聖なるハイジになんてことを… 「マッド・ハイジ」“お叱り”秘話 一番怒ったのは誰?

2023年7月13日 21:00


クラウドファンディングでは約2億9000万円もの資金集めに成功
クラウドファンディングでは約2億9000万円もの資金集めに成功

名作児童文学「アルプスの少女ハイジ」を大胆にアレンジし、R18+指定のエログロバイオレンス描写を詰め込んだB級エクスプロイテーション映画「マッド・ハイジ」が、7月14日から公開される。さまざまな観点からスイス本国でも“お叱り”を受け、話題に事欠かない今作のメガホンをとったヨハネス・ハートマン監督、サンドロ・クロプシュタイン監督に話を聞いた。

幾度となく映像化されてきたヨハンナ・シュピリの「アルプスの少女ハイジ」をアレンジしたことで、スイス映画史上初のエクスプロイテーション映画「マッド・ハイジ」として生まれ変わった。とにかく過激なシーンが随所にちりばめられているため、R15になるよう試行錯誤した配給会社は修正を断念、R18+での公開に踏み切った。それでも、世界19カ国538人の映画ファンによるクラウドファンディングにより、約2億9000万円もの資金集めに成功した。

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映画は、チーズ製造会社のワンマン社長にしてスイス大統領でもある強欲なマイリが、自社製品以外のすべてのチーズを禁止する法律を制定。スイス全土を掌握し、恐怖の独裁者として君臨した。それから20年後。アルプスに暮らす年頃のハイジだったが、恋人のペーターが禁制のヤギのチーズを闇で売りさばき、見せしめにハイジの眼前で処刑されてしまう。さらに唯一の身寄りであるおじいさんまでもマイリの手下に山小屋ごと包囲されて爆死。愛するペーターと家族を失ったハイジが、邪悪な独裁者を血祭りにあげ、母国を開放するために奮闘する姿を描いている。

■本職・警察官の脚本家が警察を解雇されたのは、またとない宣伝になった

――「アルプスの少女ハイジ」をなぜ暴力的な描写で映画化することにしたのですか?

ヨハネス・ハートマン監督(以下ハートマン):これまでスイスで作られてこなかったジャンル映画を作りたかったんです。それも、スイスでしか、スイス人でしか撮れないものを。ブレストしていったら、主役はハイジしかいないよね……、と見解が一致しました。世界中で知られたキャラクターでしたし、親を亡くしながらも力強く生きていく女性のヒーローとして描けたらなと考えたんです。

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――脚本のひとりに名を連ねたグレゴリー・ビトマーさんが警察官だったことは、多くの人を驚かせたかと思います。どうやって知り合ったのですか?

ハートマン:グレゴリーさんは、チューリッヒの学校で脚本執筆のクラスを受講していたんです。プロデューサーが彼の先生と友だちだったこともあり、紹介してもらいました。きちんと脚本執筆の教育を受けた人がスタッフにいるというのは、なんとなくやってきた僕たちにとっては救いでした。映画製作に関しても、脚本執筆に関しても経験がないわけですから。

作業としては、互いのアイデアを持ち寄って進めていきました。ただ、彼が警察を解雇されるという事件が起きたことで、クラウドファンディングを通して弁護士を雇う費用を集めたんです。これは同時に、またとない宣伝キャンペーンになったんです。彼が解雇されたことは良くないことだし、次の仕事を探すまでに時間がかかったんですが、映画にとっては絶好のプロモーションになりました。

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■スイス伝統衣装協会は激怒 内部の理解者は除籍の憂き目に

――原作の関係者や偉い人たちから怒られたりしませんでしたか?

サンドロ・クロプシュタイン監督(以下クロプシュタイン):「私たちの聖なるハイジになんてことをしてくれたんだ!」と言った人はいます。一番怒ったのは、スイス伝統衣装協会という団体かもしれない。

伝統衣装って、誰もが作れるものではなく、認可を受けた人しか公式のものは生産できないんです。ただ、この団体のメンバーの中に、僕たちの作品に共感してくれた人がいて、色々助けてくれました。この衣装はセクシーすぎる、これはアレンジを加えすぎだ! といった事例が重なり、このメンバーはなんと協会から除籍されてしまうというハレーションが起きました。

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ハートマン:オリジナルを好きな人からネガティブなことを言われたことはなかったんですが、僕たちは日本の「アルプスの少女ハイジ」の楽曲を使いたかったんです。なかでも、ペーターの曲(「ペーターとわたし」)が完璧だと思って権利元に問い合わせをしたら、却下されてしまいました。

必ずしも納得できる理由ではなかったのですが、あれは残念でしたね。ハイジとペーターがバイクに乗って山から下りてくるシーンであの曲が使えたら、さぞかし良かったのにと思ったんですけどね。

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■日本の「アルプスの少女ハイジ」はドイツ語に吹き替えられていた

――アニメの話が出ましたが、日本の「アルプスの少女ハイジ」は、スイスでどれくらい人気、知名度があるのですか?

ハートマン:僕らよりも上の世代だと、実写映画のハイジを見ていたようなのですが、僕らの世代のほとんどが日本のアニメに親しみました。ただ、ドイツ語に吹き替えられていたので、まさか日本のアニメだったとは知る由もなかったんだ。僕も今回、映画を作ろうと準備を始めてから日本の作品だと知ったんだ。

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■影響を受けたのは「女囚さそり」「修羅雪姫」「殺し屋1

――そもそも、ふたりが映画監督を志望するようになったきっかけの作品はなんですか?

クロプシュタイン:「マッド・ハイジ」を作るうえで影響を受けた作品を挙げさせてもらいますね。「女囚さそり」シリーズ、「修羅雪姫」(佐藤信介監督)、「殺し屋1」(三池崇史監督)などでしょうか。

ハートマン:エクスプロイテーション映画って概して予算が少ないということもあるけれど、出来が良いものばかりではない。そういった作品を見ていくうちに、「僕たちの方が良いものを作れるのに!」という勇気をもらいましたね。

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――「アルプスの少女ハイジ」以外に、“マッド化”してみたい作品はありますか?

クロプシュタイン:今回はたまたま“マッド化”したけれど、原作の背景を拝借しただけという認識なんです。インスピレーションの源にはなったけれど、リメイクではない。だから、他に“マッド化”したいかと問われると、ちょっとイメージが湧かないかもしれません。

ハートマン:とはいえ、本当にスイスらしいものって、まだまだ探求しきれていないものがたくさんあります。ハイジ以外の“マッド化”の可能性だって残されていると思いますよ。

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