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宮沢りえ×石井裕也監督、実際の障害者殺傷事件をモチーフにした「月」でタッグ オダギリジョー&磯村勇斗&二階堂ふみが共演

2023年6月30日 09:00

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スターサンズの故河村光庸プロデューサーが最も挑戦したかった題材
スターサンズの故河村光庸プロデューサーが最も挑戦したかった題材
(C)2023『月』製作委員会

宮沢りえが主演し、オダギリジョー、磯村勇斗二階堂ふみが共演する、石井裕也監督作「」が、1013日に公開されることが決定。石井監督が脚本も務め、実際の障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸氏の同名小説(角川文庫刊)を映画化する。あわせて、場面写真、作品を鑑賞した有識者からのコメントも披露された。

辺見氏は「事件を起こした個人を裁くのではなく、事件を生み出した社会的背景と人間存在の深部に切り込まなければならない」と感じ、“語られたくない事実”の内部に潜ることに、小説という形で挑戦。映画版でメガホンをとる石井監督は、「茜色に焼かれる」「愛にイナズマ」などで知られ、辺見氏の作品に十代の頃から魅了されてきたという。

そして本作の題材は、「新聞記者」「空白」を手がけてきたスターサンズの故河村光庸プロデューサーが最も挑戦したかったものでもあった。それは、日本社会に長らく根付く労働や福祉、生活の根底に流れるシステムへの問いであり、複眼的に人間の尊厳を描くことへの挑戦だった。オファーを受けた石井監督は、「撮らなければならない映画だと覚悟を決めた」といい、「このテーマから目を背けてはならない」という信念のもと、映画を撮り上げた。宮沢、オダギリ、磯村、二階堂のほか、長井恵里大塚ヒロタ笠原秀幸板谷由夏モロ師岡鶴見辰吾原日出子高畑淳子が顔をそろえる。

物語の舞台は、深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子(宮沢)は、“書けなくなった”元有名作家だった。彼女を“師匠”と呼ぶ夫の昌平(オダギリ)とともに、慎ましい暮らしを営んでいた。施設職員の同僚には、作家を目指す陽子(二階堂)や、絵の好きな青年さとくん(磯村)らがいた。さらに洋子は、生年日が一緒の入所者“きーちゃん”と出会う。光の届かない部屋で、ベッドに横たわったまま動かない“きーちゃん”のことを、洋子はどこか他人に思えず、親身になっていく。

しかし、この職場は決して楽園ではない――。洋子は、ほかの職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにする。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった。彼のなかで増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で、徐々に頭をもたげていく。そして、その日はついにやってくる。

場面写真には、まるで何かを隠そうと生い茂る森に囲まれ、佇む洋子を活写。その表情からは、さまざまな悩みや不安を抱えていることが伝わってくる。

いち早く鑑賞した有識者からも、コメントが寄せられている。編集者・見城徹氏は、「この社会に蔓延る『嘘と現実』、『善と悪』、『建前と本音』の判断を宙吊りにしたとてつもない映画だった」と語り、作家・高橋源一郎氏は「『』は、あまりに強烈なテーマを扱っているので、もしかしたら観客は、そちらに視線を奪われるかもしれない。そうではない。もっとずっと繊細で、実はおぼろげなものが、そこにある。それは『生きる』ということなのかもしれない」と綴っている。

クランクインの直前に亡くなった河村プロデューサーの遺志を受け継ぎ、本作を完成させた長井龍プロデューサーも、「目の前の問題に蓋をするという行為が、社会の至る所に潜んでいるのではないか、という問いが本作には含まれている」と明かしている。

」は、1013日に東京の新宿バルト9、ユーロスペースほか全国で公開される。石井監督、長井プロデューサー、有識者からのコメント(全文)は、以下の通り。


石井裕也監督

この話をもらった時、震えました。怖かったですが、すぐに逃げられないと悟りました。撮らなければいけない映画だと覚悟を決めました。多くの人が目を背けようとする問題を扱っています。ですが、これは簡単に無視していい問題ではなく、他人事ではないどころか、むしろ私たちにとってとても大切な問題です。この映画を一緒に作ったのは、人の命や尊厳に真正面から向き合う覚悟を決めた最高の俳優とスタッフたちです。人の目が届かないところにある闇を描いたからこそ、誰も観たことがない類の映画になりました。異様な熱気に満ちています。宮沢りえさんがとにかく凄まじいです。


