今年のコンペティション部門への応募数は昨年の倍以上となる29の国と地域、49作品から集まり12本がノミネート。そのほか、高畑勲 監督の長編全作品上映、湯浅政明 監督の短編特集上映、「機動戦士ガンダム 」シリーズの富野由悠季 監督の来場、片渕須直監督が制作中の最新作「つるばみ色のなぎ子たち 」の一端を語るトークイベントなど、豪華プログラムが予定されている。
また、本映画祭開催期間中の3月16日、17日にはトークイベントやアニソンライブ、声優ワークショップやコスプレイヤー向け<コスプレガタケット>など、NIAFFとはまた違った切り口でアニメ文化を体感できるイベントで、今年で14回目となる「がたふぇす」が開催される。さらに、音楽、食、アート、テクノロジー、ファッションにさらにアニメカルチャーをMIXし、海外でも人気が高まるナイトマーケット「古町夜市」も開催され、多くのアニメファンが交差する場所となることだろう。
第2回新潟国際アニメーション映画祭は3月15日~20日開催、チケットは絶賛発売中。公式HP(https://niaff.net)でのクレジットカード決済、または上映会場にて現金でも購入可能(※一部例外もあり)。チケット販売、プログラム、会場など詳細は公式HP、SNSで随時告知する。
※がたフェス公式サイト(https://niigata-animemangafes.com/)、古町夜市公式サイト(https://furumachiyoichi.com/)
――審査委員長のお話が来たときにはどのように思いましたか?
今回初めて日本を訪れ、新潟に行き、新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)の一端を担うことになる、とわかったとき、とても興奮しました。知り合いや尊敬する人たち、例えばGKIDSの
エリック・ベックマン (Eric Beckman)氏から本映画祭の噂を耳にしており、重要な映画祭に急成長しつつあると聞いていたので。もう「YES、お引き受けします」と答えるしかないですよね。(笑)
そして自分が審査員長になると知って。他の審査員には
マイケル・フクシマ 氏もいらっしゃる。長年にわたるカナダ国立映画庁を通じての彼の作品づくりはリスペクトしていますし、アヌシー国際アニメーション映画祭でも何回もお会いしているので、同じ審査員仲間として再会できるのをとても楽しみにしています。
もう一人の審査員は
齋藤優一郎 氏。彼をとても尊敬していますし、スタジオ地図もすばらしい会社。「
竜とそばかすの姫 」でカートゥーン・サルーンは少し仕事をさせてもらったんですが、とても光栄なことでした。「
未来のミライ 」も大好きです。今回ご一緒するのは、またとない機会だと感じています。
そして何よりも素晴らしい映画を観ることができ、また映画について語ることができるのですから。まさに「アメイジング!(本当にすごいこと)」ですよね。
――今回長編コンペティションでは29の国と地域、49作品という、まさに世界中から作品が集まりました。12作のノミネート作品に期待することは?どのような点を評価したいと思っていらっしゃいますか?
コンペティションには実に多彩で見事な作品が日本やブラジル、タイ、フランス、スイス、スペインなど世界中から選ばれています。私もネットで見られるものを少しずつ見ているのですが、審査員として審査するのは難しくなるだろう、と覚悟しています。なぜなら一本一本、まったく異なりますし、監督・アニメーター・脚本家・スタジオが各々の情熱を傾けた企画を、各々独自の手法で映像化しているのですから。NIAFFのような映画祭がユニークで素晴らしいところは、こうした様々な語り口の物語を集めてきて、観客へ届けているところ。またこうして映画祭に集められたアニメーションによって、私たちはこれまでと違う形で世界を見る目を養うことができるのです。異なる視点や角度から描かれた世界を見ることができるわけですから。今、世界中で様々なことが起きていて、我々が直面している問題も多いわけで、そういった現在の世界状況を考えると、これらのアニメーション作品群は希望を与えてくれる存在ですね。作り手は独特の手法で映像化しながら、作品を通じて共感する・理解する心を私たちに教えてくれるのです。それは本当にすばらしいことです。
審査員としては、ストーリーテリングにおけるビジョンの明確化、つまり思い描いていることがクリアに表現されているか、に着目します。自分が熱意を込めたストーリーがわかりやすく表現されているか、ですね。それがとても重要だと考えています。私が尊敬する映画製作者はアニメーションであれ、実写であれ、皆、自分自身のクリアなビジョンを持っています。ものすごい熱量を持ってつくられており、見た後もずっと心に残ります。見た後すぐに忘れるような作品はそういう作品だったということ。心に残る作品は、あなたとずっと共にいて一緒に人生を歩んでくれるコンパニオン(仲間)になります。そういった特別な存在となるような映画、審査員仲間たち全員の心に響く作品を選出していきたいです。ノミネーションのラインナップを今パソコン画面で見ているのですが、本当に見事な作品ばかりです。これは…おそらく白熱した議論が展開すると思います。(笑)
――今回初来日と伺いました。どんなことをしたいですか?
