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新鋭コン・ダーシャン“宇宙人探しの旅”秘話を告白「着想は“農民が宇宙人を捕まえた”という報道」「主人公は三蔵法師と同じ思想」【アジア映画コラム】

2023年10月17日 09:00

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話題のデビュー作「宇宙探索編集部」を手掛けたコン・ダーシャン監督
話題のデビュー作「宇宙探索編集部」を手掛けたコン・ダーシャン監督

北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!


「間違いなく、2023年における最高の中国映画だ!」

「こんなにもロマンティックなSF映画は久しぶりだ」

「天才コン・ダーシャン誕生!」

中国映画界では、頻繁にサプライズが起こっています。才能溢れる新人監督が本当に多いのです。

2021年、まだコロナが収束していない頃のこと。ジャ・ジャンクー監督が関わる平遥国際映画祭が予定通り開幕しました。海外からのゲストは現地に行くことはできませんでしたが、中国国内の観客が多数参加したことで大盛況だったんです。

そこで“ある作品”が最優秀作品賞、観客賞等含む4冠を達成します。「久しぶりにすごい中国映画が登場した」と多くの映画関係者、映画ファンが興奮しました。その“ある作品”というのが、コン・ダーシャン監督のデビュー作「宇宙探索編集部」でした。

画像2(C)G!FILM STUDIO[BEIJING]Co.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

その後は、ロッテルダム国際映画祭、香港国際映画祭、大阪アジアン映画祭など、全世界で上映され、大きな話題に。やがて、中国国内のコロナ対策が緩和したことで、それまで公開が叶わなかった映画が続々と公開。「宇宙探索編集部」は、2023年4月から中国全土で公開され、高評価の口コミが後押しし、インディーズ映画としては異例のロングラン上映に。最終的には、約14億円の興行収入を記録しました。

今回は「宇宙探索編集部」の日本公開に合わせて、来日したコン・ダーシャン監督に話をうかがいました。


【「宇宙探索編集部」概要】
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廃刊寸前に陥ったUFO雑誌の編集部員たちが繰り広げる宇宙人探しの旅を描いた中国発のSFロードムービー。

かつてメディアにもてはやされ世間の注目を集めていた科学雑誌「宇宙探索」は、今ではその人気も衰え廃刊の危機に頻していた。そんなある日、編集長のタン(ヤン・ハオユー)は中国西部の村で宇宙人の仕業と思われる怪現象が起きたという情報を掴む。タンは雑誌の起死回生を図るべく、一癖も二癖もある編集部員や外部の仲間たちを連れて現地へ調査に向かう。そこで彼らを待ち受けていたのは、予想を遥かに超える出来事だった。


●企画の経緯は? 「中国山東省の農民が宇宙人を捕まえた」というニュースを見かけて……
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――まずは、本作の企画の経緯について教えてください。

2017年、あるニュースを偶然見かけました。そのニュースは、中国山東省の農民が宇宙人を捕まえたというもの。その方は記者を自宅に招いているのですが……興奮しながら見せていたのは、冷凍庫に入ったクオリティの低いシリコン人形。「これが宇宙人だ」と言い張ったんです。かなり荒唐無稽に感じましたが、農民の反応に注目しました。彼は本当に純粋で、真面目に「これが宇宙人である」と説明していたんです。その時「これを映画にしたら、絶対面白い」と思いましたし、ちょうどその頃、大学院でモキュメンタリーの製作について学んでいたんです。「モキュメンタリー形式が一番ハマるはず」と考えて、脚本を書き始めました。

――宇宙に対して、いつ頃から興味を持ち始めたでしょうか?

子どもの頃、親が宇宙関連の本をたくさん買っていたんです。その中には、子ども向けの本もありました。僕は元々読書が好きだったので、宇宙に対する好奇心も自然と生まれてきました。ところが、大人になって、なぜか興味が薄くなっていたんです。「宇宙は子どもを騙すものだ」と思い込み、より現実に目を向けるようになりました。この映画の脚本を書くことを決めた時、再び“宇宙”へ向けて出発することにしたんです。


●なぜ「編集部」に注目?
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――「編集部」が重要な要素となっています。中国では、急速にデジタル化が進み、雑誌もほとんどデジタルになりましたし、編集部(=オフィス)という場所もほとんどなくなりました。なぜ編集部にフォーカスしたのでしょうか?

