーパーテクニラマ70方式では現在鑑賞することができなくなっている。「釈迦」本来の芸術表現、技術とはどういうものだったのだろうか。
それらの復元にむけた、文献資料やオリジナル・ネガを含めた現存フィルムの調査報告会が開催されることになった。京都府京都文化博物館所蔵35mmシネマスコープ版「釈迦」のスクリーンでの鑑賞と各報告を通して、映画の魅力と共に、映画芸術・技術、映画の歴史、映画復元への理解を深める機会となる。
映画.comでは、国立映画アーカイブ主任研究員・冨田美香氏に話をうかがった。復元の経緯や課題、フィルム調査の詳細について明かしてもらった。
日本映画史上初の70mm映画「釈迦」(1961年、大映、三隅研次)の復元について考え始めたのは10年程前ですね。当時は、70mm映画を上映・鑑賞できる施設を国内に復活させたいという気持ちが強かったので、もしもそういう上映が出来るようになった暁には、やっぱり70mmで見ることが出来なくなっている「釈迦」を、本来のスーパーテクニラマ70版で復元できたらいいなあ、と漠然と思ったんです。「釈迦」は公開当時から賛否両論ありますし、復元できるような素材があるかどうかもわからなかったので、おぼろげな夢というか、大きな野望?にちかいものでした。
具体的に考え始めたのは国立映画アーカイブで、2017年に「デルス・ウザーラ」、2018年に「2001年宇宙の旅」を、70mmで上映し終えたときですね。やっぱりこの2本の70mmの鑑賞体験にはとても衝撃を受けて、それまで何度も見ていた作品とは、映像も音質も違う、没入感も受ける感情も違う、これが本来の姿だったのか!という驚きでしたから、だったら「釈迦」も、本来の70mm、6本トラックで鑑賞できるようにしたいという気持ちが強くなりました。
大映京都が総力を挙げて製作した「釈迦」は、日本映画初の6本マグネティックサウンドで、その年の映画技術賞を、たとえば毎日映画コンクールの録音賞や、映画テレビ技術協会の日本映画技術賞特別賞を撮影、照明、特殊技術、美術、録音で受賞しているんです。それらは35mmのシネマスコープやTVモニターやPCモニターでは味わえないですよね。
早速、復元に向けて株式会社KADOKAWAさん、株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスさん、Audio Mechanics社の宮野起さんに相談して、現存するオリジナル・ネガや音素材の状態を教えていただきました。結論としては、いろいろ課題はあるけれど、技術的に復元できる可能性はあるだろう、と。とはいえ、課題は大きくて、具体的には、オリジナル・ネガの物理的な劣化が進んでいること、また、ネガにフェイド・アウト/フェイド・インの情報が無く、70mm用のタイミングデータも見つからないため、音合わせや色合わせが難しいということ。これは結構深刻ですね。
サウンドも、4トラックのマスターが劣化しているため、利用可能な素材は1991年にマスターから複製したテープになるであろうこと。その複製したテープの状態も気になります。現像関係の機材についても、公開当時はロンドンのテクニカラー・ラボでプリントを作製したのですが、現在ではもうネガから直接プリントすることは機材状況から難しく、可能なレンズも調査中、とのこと。また、とても大きな問題は復元のための資金ですが、その問題は検討しつつも、なによりもまずはこれらの技術的な課題をクリアするために必要な調査を進めることにしました。具体的には、現存するフィルムのネガ、ポジなどの検査と文献調査です。
復元にむけたフィルムの検査・調査については、宮野さんに紹介いただいてエイドリアン・ウッドさんの力をお借りしました。オリンピック記録映画の復元プロジェクトを行った映画復元の専門家のエイドリアンさんと、2019年からコロナ禍の時期をはさんでコツコツと、一巻ずつ手作業で、現存する35mmシネマスコープ版の上映用プリントから、35mmのマスターポジ、デュープ・ネガ、そして35mmで横走り8パーフォレーションのオリジナル・ネガの検査・調査を行いました。
当時の文献を調べると、すべてロンドンのテクニカラー・ラボで現像されているのですが、70mmはイーストマンフィルムの普通の現像方式で、35mmはテクニカラー・インビビション(IB/捺染方式)で作られていて、この「釈迦」35mmが“日本映画初”のテクニカラーIBプリントのようなんですね。これを見た時は感動しました。なぜテクニカラー・ラボだったかというと、「釈迦」はスタンリー・キューブリックの「スパルタカス」(1960年)と同じスーパーテクニラマ70方式で、通常の撮影や映写はフィルムを縦に走らせるのですが、この方式は横に走らせて1コマを8パーフォレーションという通常の2倍のサイズで記録するのです。テクニカラー・ラボでは、その横に並んでいる一コマずつを、上映用の縦に走るフィルムに一コマずつ、それも1分間20フィート(1フィートは30.48cm)のスピードで焼き付けることができるんです。
また、ネガに手を触れることなく、自由にコマを抜くこともできて、例えばナイフで人が6、7回刺されるシーンも、検閲などでひっかかってカットしなければならないときに、ネガをカットせずに、刺すコマを焼かずに飛ばすことで、刺す回数を減らすことが自在にできる、ということなんですね。ですから、フェイド・アウト/フェイド・インや、ディゾルブなども、プリンターの操作でやっていたため、ネガにはその情報がないんです。
6トラックのサウンドは、制作時から大変な課題だったのですが、中でも製作者にとって大きな問題は、6トラックで仕上げてもそのサウンドを各劇場できちんと再生できるのか、ということでした。配線やスピーカーの位置、ボリュームなど、当時はドルビー導入の前でしたから、音の再生環境は不統一だったということでしょう。ただこの問題は、当時の劇場のスピーカー配置と今の劇場とは違うので、音の復元の大きな課題になっています。
これらの調査についての報告会を、3月20日に、「釈迦」が作られた京都で開催します。京都文化博物館は大映京都とゆかりが深く、所蔵の35mm「釈迦」も大映京都が所蔵していたプリントです。そのプリントで「釈迦」をスクリーンで鑑賞し、今回の報告も出来ること、とても嬉しく思います。「釈迦」をはじめ映画の歴史や映画復元の裏側にふれる機会として、ご来場ください。
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