【「屋根裏のラジャー」評論】革新的画風で子供たちの明るい未来を謳う
2023年12月17日 14:00

スタジオポノックの長編第1作「メアリと魔女の花」は、スタジオジブリの伝統を受け継ぐ意志を示した、言わば起点だった。以来6年、独自の進化を模索し、コロナ禍や公開延期など様々な困苦を乗り越え、堂々たる長編第2作が完成した。映画「屋根裏のラジャー」は、スタジオポノックが「より高く、より遠くへ駆け上る」と世界に宣言する作品だ。
人間の子供たちの想像力が生み出した友達「イマジナリ」。彼らは子供たちの理想を反映して寄り添い、忘れられれば消えてしまう儚い存在だ。本作の白眉はイマジナリの側から人間世界が相対化されることだ。イマジナリにも自立した判断や生き甲斐や暮らしがある。
なぜ子供たちにはイマジナリが必要なのか。なぜ大人たちは(親子であれ他人であれ)子供たちの想像力を奪い、過酷な現実に追い込んでしまうのか。本作は波瀾万丈のファンタジーの衣を纏いつつ、幾つもの切実な問いを発し、大人たちには反省を促し、子供たちの無限の可能性を謳い上げる。
まず、西村義明プロデューサーが自ら書き上げた脚本が良い。舞台は現代のイギリス。過去でも近未来でも異世界でもない。地味な日常生活と想像の世界が併存し、アニメーションならではの煌びやかなイメージの洪水が沸き起こる。
西村氏は原作の曖昧な設定を掘り下げ、「想像力対現実」を主軸に再構築し、少々利己的な子供たちの描写を抑制し、親子関係に充分な背景と存在感を与えた。特に父親の思い出の創作が効いている。その核には、健全な未来を子供たちに手渡したいという確固たる意志が感じられる。それは、東映動画の制作動機「子供たちへの善意」に端を発し、高畑勲と宮崎駿を経由してポノックへと受け継がれた「血脈」である。
本作のヴィジュアル様式は革新的だ。従来の均一色面によるセル画調キャラクターとは異なる、光と影のグラデーション彩色が全編で徹底されている。手描きの原動画を特殊なソフトで仕上げ、2Dとも3DCGとも異なる厚みが加わり、照明による立体感・素材感や背景との融合効果が増している。おそらく国内初の試みであり、フランスのスタジオ「Poisson Rouge」の参加によって実現した。
百瀬義行監督は50年以上に亘って活躍しているベテランアニメーターであり、1980年代からデジタルと作画の融合を模索し続けて来た。スタジオジブリでは高畑勲監督の右腕として「火垂るの墓」のレイアウト・作画監督補、「おもひでぽろぽろ」の場面設計を歴任し、日常のリアリズムを突き詰めた。さらに「ホーホケキョ となりの山田くん」では冒頭とラストの演出、「かぐや姫の物語」では姫と捨丸の空中ランデヴーの特任シーン設計を担当。デジタルを駆使した水彩調アクションシーンを作り上げた。
常に新たな表現に挑戦し続けて来た百瀬監督であればこそ、伝統的作画とデジタル新技術の融合を成功に導くことが出来たと言える。まさに百瀬監督とポノックの全ての活動成果が詰め込まれた集大成的快作である。(叶精二)
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