子どもの頃、さまざまな本や雑誌を読んで育ちました。特に80年代、90年代には、この物語に登場する雑誌のモデルがいくつかありました。宇宙人を探す物語なのであれば、主人公は誰にするのか――雑誌編集部のイメージがすぐ立ち上がりました。当時の雑誌編集部で働いていた若者たちは、宇宙や宇宙人に対して、非常に熱狂的でした。しかし、30年後の彼らを待ち受けているのは、紙媒体が衰退している時代。そこでどのように生きていくのか、どのような精神状態なのか、もしかしたら時代とはまったく合っていないのかもしれない……そんなことを考えながら、登場人物を生み出していきました。


●主人公タン・ジージュンについて
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――登場するのは、魅力的なキャラクターばかりです。特に主人公のタン・ジージュンは、もはや“伝説のキャラ”になったといっても過言ではないでしょう。

タン・ジージュンには、多くのモデルがいます。外見のイメージは、僕が以前に作った短編映画の主人公に近いと思います。その短編映画では、僕の父が主人公を演じています。小学校の先生のようなイメージ、そして落ちぶれた知識人の雰囲気もあります。彼は一体何を考えているのか……それは多分彼自身にもわからないんです。このキャラクターは80年代の中国の知識人のようで、ニーチェのように、非常に狂暴的な側面を持っています。アニメーション「リック・アンド・モーティ」のリックのように、とても虚無的な一面も持ち合わせている。とにかく複雑なんです。

――そんな複雑のキャラクターを演じたのは、ヤン・ハオユーです。起用した理由を教えてください。

まずは中国でメガヒットした「流転の地球」を見て彼の演技に魅せられましたし、その他にも出演していた「無言歌」も見ました。この作品は、ワン・ビン監督唯一の劇映画。ヤン・ハオユーは、上海・労働改革派の知識人を演じました。その役のイメージと演技が、主人公タン・ジージュンに合っていると思ったのでオファーすることにしました。


●モキュメンタリースタイルで生まれた“不思議な世界観”

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――本作には、プロの俳優ではない“アマチュア”の方々を多数起用しています。理由を教えていただけますか?

本作はモキュメンタリーの形式。すべてプロの俳優を使う必要はありませんし、かといって、全員素人にする必要性もありません。この映画は、とても特殊な作品で、どちらかと言えば正確性が求められているのだと思います。スン・イートンというキャラクターを書いている時、このキャラクターにとっての最も重要な要素は“スピリチュアリティ”だと思いました。そのため複雑な演技をする必要はなかった。逆に“彼ならではの特徴”が欲しかったのです。結果的に、脚本家のワン・イートンに演じてもらうことになりましたが、彼はこの役を完璧に演じていましたね。

――“アマチュア”が多い撮影現場は、どのような感じなのでしょうか?

撮影自体は、通常のプロセスに従って行っていました。ただし、俳優それぞれに異なるコミュニケーションが必要だったのかもしれません。中心人物となる5人の大半は、プロの俳優ではありません。ですが、映画には関わってきているので、撮影に関しても、ある程度の知識を有しています。ですが、村人役で登場する人々は“(映画撮影については)何も知らない”という状態。彼らとのコミュニケーションが本当に難しかったです。そもそも村人たちは、映画撮影がどんなものであるのかさえ知らず、どのように撮影し、演技をするのかも知りません。彼らをプロの俳優とともに演技をさせる時は、通常の演技指導では通じません。「セリフを覚えてくれ」というアプローチは、逆効果なのかもしれません。演じさせたい内容に、自然と導くしかありませんでした。

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――話に戻ってしまいますが、モキュメンタリーは、この物語にピッタリの形式でしたね。

映画監督は、どのような映画を撮ることになったとしても、まずは作風やスタイルを決めなければなりません。すべての要素が統一される必要があるんです。モキュメンタリーの作風と言えば“ドキュメンタリー映像のように見せかけること”。モキュメンタリーを作る際は、俳優が話したセリフや行動にリアリティがあるかどうか。通常のフィクションよりも、その点に気をつけないといけません。観客にはすぐにバレてしまいますから。監督にとっては、ある意味挑戦的なスタイルなんです。