私は歩くのが大好きなので新潟の街を散策したいです。アニメーターとしては、たくさん歩いて運動することは大切ですし。(笑)よく自分の作業机を立って、地元であるキルケニー(カートゥーン・サルーンのスタジオがあるアイルランドの街)を散歩しているので、楽しみにしています。新潟には観光名所もたくさんありますがそうした場所だけではなく、ふつうの道を歩いて行ってどういう人たちがいて、どういう場所なのかを知りたいのです。そこにいるだけで雰囲気が伝わってきますから。人々やいろんなお店を見てまわったり、あとは地元の和食を味わいたいですね。(笑)和食が大好きなので、楽しみです。
他にはやはりいろんな人に会って映画祭を楽しむこと。そしてアニメーションを学ぶ学生さんたちと会うこと。昨年アヌシーでは日本人プロデューサーの方たちと会って話をしたのですが、私たちとまったく同じような悩みを口にしていました。これだけ離れた場所にいるのに、悩みはどこも同じなんだな、と感じました。アニメーションの未来について、スタジオにどうやって才能を引っ張ってくるのか、どうやって自分たちが本当に作りたいものを作り続けていくのか、独自の個性を持った監督をどうやってサポートしていくのか…日本、アイルランド、アメリカ、どこにいようと、こうした問題は私たち全員にとってとても重要なことなんです。
あとは、時間があるかどうかはわからないのですが、1800年代末に生きたアイルランド系兼ギリシア系に生まれ、日本人となったストーリーテラーであるラフカディオ・ハーン(
小泉八雲 )の記念館を訪れたいです。彼はどういう人生を送ったのか、どのように物語を集め、ストーリーテラーの重要性を確立したのか、集めた物語を後世に残すためにどんなことをしたのか、などなど。彼の記念館を訪れたいのですが、時間があるかどうか…とにかく、日本を堪能しながら、彼のことを想像したいです。ハーンのようなストーリーテリングを大事にしてきた人は日本でもそうですが、アイルランドでもとても尊敬されていて、ウォーターフォードというここから遠くないところに彼を記念した日本庭園があるんですよ。何冊か彼の本を日本へ持って行こうかと。そして彼の目にはどう映っていたんだろう、といろいろ思い描いてみたい。
――ノラさんは日本のアニメーションに対してどのような印象をお持ちでしょうか?
実は私がアニメーションを勉強しはじめた当初は、そんなに日本のアニメのことを意識してなかったんです。昔から絵を描くこと自体は好きだったのですが、キャリアとしてアニメーターの道がある、アニメーターになれるという選択肢があるとは思いもしなかったので。アニメーションにもあまり触れてこないまま成長してきて、学生時代、あるいはアニメーターとしてキャリアをスタートした時点で初めて日本のアニメーションの存在に気づいたのです。正直、とても勇気づけられました。日本のアニメーションはあらゆる層の人たちへ向けてつくられており、若年層向けからホラーもあれば、ティーン向けや複雑なストーリーテリングまで様々なジャンルがあるでしょう?「
AKIRA 」や「攻殻機動隊」、「
火垂るの墓 」などのフィルムを見たとき、ちょうど自分が監督として、より大人向けの内容を作品で扱いたい、特に自分の短編アニメーション作品に取り入れたい、ともがいていた時期だったんです。ここ西洋においては「アニメーションって子供向けでしょ?」という固定概念があったため、皆わかってくれないんじゃないかと不安でした。そんな中、日本のアニメーションを見ていると、「大丈夫、ちゃんとわかってくれるだろう」という希望がわいてきました。
今では「
君たちはどう生きるか 」がアメリカの興行で大成功を納めていますが、それはここアイルランドやイギリスでも同様です。本当にアニメにとって旬な時期、世界的にアニメの時代になったと感じています。観客の年齢層も若い女の子だったり、ティーンエイジャー、そこからどんどん上にいって、20代30代まで本当に幅広い。私より若いカートゥーン・サルーンのスタッフの多くがアニメを見て育った世代なので、とにかくみんなアニメが大好き。そういった状況でアニメを劇場などで観られるというのは最高にすばらしいと思います。
そしてそれは日本国内だけでなく、世界中のインディーズ系アニメーション作家やアニメーターにとっても喜ばしいことです。観客層が拡大することで人々の想像力が膨らみ、もっと複雑なストーリーテリングをアニメーションで観たい、という欲求も同時に生まれてくるからです。そういった意味では、今ほどアニメーションに携わる人間にとって恵まれた時期はないのではないかと思います。
――ノラ監督がアニメーション業界に入られたきっかけはなんだったのでしょうか?
