【「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」評論】時代に捨て置かれた冒険ヒーローが、真に手にした至宝

2023年7月1日 09:00


「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」

シリーズにおいて初めて監督のバトンパスがなされた、15年ぶりのインディアナ・ジョーンズ最新作。過去への干渉を可能とする究極アイテム【アルキメデスの羅針盤】をめぐって、ナチスとインディとの奪還戦に再びカメラが向けられる。さらにフレームは後者へと最接近し、「学究に殉じた己れの人生に誤りはなかったのか?」という、老境に至った彼のアイデンティティ・クライシスに迫っていく。

監督を引き継いだジェームズ・マンゴールドは前々作「LOGAN ローガン」(17)で、ミュータント=スーパーヒーローの老いと社会的排斥を描き、同じく兼脚本を担った今作でも、時代が必要としなくなった冒険ヒーローの憂鬱に主眼を注いだ。過去4作にあった約束事を遵守し(ときに交わし)ながらシリーズへの忠誠を見せつつ、氏が自作で追及した領域へと延伸をはかっている。加えて前作「フォードvsフェラーリ」(19)で観る者にインパクトを与えたカーチェイス演出の絶技を投入。それらアクションのテンポや編集がもたらす臨場感は、かつての監督スティーブン・スピルバーグのそれとは明らかに違う。

2008年公開の「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」では、エイリアンの存在をドラマの核とし、ギリギリでとどまっていたリアリティ・ラインを越境し騒然となった感があった。そういう先例からすれば今回も、迎えるクライマックスは大胆にして奇想な部類といえるかもしれない。だがインディの挑戦史を締めるうえで、これほど許容性の高いシチュエーションもないだろう。それはアクティブな考古学者として命を張ってきた男の、すべてが報われるであろう究極の理想と呼べるものだ。

人類が月に立った1969年という舞台設定に「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」(1981)を入れ子とすることで、シリーズが持つ特有のヴィンテージ感覚は厚みを増し、戦局を有利にする目的と思われた敵の追跡も、アーク争奪戦の布石あればこそ、その意外性に強い戦慄を覚える。また往時のハリソン・フォードとシニアの彼がスクリーン上に併存することで、それ自体がキャラクターの経年変化としてクロニクルの風格を感じさせ、あるいは旧作のアーカイブを活かしたという、ディープフェイクの技術的達成にも瞠目させられるだろう。シリーズに長い歴史あってこその成果だ。

自己喪失したインディが、本当に手に入れた“至宝”とはなにか? 結末はそれを実感するとともに、アクション・アドベンチャーのジャンルに進化と復権をもたらしたこのシリーズが、本作をもって収まるところへと収まり、映画界の“至宝”そのものとなった印象を強く残す。

(尾崎一男)

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