北野武監督による渾身の集大成的映画「首」。本格的な時代劇映画の行方は?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2023年11月25日 07:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
北野武監督の6年ぶりの新作映画「首」は、祝日の11月23日(木)から公開となりました。
北野武監督が構想30年を費やしており、自身で書いた原作をKADOKAWAから出版。それを自ら脚本と監督を担当して映像化。さらにビートたけし名義で出演を果たしています。
誰もが知る「本能寺の変」を、諸説ある史実をアレンジすることにより、そこかしこに北野武作品を感じる、まさに「北野武監督の集大成的な作品」となっています。
結果として2023年は「本能寺の変」を描いた“超大作時代劇映画”が2本も公開される事になった特別な年となっているのです。
まずは1月27日(金)から、東映70周年記念作品として公開された「レジェンド&バタフライ」。
こちらは総製作費が20億円となっていて、「総製作費20億円=制作費14億円、P&A費6億円」という内訳だと想定しています。
一方の11月23日(木)公開の「首」ですが、こちらは2023年4月15日に行われた「首」製作報告会見でKADOKAWAの夏野剛社長が「(総)製作費15億円は、全てうちが出している」と語っています。
こちらについては、「総製作費15億円=制作費12億円、P&A費3億円」という内訳だと想定しています。
日本の映画では、制作費が10億円を超えるのは異例で、文字通りの「超大作映画」と言えます。
この2作品が異例な状況となったのは、やはり「時代劇」というのが大きく関係しています。時代劇は、衣装やメイク、セットなどで通常の映画と比べると、格段にコストがかかる事になるからです。
このような仕組みのもと、本格的な時代劇映画は興行収入におけるハードルが上がるのです。
映画の採算は、劇場で公開する際に得られる「興行収入」。それに加え、DVDや配信、放送などの「2次利用で得られるお金」の2つから、(総)製作費がまかなえるかどうかで決まります。
今のマーケットの状況を踏まえると、「2次利用で得られるお金」は、この2作品のような規模の作品で、最も上手くいって5億円の規模でしょう。
そこで、「首」の規模感の作品は、興行収入がどのくらい行くことができれば採算がとれるのかを考えてみます。
まず、「2次利用で得られるお金」については、最も上手くいった5億円だと仮定してみましょう。
そうすると、(総)製作費15億円から「2次利用で得られるお金」の5億円を引いて、「10億円をまかなえれば良い」という事になります。
では、劇場で公開する際に得られる「興行収入」がいくらであれば、製作サイド(「首」の場合はKADOKAWAの1社だけ)は10億円をまかなえるのでしょうか?
まず、私たちが映画を見る際に映画館に支払う映画の入場料金は「興行収入」として、基本的には「映画館と製作サイドで50%ずつ取得する」という形になります。
ただ、映画が大ヒットして、映画館の座席稼働率が高かった場合は、製作サイドが受け取れる「歩率」という割合が高くなります。
本作の場合は、映画館45%、製作サイド55%くらいになると想定されます。
そこで、製作サイドが受け取れる「歩率」を55%として計算してみます。
仮に本作の興行収入が22億円に到達したとしましょう。
すると、映画館は22億円の45%の9.9億円、製作サイドは22億円の55%の12.1億円を受け取る事ができます。
ただし、製作サイドのお金からは、配給会社が仕事をした分の「配給手数料」(総額の20%)が引かれるという仕組みになっています。つまり、製作サイドは、配給会社に支払う「配給手数料」の2.42億円を除いた9.78億円を受け取る事になります。
そのため、総製作費15億円の場合は、興行収入22億円を超える事ができれば、黒字になっていくわけです。
このように、「総製作費15億円」で「出来の良い作品」の場合は、興行収入22億円が大まかな採算ラインと言えます。
そこで今後も2023年のように「力の入った超大作時代劇」が作られるのかを見極めるためにも、本作の興行収入が20億円に到達するかどうかを注目する必要性があるのです。
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