ありがとう&さようなら、首里劇場 更地になっても残る金城政則館長の思い
2023年12月27日 20:00

表の世界遺産が「首里城」なら、裏の世界遺産は「首里劇場」だ――。誰が言い出したか定かではないが、戦後沖縄の空気をタイムカプセルのように詰め込んで、現代によみがえらせたような映画館があった。「首里劇場」の独特のたたずまいは何ものにも代えがたい風格があったが、残念ながら映画館を切り盛りしていた金城政則館長の急逝により2022年4月に休館。後継者もいない中、それでも歴史的に貴重な建物を保存するべきだという機運も高まっていたが、今年10月から建物の取り壊しが決定。首里劇場を紹介する際に使用していた“沖縄で現存する最古の映画館”という呼称も、もう使えなくなった。(取材・文/壬生智裕)

首里劇場の特集が掲載された雑誌「オキナワグラフ」2021年10月号や、當間早志氏、平良竜次氏による著書「沖縄まぼろし映画館」などによると、沖縄県那覇市首里で営業してきた首里劇場が開館したのは、沖縄県が日本に返還される前。戦禍の傷痕が色濃く残っていた1950年9月21日のこと。実はそれ以前も、屋根のない露天の沖縄芝居劇場として営業していたが、屋根付きの劇場として改築し、「首里劇場」との命名で営業をはじめたのは50年からだった。当時は沖縄芝居や映画の一般興行のほか、学校の文化祭や各種芸能コンクールの会場としても使用されてきたという。


劇場の舞台裏には、巡業で各地をまわる芝居一座が寝泊まりできるよう、炊事場も完備。舞台裏には、当時使っていたと思われる炊事場の跡や、開館当時に掲示されていたと思われる看板広告なども残されており、往年の息吹を感じ取ることができた。
首里劇場の歴史は、そのまま戦後映画界の盛衰と重なっている。首里劇場がオープンした50年代前後は映画黄金期にあたり、映画が庶民の娯楽の中心だった。もちろん首里劇場もプログラムの中心を映画が占めていた。だが60年代に入ると庶民の娯楽にテレビが入り込み、映画が斜陽産業になっていく。だが一方でピンク映画、成人映画などが注目を集めるようになり、70年代に入ったあたりから、首里劇場も成人映画を中心としたプログラムにシフト。当初は大勢の観客が劇場に詰めかけたというが、80年に入ると個人で楽しめる成人向けビデオが登場することとなり、次第に客足も先細っていった。そんな中、2002年に3代目となる金城政則さんが、父と叔父が守り続けた映画館を引き継ぎ、館長に就任した。経費削減のため、プログラム選出からもぎり、上映、館内清掃に至るまで、ひとりで切り盛りし、運営を続けた。

実際に首里劇場に足を運んだことがある人ならお分かりだと思うが、館内は老朽化が進んで古びてはいるものの、内装は手入れが行き届いており、不快な感じはしない。さすがにトイレは年季の入ったつくりとなっていたが、それさえも井戸水でこまめに清掃を行い、きれいにしようとしていた金城館長の姿をしばしば見かけたことがある。
また金城館長は、柔道、空手の心得があったということもあり、映画そっちのけで他の観客に迷惑をかけるような不埒な輩が入場した場合は、毅然とした態度で追い出して治安を維持していた。成人映画館と言いながらも安心して映画を観ることができる環境づくりを心がけていたため、非常に居心地のいい空間だった。余談だが、普段の金城館長は写真を撮る際はいつも、ファイティングポーズか、金城館長オリジナルの決めポーズ「琉球ハブ拳法!」を決めていたが、若き日を知る地元の空手師範の方の話によると「金城さんは本当に強かった」とのことで、周囲からも一目置かれていたようだ。

さらに余談であるが、映画館の館長と呼ばれる人はほとんどがそうだが、金城館長もまた無類の映画好きであった。東宝の喜劇映画や、東映のヤクザ映画などについて語る時の非常に楽しそうな顔は忘れられない。また、ピンク映画の名匠、荒木太郎監督が全国のピンク映画館を舞台に描き出した「映画館シリーズ」を上映した後などは、映画館愛あふれる映画の内容に感激した筆者の顔を見て、「良かったでしょ」とうれしそうに笑いながら、劇場の自動販売機からさんぴん茶を2本購入。「持ってけ」とごちそうしてくれたことを思い出す。

14年12月3日にはフィルム映写機を撤去し、デジタル上映に舵を切る。こちらも余談だが、拙プロデュース作のドキュメンタリー映画「琉球シネマパラダイス」(2017年:長谷川亮監督)は、このフィルム上映最後の日に密着した作品だ。映画内で金城館長が座右の銘とて公言していたのが、「映画の力を信じる人へ」「入り口はエロ、出口は感動」といったフレーズだった。これは荒木監督が「映画館」シリーズで提唱したものであり、荒木監督も劇中で「こういう映画って決してほめられるような映画じゃないんですけど、そういう映画だと思って入ったら意外に勇気づけられることもある。そういうのが人間的だと思うんです」と語っていた。