長井龍(プロデューサー)

目の前の問題に蓋をするという行為が、この物語で描かれる環境に限らず、社会の至る所に潜んでいるのではないか、という問いが映画「」には含まれています。

障害福祉に従事されている方にも本作をご覧頂き「この映画を通して、障害者の置かれている世界を知ってもらいたい」という言葉も預かりました。本作を届けていく必要性を改めて噛み締めています。そして、映画製作を通して、この数年で障害福祉の環境が変わろうとしている現実も目の当たりにしました。そのこともまた、社会の持つ可能性のひとつだと信じています。


見城徹(編集者)

この社会に蔓延る「嘘と現実」、「善と悪」、「建前と本音」の判断を宙吊りにしたとてつもない映画だった。「」は誰もが当たり前のように観ているが、実は誰も本当に存在しているのか解らない曖昧なものでもある。しかも、「」は太陽の光に照らされて様々に姿を変える。だから、「」はロマンチックな影を人間の心に落とすのだ。オダギリジョーと宮沢りえ夫婦が直面する「圧倒的な現実」と磯村勇斗の心に影だけを落とす「」はライバルのように激しくせめぎ合う。後半は磯村勇斗の狂気(=ルナティック=)を誰も否定出来なくなるが、ラストに宮沢りえがオダギリジョーにかける一言がこの映画を万感の想いで支えている。

身動きも出来ないまま観終わって、まだ映画に犯されている。世に問うべき大問題作にして大傑作の誕生。石井裕也監督、此処にあり。凄過ぎる。


高橋源一郎(作家)

」を観て、名状し難い感銘を受けた……と書いて、これは正確ではないと思った。ぼくが感じたものは、もっとずっとやっかいで、ことばにするのが難しいものだった。

」では、障害者施設を襲い、そこに収容されている人たちを殺傷した現実の事件とその犯人らしき人物がモデルとして描かれている。そこには重い問いかけがある。どんなことばもはね返してしまうような強烈な問いである。だが、その問いよりもさらに強く、訴えてくるのは「」だと思った。映画全体をひたしている「月の光」だ。

「太陽の光」はまぶしく、すべてのものを照らし尽くす。そこではすべてが見えてしまうだろう。世界の隅々までまでくっきりと。けれども、「月の光」はちがう。ぼくたちひとりひとりを個別に照らすか細い光である。その淡い光の下でだけ、ぼくたちは「個」になるのだ。

登場人物の多くは、「ものをつくる人」である。そして、同時に「うまく作ることができない人」でもある。彼らは淡い「月の光」の下でそのことを知る。そこで生まれてくるものがある。そこでしか生まれないものが。それがなになのかぼくにはよくわからない。「」は、あまりに強烈なテーマを扱っているので、もしかしたら観客は、そちらに視線を奪われるかもしれない。そうではない。もっとずっと繊細で、実はおぼろげなものが、そこにある。それは「生きる」ということなのかもしれない。もう一度書くが、ぼくにはその正体がはっきりとはわからない。わからないまま、ぼくはうちのめされていた。ぼくもまた、この映画が発する「月の光」の下にいたのだ。


森直人(映画評論家)

石井裕也が命がけでぶん投げてきた灼熱の問題提起の豪球。

我々にできるのは、火傷しながらも全身で受け止めること。

」は告げる。もう見え透いた嘘はやめにしよう。

本気の表現しか響かない新しい時代が目の前に来ている。


■恩田泰子(読売新聞編集委員)

石井裕也監督の「」は、広く公開され、たくさんの人に届けられなければならない。

この映画は、苛烈にして誠実な表現をもって、人や社会をぬくぬくとくるんできたきれいごとを剥がし、見ているふりをして見ていなかったこと、考えているふりをして考えていなかったことを突きつけてくる。もう逃げたり、ひるんだりしているわけにはいかない。

カオスの中でつつましくまたたく希望のかけらを見つけ出すために。この映画から、しっぽを巻いて逃げ出したら、それこそもう絶望しか残らないのだ。

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