「SISU シス 不死身の男」評論】フィンランド映画界が放つ、戦争残虐ナチ皆殺し娯楽アクション大作
2023年10月29日 09:00
フィンランド映画史上最大級の予算600万ユーロ(約9億5000万円)をかけて製作され、国内では250日超の大ロングランを記録。全米では初登場10位、全世界で1410万ドル(約21億円)を稼ぎ出した注目の戦争アクションである。SISUとは「不死身」を意味するフィンランド独自の方言らしい。監督は地元出身で活劇描写に定評のあるヤルマリ・ヘランダー 。
1944年のフィンランド北部。長年の探索でついに金の鉱脈を探り当てた伝説のコマンドー、アアタミ(ヨルマ・トンミラ)。彼はこれを換金するためヘルシンキへと向かうが、その財宝の存在を知ったナチスから執拗な襲撃を受ける。アアタミは単身で巨大な敵に決死の戦いを挑む。
ハリソン・フォード81歳、スタローン77歳、リーアム・ニーソン71歳、トム・クルーズ61歳、キアヌ・リーブスとブラッド・ピットは59歳。現代のアクション俳優は意外なほど高齢だ。もはや老人アクションというジャンルは無いのかも知れない。
主演俳優ヨルマ・トンミラは64歳。演じるアアタミは300人以上の敵兵を殺害し、軍部でも止められない殺りくマシーンという設定だ。1939年のフィンランド冬戦争でソ連兵524人を葬り「白い死神」と恐れられ、瀕死の重傷を負いながらも生き抜き、96歳の天寿を全うした実在の狙撃兵シモ・ヘイヘを想起させる。
また、金の採掘といえば最近、コーエン兄弟の西部劇オムニバス「バスターのバラード」(Netflix)の「金の谷」があった。お宝の争奪戦ということで、この短編も血生臭かったが、本作はその比ではない。なにしろ最初の小競り合いからナチス兵たちの人体損壊が存分に楽しめる。戦車に立ち向かい、極寒の湖底で敵を待ち伏せし、最後は「ミッション:インポッシブル」顔負けの空中戦にも挑む。「ツルハシ1本」は盛り過ぎだが、身近な物を武器に戦い抜く姿に思わず拍手を送りたくなる。
監督は「ランボー」に影響を受けたとしているが、過剰なゴア表現や章立ての編集、アナモフィック・レンズによる2.39:1の画角などと相まって、タランティーノのテイストも強く感じる。ヘランダー監督の過去作と本作は、シニア・キャラ、アクションや派手な爆発シーン、フィンランドの大自然といった要素が共通しているものの、今回は実際のラップランド戦争を舞台に、ラストまでほぼセリフがない主人公や、勇敢な女性キャラクターが活躍する新趣向が刺激的だ。
人物の背景を深掘りしたり、戦争の不条理を描き出そうとせず、ビジュアルとテンポ重視で90分を駆け抜けたことが、ヒットの要因と思われる。北欧から世界レベルに格上げされた感のあるヘランダー監督、次はどんな物語を作り上げるのだろうか。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。