チューリッヒ映画祭 ジェシカ・チャステイン、ダイアン・クルーガーにアワード授与
2023年10月4日 14:00
近年うなぎのぼりに注目を増しているスイスのチューリッヒ映画祭で10月1日、ジェシカ・チャステインがゴールデン・アイコン・アワードを授与された。本賞は、その才能により際立ったキャリアを築いてきた俳優に与えられるもので、これまでダイアン・キートン、リチャード・ギア、ショーン・ペン、シャロン・ストーン、昨年はベン・キングスレーが受賞している。
セレモニーはミシェル・フランコ監督による彼女の最新作、「Memory」のお披露目の前におこなわれ、フランコの紹介によってチャスティンが登壇。映画祭ディレクターのクリスティアン・ジュンゲンからトロフィーが授与された。フランコは、「ジェシカとは会ってまだ3年も経たないのですが、本作ともう1本をすでに撮影しました。僕は彼女をテレンス・マリックの「ツリー・オブ・ライフ」(2011)で初めて発見し、素晴らしい俳優という以上にその存在感に心を奪われました。だから彼女と仕事をできたことは本当にラッキーでした。3年で2回も仕事ができたのだから10年後にはもっと増えていることを期待します」と語り、会場を沸かせた。
チャスティンは、「このような賞を頂いて本当に光栄です。でもこの賞は、これまで一緒に仕事をしてきた才能と大胆さにあふれた監督たち、素晴らしいキャラクターを作り上げた脚本家たちやスタッフ、そしてわたしを刺激してくれた共演者たちのおかげだと思っています。この映画の役を演じることで、人間の健康状態というもの、その重みについて考えさせられました。そして人間同士が絆を持って、会話を築いていくことが大切なのだということも。それはこれまでもわたしの希望でしたが、これからもずっとわたしの希望となるでしょう」と語り、拍手に包まれた。
過去のトラウマを抱えるソーシャルワーカー(チャスティン)と、早期痴呆症の男性(ピーター・サースガード)とのふれあいを描いた本作は、9月のヴェネチア国際映画祭でサースガードが男優賞を受賞。来年のアカデミー賞にも食い込んできそうな勢いだ。
そして翌日にはダイアン・クルーガーが、多彩な作品で独自のキャリアを築いてきたスターに与えられるゴールデン・アイ・アワードを授与され、マスタークラスを開催した。こちらの賞は過去にジェイク・ギレンホール、クリステン・スチュワート、エディ・レッドメインらが受賞している。クルーガーはロバート・ゼメキス、クエンティン・タランティーノ、ファティ・アキン、ビル・オーギュスト、アグニェシュカ・ホランド、ブノワ・ジャコーら、欧米を股にかけた活躍と、幅広い役柄を演じられる才能が評価された。また昨年は、イラストレーターのクリスタ・アンズナーと組んで、子供向けの絵本「A Name from the Sky」(Minedition)を出版。多彩ぶりをアピールした。
マスタークラスではこれまでのキャリアを振り返り、「トロイ」(2004)に出演してバッシングを受けたとき、カンヌ国際映画祭に一緒に参加した共演のブラッド・ピットが、「気にするな。僕らがついている。僕たちはチームだ」と励ましてくれたこと、クエンティン・タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」(2009)では、もともとタランティーノは別のドイツ人女優に向けて役を書いていたため、オーディションはシビアな体験だったこと、だがひとたび役を獲得してからは、現場は和気藹々でとても楽しい経験となったことなどを語った。
チューリッヒで披露された新作「Visions」は、「ブラックボックス 音声分析捜査」(2021)のヤン・ゴズランがメガホンを握ったスリラー。コントロール・フリークの女性パイロットがかつての恋人と再会したことで、不可解な幻想に悩まされるようになる物語。冒頭からエンディングまで、揺れ幅のあるキャラクターを演じてきっている。
モデルから女優に転身してすでに20年以上のキャリアを持ち、ファティ・アキンの「女は二度決断する」ではカンヌで女優賞にも輝いているクルーガーだが、「この賞をこれまで受賞した才能あふれる俳優たちのリストに自分が加わることができるなんて、とても光栄で、誇りに思います。本当に感謝しています」と、興奮した面持ちで語った。次回作にはデビッド・クローネンバーグの新作「The Shrouds」が待機しているので、こちらも大いに楽しみである。(佐藤久理子)