小さい頃から絵を描くのが好きでした。10歳くらいになると普通は皆描くのをやめてしまうのですが、私は描き続けていて。絵を描くという行為は自分のまわりの世界を理解するためのものでもあったんですね。教科書などにちょっとしたストーリーを描いていました。はじまり、半ばのシーン、そして結末までちゃんとありました。そうやって自分の想像力に任せて描くのが好きでした。ただ、それで生活できるとは思ってはいなくて…キャリアとしての道があるとは。そのうち学校に通うのが耐えられなくなり、15歳のとき退学しました。また学生身分に戻るまでには数年かかりましたが、そこでアニメーションと出会いました。キャリアとしての道が開けているのだということがわかり、飛び込んだのです。大学ではトム・ムーアやポール・ヤングなど、カートゥーン・サルーンで今も一緒に仕事をしている仲間たちと出会って。毎日自分の好きなことを仕事にできて食べていける。なんてすばらしいことなんだろうと思いました。
ただ、必ずしもはじめから順風満帆ではなくて。カートゥーン・サルーンは今年設立から25年目になるのですが、当初私たちはたくさんのことを急ピッチで学ばなければなりませんでした。私たちはアニメーターであるのと同時にビジネスパーソンでもあり、監督、プロデューサー役などをこなしながら、会社を運営していかなければなりませんでした。アニメーション業界では、いい時期もあれば悪い時期もあります。例え嵐のような状況に見舞われても、そこをなんとかこれまで乗り切ってこれました。そうした経験は本当にいい勉強になりましたし、今もまだ勉強中の身です。一緒に働いている人たちや、出会う人たちからいろいろと学んでいます。
NIAFFのような映画祭の利点は、他の業界プロフェッショナルと交流できることにあります。世界中の映画祭やマーケット(見本市)に参加していると、業界が困難な時期に入っても助けてくれる人脈ができてきます。自分と同じような経験を持ち、頼れる人たちが世界中に散らばっている、というのはとてもプラスに働きます。NIAFFに業界のプロたちが集まる意義にはそういった側面があります。
――新潟国際映画祭はこれからのクリエイター育成も重要視しています。これからアニメーション業界を目指す方々に、アドバイスを送るとしたらどのようなことでしょうか?
NIAFFのような映画祭やイベントを見つけることです。自分と同じように業界入りしたばかりの人たちと出会えます。これからのキャリアの中で仲間となり、生涯の友人となる人たちです。私も大学で出会った人たちと今でも一緒に働いています。映画祭で知り合った人たちも同様で、NIAFF審査員の
マイケル・フクシマ 氏もそんな一人です。
生涯の友となり、困った時には助けてくれて、アドバイスをくれたり人を紹介してくれたりします。何ものにも代え難い存在。そういった人たちと直に会うことができる、またとない機会となるので、積極的に映画祭や見本市に赴き、そこでいろんな人と会う。これはネット上でも同様です。昨今ではこうしたことはとても大事です。それが業界に入ったばかりの人に対しての私のアドバイスになります。
もしアニメーターや監督、脚本家、ストーリーボーダー(絵コンテ)などの専門職志望であれば、上手い下手関係なくたくさん絵を描くことです。他の人のアイディアなど、ひっきりなしに情報を浴びている状態が現代の毎日です。絵を描くことにより、脳の働きをペースダウンすることができるため、より自分自身のことを理解できますし、どのように自分がまわりの世界を認識しているのかもわかります。とにかく毎日描くことをお勧めします。別に他の人に見せなくたってよいのです。博物館の展示ではないのですし、映画として完成させて人の目に晒されるわけでもなく。自分自身がどういうプロセスで描いているのかがわかればよいのです。よりよいストーリーテラーになるために。
この二つが業界に入ってこれから始めようとしている人に対しての私からの最大のアドバイスです。
――絵を描くことと、ストーリーテリングとが密接に繋がっている、というのが非常に興味深いです。
本当にそうなんです。アニメーションというのは、視覚的に語りかけてくるメディアなので。脚本家の方たちと話をすると、全員が脚本内の「書かれた文章」や「会話」について語ります。一方、アニメーション監督はあえて余白を残そうとするんです。無音・沈黙であるとか、劇伴曲が入るようにだとか、他のストーリーテリングの要素が入り込める余地を…それがアニメーションのすばらしいところ。先にも言ったように監督が完璧な絵を描く必要はありません。ただ、そういった余白や間合いをとる、ということは必要です。
余白のあるストーリーやフィルムの方が観客がより近づいてきてくれるんです。監督の声がいつも100%隙間なく鳴り響いているのではなく、観客が近くに寄ってこれるだけのスペースを空けておく。観客はそういった隙間を自らの経験や見出した共通点で埋めていってくれるのです。私たちの心にずっと残り続ける作品というのはそういうものだと思います。
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