「王国(あるいはその家について)」待望の劇場公開 濱口竜介監督「自分が夢見たことを先んじてやられてしまった」
2023年10月6日 18:00
ロッテルダム国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭へ正式出品され、世界の評論家を騒然とさせた衝撃作「王国(あるいはその家について)」が、12月9日よりポレポレ東中野にて3週間限定公開することが決定。あわせて、メインビジュアルと予告編、草野監督、本作を鑑賞した濱口竜介監督からのコメントも到着した。
草野監督は、長編映画初監督作品「螺旋銀河」で第11回SKIPシティDシネマ映画祭にてSKIPシティアワードと観客賞を受賞。本作は長編第2作となり、2016年度愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品として製作された。英国映画協会(BFI)がリスト化した「1925~2019年、それぞれの年の優れた日本映画」では、19年の1本として選出されている。
17年に64分版が発表されて以降、再編集を施された150分版としての上映は、第11回恵比寿映像祭や新文芸坐、三鷹SCOOLなどや映画配信サービスMUBIでの限定配信のみ。今回、オムニバス映画「広島を上演する」の一編である最新作「夢の涯てまで」がマルセイユ国際映画祭2023でのワールドプレミアに続き、第24回東京フィルメックス メイド・イン・ジャパン部門へ選出されたことを記念し、待望の劇場公開となった。
本作は、演出による俳優の身体の変化に着目した作品。脚本の読み合わせやリハーサルを、俳優が役を獲得する過程=“役の声を獲得すること”と捉え、同場面の別パターン、または別カットを繰り返す映像により表現する。ドキュメンタリーと劇で交互に語るその手法は脚本が持つ可能性をも反復し、友人や家族という身近なテーマによる人間の心情に迫ることに挑戦。「王国」を作り上げると同時に、その支配からも逃れようとする。綱渡りのような150分間で新たな映像言語をもって試みの全貌を伝える。
脚本を務めるのは、「螺旋銀河」で共同脚本として参加し、「ハッピーアワー」などでも知られる高橋知由。出演者には澁谷麻美、笠島智、足立智充らが名を連ねている。
なお、今回披露された予告編は、第73回カンヌ国際映画祭批評家週間短編部門に正式出品された「とてつもなく大きな」や「とおぼえ」で国内外でも高い評価を得る川添彩監督が担当している。
「王国(あるいはその家について)」は、12月9日より、ポレポレ東中野にて3週間限定上映。草野監督、濱口監督のコメント、あらすじは以下の通り。
『王国(あるいはその家について)』を撮影したのは2017年の年明けだった。初日にフィクション部分を撮影し、いよいよ作品の肝となるリハーサル撮影、という2日目、自分の見通しの甘さが原因で身動きの取れない状態になった。このとき、作品の本質を理解し打開策を講じたのは私ではなくスタッフであり、駆動し始めた撮影で大きな、広い景色を見せてくれたのは役者たちだった。翌年完成し2019年に映画祭を周ったのち、映画配信サイトMUBIでの配信が始まったまさにそのとき、世界中でロックダウンが起きた。
俳優たちはテイクを重ね、やがて「これしかない」という声に辿り着く。この特権的な声が本来「OK」テイクとなるものだ。しかし、このたった一つの声は、実のところすでに為された無数の発声がその裏に張り付いた複層的なものなのだ。『王国』ではその声は示されるとともに解体されて、あらゆる声が「OK」として響く。自分が夢見たことを先んじてやられてしまったような、そんな感覚を持った。草野なつか監督の勇気と知性に敬意を表したい。
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