【「明ける夜に」評論】夏の終わりが導く寂寞感のようなもの
2023年8月20日 20:00

“気まずさ”なる、その場の空気。それは、交わされる会話(台詞)のリズムやテンポ、或いは、間を応用し、やや噛み合わない姿を演出することで映像に伴わせることがある。「明ける夜に」(2023)は、8月31日の夕刻から9月1日の朝にかけての、夏が終わるひと夜を描いた作品。この映画の登場人物たちはよく喋るのだが、そこに“気まずさ”を漂わせることで、作品そのもののトーンになっているのも特徴だ。フィックスによる長回しの撮影を実践。つまり、編集によるカット割りによって会話のテンポや間、リズムを生み出しているのではなく、役者の演技によって導かれているものであることが判る。
電話をしながら男性に包丁を向けている女性、コンビニのバイトでレジにいる男女、面接を待つ男女の就活生、砂浜に首から下が埋められた男性と元野球部の青年。彼ら(主要な登場人物たち)の抱える設定が総じて個性的であるため、群像劇であるにも関わらずわたしたち観客が混乱しない点も特徴のひとつに挙げられるだろう。また、先行きの読めない状況を提示することで、観客が物語に対して能動的になってゆく構成も見事だ。彼らの言葉と言葉の間にあるニュアンスを推し量り、言葉の持つ表層的な意味合いの向こう側へと思いを馳せるようになる。そのメカニズムは、“果てしない“向こう側が存在する海原へ思いを馳せることに似ているが、一方で彼らには希望に満ちた“果てしない”未来が待ち受けていないであろうことをわたしたちは推し量っている。それは、なにかに導かれるように夜の海へと若者たちが集い、戯れる姿に寂寞感を呼び起こす由縁でもある。
就活中の男女はコンビニに寄り、男性に包丁を突きつけていた女性宅を訪れる。やがて、複雑に絡み合った登場人物同士の人間関係を解きほぐすことで、観客の脳裏に相関図を構築させるという快感が生まれてゆく。「ハチミツとクローバー」(2006)が実写映画化された際、<全員片想い>との惹句が話題となった。その後、「全員、片想い」(2016)という映画も製作されたように、「明ける夜に」にも同様の<全員片想い>感がある。それぞれが望むような人間関係は構築できず、想いがかなわないことを描いている点も本作の特徴だろう。転じて、役者の演技を見る映画になっていることも特徴だ。そう、この映画の役者たちは魅力的なのである。ここには、まだ世にさほど知られていない若い俳優たちを魅力的にさせる術が隠されている。同時に、まだ世にさほど知られていない若い俳優たちが己を魅力的に見せる術の在り処がある。劇中の若者たちもまた、“まだ何者でもない”ことと呼応させながら、夏が終わっても、次には秋がやって来るとも思わせている。
タイトルに「明ける夜に」と謳っている以上、物語は夜明けと共に幕を降ろすことになる。つまり、この映画は“限られた時間”を描いているのである。観客が物語の終わりを事前に感知しているという構成は、どこかリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」(95)のようでもある。願わくば「ビフォア・サンセット」(2004)や「ビフォア・ミッドナイト」(2013)のように、彼らの未来を十数年毎に見てみたいと個人的に思う。
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