イ・ビョンホン&パク・ソジュンへの“オーダー”は? 「コンクリート・ユートピア」監督が語る製作秘話
2024年1月13日 17:00
第48回トロント国際映画祭では「『パラサイト 半地下の家族』に続く傑作」(Screen Daily)と高評価を獲得し、第96回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品にも選出された「コンクリート・ユートピア」(公開中)。同作は、未曾有の大災害で唯一残ったマンションを舞台に、狂気をはらんだ人間模様を描いた作品だ。
イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンらが集った本作を完成させたのは、「隠された時間」でも知られる新鋭オム・テファ監督。映画.comでは、オフィシャルインタビューを入手。お気に入りのシーンに加え、イ・ビョンホン&パク・ソジュンへの“オーダー”、“観客に伝えたいこと”を明かしている。
【「コンクリート・ユートピア」あらすじ】
●お気に入りはヨンタクの“歌” 住民が踊る様子は「まるで地獄図のような印象」
個人的には、ヨンタクが歌うシーンが一番好きです。
ヨンタクが歌う曲は韓国で「アパート」というタイトルで昔流行っていたのですが、ヨンタクが歌い、過去の回想に入ってそこから現在に戻るシーンがあります。実はそのシーンの撮影の時、何テイクかしたものの、実際に作品で使ったシーンはテストで回したカットを使用しました。ヨンタク自身の想いが揺れるのですが、テストなのでそのカットも揺れていて、過去の回想シーンと繋げてみると、それが自然に繋がっていてとても良かったです。
また、ヨンタクが歌うシーンで、アパートの住民が踊っているのですが、それがまるで地獄図のような印象があり、ヨンタクの内面を見せているような感じがしてすごく好きです。
やはり映画というのは思いもよらないところで失敗や苦労をしますが、それが逆に作品に使われることで、自分はこうやって映画を作って生きていくのだろうなと快感を覚えました。
また、最後までこだわったのは、一つや二つのシーンではなく、全体的なCGです。クオリティを高めるために、粘りました。撮影が終わった後も自分自身で各地域に行き、アスファルトに書かれている案内文や看板の写真を撮影してきて参考にするなど、かなりディテールにこだわりました。
●“ラブロマンス映画の職人”は「台本で書かれている以上のことをやってくれた」
パク・ソジュンさんもパク・ボヨンさんも「コンクリート・ユートピア」に出る前から、それぞれ“ラブロマンス映画の職人”と呼ばれるほどそのジャンルに強い方達でした。周囲から、そのような呼び名のある2人はいつか何かの作品で共演するだろうと期待されていました。
もちろん本作はラブロマンス映画ではないですが、2人ともすごく素晴らしい役者さんでしたので、こうしてくださいというディレクションは無くとも、2人のお芝居で自然に夫婦の演技ができたと思いますし、台本で書かれている以上のことをやってくれました。
●イ・ビョンホンの提案「ギャップをさらに大きくしよう」
シナリオ上、かなり変貌するキャラクターとして描かれており、ギャップが大きいキャラクターなので大丈夫か心配していましたが、逆にイ・ビョンホンさんがこのギャップをさらに大きくしようと提案してくれました。
監督として、このように大きく変化していくキャラクターを2時間のうちに表現できるか悩んだ結果、台本にはないシーンを一つ追加しました。それは、ヨンタクが大災害によって廃墟になっているアパートの風景を見るシーンです。この一つのシーンでヨンタクの心境の変化やこれから変貌していくことをきちんと表現できるか少し心配していましたが、イ・ビョンホンさんのお芝居を見ると、その心配は一切無くなりました。
●前半は寓話や風刺のようなブラックコメディ 後半はスリラーテイスト 観客に伝えたいことは?
作品を通してメッセージを伝えるというのも大事ですが、そのメッセージを伝えるためには、まずは面白くないといけないと思いました。前半は寓話や風刺のようなブラックコメディのトーンを持っているのですが、後半はルールを作った中心にいるヨンタクという人物を通してスリラーのようなジャンルに変えました。そうすることで予想もしなかった面白さが出ると思いました。それを通してお客さんに「これから話はどういう風に進むんだろう」と思ってもらえるような面白さを加えたかったです。
この作品は何かの答えや教訓を与える映画ではないと思います。この映画を観たお客さんには、疑問を持って家に帰って欲しいなと思いました。答えや教訓ではなく、それぞれの生き方によって結論を出せるような、疑問そのものを持ってもらえればと思います。