【「Pearl パール」評論】前作から映画の様式を一変させ、夢見る人妻の“純真なる狂気”を映像化
2023年7月8日 18:00
絶好調の映画会社A24が放つホラー映画3部作の第2作。1979年を背景にした前作「X エックス」では、テキサスの農場にやってきたポルノ映画の撮影隊を襲う血みどろの惨劇が描かれたが、今回はその加害者となった凶悪な老婆パールの若き日の物語。1918年、ヨーロッパに出征中の夫の帰還を待ちながら、ミュージカル女優を夢見る農場の娘パールの悲劇が語られていく。
前作は「悪魔のいけにえ」をベースにした荒々しいスラッシャー・ムービーだったが、本作との様式の違いは冒頭5分を見れば一目瞭然。流麗なオーケストラ音楽とともに映し出されるメインタイトルは、発色の強いテクニカラー風の映像といい、主演女優ミア・ゴスが動物たちと戯れる農場の牧歌的な風景といい、まるでハリウッド黄金期のメロドラマやディズニー映画のような幕開けだ。ところがそのファンタジックなイメージはすぐさま霧散し、車椅子の父親を看護しながら、異常なまでに厳格な母親に抑圧されるパールの閉塞した現実が立ち現れる。この導入部が実に素晴らしい。
やがて町の映画館を訪れたパールはハンサムな映写技師と知り合い、「私は絶対にスターになる」「ヨーロッパに行く」という夢をふくらませるのだが、それは「X エックス」の主人公マキシーン同様、ほとんど根拠のない妄想だ。前作に続いてメガホンを執ったタイ・ウェスト監督は、そんなパールの内なる狂気の芽生えを、トウモロコシ畑でのカカシとのダンス・シーンなどを交えて映像化。危うい現実逃避を繰り返しながら暴力衝動を炸裂させていくパールの変容は、まさしく純真な少女のような人妻がサイコパスのシリアルキラーへと怪物化する軌跡なのだ。
3部作の2作目はとかく中途半端な位置づけになりがちだし、前日譚=ビギニングものというアイデアもありふれている、という懸念を抱く人もいるだろう。しかし本作の出来ばえはその不安を一蹴し、単独の作品としても賞賛に値する。「X エックス」のクランクイン前から続編の構想を練り、共に脚本を執筆したウェスト監督、ミア・ゴスのこの映画への思い入れの深さがひしひしと伝わってくる。
しばしばメロドラマやファンタジーにおいては、愛がずたずたに引き裂かれ、夢が木っ端微塵に吹っ飛んだ主人公が、はっと現実に引き戻されたときこそが最も悲しい瞬間となるが、ホラー映画である本作のそれは“最も恐ろしい瞬間”にほかならない。そしてエンドロールに流れ続けるミア・ゴスのクローズアップが凄い。こんなにも切なさと狂気がごちゃ混ぜになった人間の顔は見たことがない。
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