この映画を作りたいと思った要因は、やはり“あのニュース”を見たこと。モキュメンタリーは、極めてリアルをもたらすだろうと感じていました。リアリズムが貫かれた映像に対して、物語自体はかなり荒唐無稽。真実と荒唐無稽さ。この2つの要素を同じ映画で使ったら、非常に面白い化学反応を生むだろうと思ったんです。
――クラシック音楽を多用している点も、非常に奇妙な化学反応に繋がっていると思います。

モキュメンタリーは現実に近いですが、クラシック音楽は非常にロマンティック。なので、クラシック音楽を使用すると、不思議な“世界”が作れると信じていました。実際、非常に良い効果を生んでいます。予想以上に良かった部分です。

――英題は、中国の名著「西遊記」の英語タイトルと同じですね。

タン・ジージュンというキャラクターの存在が関わっています。彼の悩みや行動は、ある意味「西遊記」の三蔵法師と同じだと気付きました。三蔵法師は、かつて遥かな天竺へ真経を求めていきました。タン・ジージュンも遥かな場所に赴き、宇宙人を探し、人類のさらなる進化に期待を寄せています。ある意味、三蔵法師とタン・ジージュンは、同じ思想を持っていると言えるのです。


●急速に進化を遂げる中国で“過去を懐かしむ”ということ

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――本作が上映された後、中国では人々の“過去への憧れ”という思いが増しているように感じました。その一方で、中国はここ20~30年間、信じられないスピードで各領域に変化が起こっている。どこもかしこもデジタルの世界になっています。“今”の中国についてどう思いますか?

情報化社会の“今”は、人々が少し途方に暮れているように感じています。まるで蒸気機関が発明されたばかりの時、産業革命が到来した後と同じような……おそらくどちらのタイミングにも「昔のほうがいいなぁ」と嘆いている人はいたはずです。難しいことですが、複雑に考える必要はないのかなと。そもそも正確な答えがないんだと思います。

過去の時代は懐かしむものではなく、その輝きがすべてではありません。ですから、過去に戻りたいとは思っていません。常に新しい技術を受け入れたいのです。過去を懐かしむことはもちろん良いことですが、現在を否定しないでください。未来はもっと豊かで、想像を超える時代がやって来ることを確信しています。

宇宙探索編集部」は、確かに過去の時代に思いを馳せる話をしていますね。過去の時代の雑誌を懐かしんでいます。しかし、僕自身、今では雑誌、本、新聞を買って読むことは、絶対しません(笑)。We chatの公式アカウントがどれほど便利なのか、皆知っているでしょう? 過去の時代を懐かしむことと新しい技術を受け入れることは別の問題だと思います。


●好きな日本人監督は?

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――では最後に“日本公開”に絡めた質問をさせていただきます。好きな日本の監督はいますか?

まず初めに、私たちの世代は子どもの頃から日本のアニメを見て育っていたということをお伝えしておきます。「ドラゴンボール」「スラムダンク」「Dr.スランプ アラレちゃん」「聖闘士星矢」などなど、本当にたくさんの作品を見てきました。

映画を学び始めた時、最初にインパクトを受けた監督のひとりが、岩井俊二監督です。その後、特に好きになったのは、中島哲也監督。湯浅政明監督も非常に好きですし、もちろん全人類が愛している小津安二郎黒澤明は言うまでもありません。

最近では漫画も読んでいて、非常に気に入っている作品は「竹光侍」という作品です。松本大洋先生の作品です。本当に大好きな作品で、まるで“浮世絵のような漫画”という印象です。

最近見た映画では、長久允監督の「そうして私たちはプールに金魚を、」が非常に好きです。彼の「ウィーアーリトルゾンビーズ」も面白かったですね。

最後に、もうひとり名前をあげます。宮藤官九郎大先生です。彼の「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」は最高です。ロックンロール地獄、早死早超生……こ映画を見終わった後「こんな映画が作れるのは、日本人だけだ」と感じていました(笑)。これは日本人にしか考えられないストーリーです。中二的であり熱血、そして感動……多くの要素が混ざっています。根幹は仏教映画、輪廻などについての内容なのに、あんなにもパンク……非常にクールでした。

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