そんな金城館長も、普段は冗談ばかりで、なかなかその本心が見えにくいところがあったが、その根っこには非常に大きな映画愛、映画館愛に満ちていた。常々、「成人映画といっても、実際に観てみるとストーリーはしっかりとしているし、映画としても面白い映画も多い」と力説。そんな金城館長に密着した「琉球シネマパラダイス」はカンヌ(フランス)やチェジュ(韓国)をはじめ、沖縄国際映画祭、京都国際映画祭など、国内外、数多くの映画祭で上映されることになったが、世界のどこでも「ヒー・イズ・ファニーマン(彼は楽しい人だね)」「館長に会いたいな」といった声が多く寄せられた。

どんどんと老朽化が進んだ首里劇場だが、一方でそのフォトジェニックな姿に魅せられ、実はここ10年くらいは通常営業のほかに、貸し館としてもジワジワと注目を集めていた。首里劇場をロケ地とした映画などが数多く上映されるとともに、数多くのアーティストが首里劇場をライブ会場として使用したのだ。18、19年には沖縄国際映画祭の会場としても使用され、桂文枝師匠ら大勢の芸人、文化人らが続々と来場。「この映画館はすごい」と感嘆し、写真を撮りまくっていた様子を見て、なぜだか筆者が我がことのように誇らしげな気持ちになっていたが、当の金城館長は何も変わらずに、普段通りの通常営業で働き続けていた。

そんな中、21年5月1日には一般映画の旧作を上映する、いわゆる名画座へと舵を切る。「どうせお客は入らないんだから、だったら自分がやりたい映画を上映する」とその理由を語っていた金城館長。くしくも世の中は新型コロナウイルスが猛威をふるい、「ミニシアター」の窮状が訴えられていた時期でもあったが、金城館長は「すきま風の入るうちの劇場は三密どころか、NO密だ!」と笑っていたことを思い出す。

名画座第一弾作品は吉永小百合主演の「あゝひめゆりの塔」。その後も「カサブランカ」「ローマの休日」など、多くのクラシック映画が首里劇場で上映されたが、翌22年4月に金城館長が急逝。劇場は閉館状態になった。しかし建物の歴史的意義から、なんとか保存の道を模索できないかという思いを共にする有志による「首里劇場調査団」が結成された。
さらに保存活動の意義や、活動内容を描きだした、平良竜次副代表によるドキュメンタリー映画「首里劇場ノスタルヂア」も制作された。それと合わせて「首里劇場調査団」が主催する内覧会ツアーを随時開始。筆者も数回参加したが、大勢の人たちが、戦後沖縄の息吹を感じさせるような場所からタイムスリップしたような雰囲気に、驚きを隠せない様子だったのが印象的だった。

23年4月に開催された「島ぜんぶでおーきな祭 第15回沖縄国際映画祭」では、「首里劇場ノスタルヂア」と「琉球シネマパラダイス」を2本立てで上映。会期中に行われたレッドカーペットイベントには、両作品の監督である平良監督と長谷川監督が来場。カーペットを歩いてる際に、沿道の観客から「金城館長はなくなってないから!」という温かい声をかけられたという。
成人映画館時代は、住宅街のド真ん中で成人映画を上映する首里劇場に、眉をひそめていた人がまったくいなかったといえば、それは嘘になる。しかし首里劇場の存在が気になっている人は多かったようだ。
それだけに映画「琉球シネマパラダイス」を鑑賞した女性客たちから、次々と「中に入ってみたかったけど怖くて入れなかった。だからこの映画で中が見られて良かった」という感想が寄せられることも多かった。
だがそんな首里劇場も今年10月16日から解体工事が入ることとなった。解体を前にした10月7日には、最後に行われた内覧会には約1200人が来場。首里劇場の最後の姿を目に焼き付けるとともに、首里劇場最後の上映作品として「首里劇場ノスタルヂア」とともに、「琉球シネマパラダイス」も上映してくれた。初上映は17年の沖縄国際映画祭だったが、6年近く、コンスタントに各地の映画祭で上映され、多くの人たちに愛してもらったなと実感する。それも首里劇場とともに、金城館長が多くの人に愛されたからだろう。


そしてそれからおよそ1カ月たった11月下旬には、解体工事はほぼ完了。ちょうどこの時期に仕事もかねて沖縄に行くことが叶ったため、首里劇場の跡地を再訪。現場は見事に更地になっていて、あれだけの存在感を放っていた建物はすっかりなくなってしまった。奥の方に目をやると、瓦礫のようなものが積み上げられている一角があった。そこにはスプリングのようなものが無造作に積み上げられていた。これは何かとしばし思案していたが、解体された座席だと思い当たる。



首里劇場では、近隣で営業していた国映館や安里琉映館といった映画館が閉館した際、そこから椅子を譲り受け、再利用していたという。首里劇場もまた、劇場の中にあった小物や装備などのいくつかは、新たな引受先が見つかった。
その中のひとつに、11月に那覇市東町にオープンしたばかりのカフェ「喫茶カンマ-COMMA」がある。こちらでは首里劇場から椅子や木材などを譲り受け、リノベーション。新たな人生を歩み始めている。同店スタッフに話を聞いたところ、学生時代に首里劇場の建物を見かけて衝撃を受けたことがあったという。首里劇場自体、時代に合わせて営業形態を変えながら生き延びてきた劇場である。こうやってオシャレなカフェの一部となって再出発を図る姿を見て、少し温かい気持ちを感じながら、コーヒーを注文。スッキリとして非常に飲みやすいコーヒーだった。

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