【「マッド・ハイジ」評論】搾取された「ハイジ」が、18禁エログロ復讐劇で倍返し? 映画愛あふれるスイス発の珍作
2023年7月15日 13:00

スイスと聞いて思い浮かぶのは、チーズ、時計、アーミーナイフ、アルプス、そして「ハイジ」。原作はスイスの作家ヨハンナ・シュピリが1880年代に発表した児童文学で、20世紀に入ると各国語訳が世界中で愛読され、実写やアニメの映像化作品も多数制作された。特に日本のズイヨー映像が制作し高畑勲や宮崎駿も参加した1974年放送のテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」は傑作の誉れ高く、その吹替版はアジアや欧州、さらに中東やアフリカでも人気を博した。
最も有名なスイスのキャラクターになって久しいハイジだが、外国作品で金儲けに利用されてきた彼女を取り返し、「俺たちスイス人がエクスプロイト(搾取)してやるぜ!」と立ち上がった愛すべき映画バカがいた。2010年代からコンビで活動しているヨハネス・ハートマンとサンドロ・クロプシュタインが、初めて監督する長編映画としてクラウドファンディングで約2億9000万円を調達。20世紀半ばに米国で興隆したエクスプロイテーション映画よろしく、成人したハイジ(演じるのは英国出身のアリス・ルーシー)を主人公に、裸のシーンと下ネタギャグ、残虐なバイオレンス描写が満載の「マッド・ハイジ」を完成させたのだ。
あらすじは当サイトの作品情報を参照していただくとして、B級のジャンル映画好きにはお馴染みの定番プロット、具体的には独裁者による世界征服の陰謀、女囚たちのキャットファイト、マッドサイエンティストが生み出すモンスター、愛する者を奪われた女主人公のリベンジといった要素を寄せ鍋のごとく投入。名作へのオマージュも抜かりなく、マイリ大統領役の米国人俳優キャスパー・ヴァン・ディーンが主演した「スターシップ・トゥルーパーズ」から官製CM中の台詞「自分の役割を果たす(I'm doing my part)」を借用したのをはじめ、老師が弟子に戦う術を授ける「スター・ウォーズ」シリーズで反復されたシチュエーションや、隷属状態の闘士が御前試合で戦う「グラディエーター」風の終盤が映画ファンの心をくすぐる。さらには、傑作アニメを生み出した日本文化へのリスペクトだろうか、クララ役に日系スペイン人女優のアルマル・G・佐藤を起用し、初登場場面では役名をカタカナのテロップで「クララ・ゼーゼマン」と表示(併記される英字の2倍ほどでかい)。ハイジは修行を通じて日本刀(しかも二刀流)や手裏剣もマスターする。
各国から起用されたキャスト陣による英語劇で、何やら多国籍料理のような香りを醸しつつ、冒頭で挙げたチーズ、時計、ナイフといった自国の名物をネタにすることも忘れない。角のごとく屹立した名峰マッターホルンがたびたび背景に映り込んで威容を誇り、スイスのプライドを象徴するかのよう。アルムおんじは元傭兵 、という原作にあった設定も「マッド・ハイジ」に活かされている。スイスはかつて欧州各地に傭兵を送り出し、外貨を稼ぐことで独立を保ってきた歴史があり、そうした国民の記憶を織り込むあたりは意外に真っ当だ。
(C)SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM
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