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「怪物」脚本家・坂元裕二、“脚本家”是枝裕和監督の奥深さを熱論

2023年6月10日 20:00

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是枝裕和監督と坂元裕二氏
是枝裕和監督と坂元裕二氏

多彩な映像制作者たちをゲストに招き、制作にまつわるさまざまな事柄を語る早稲田大学の人気講義「マスターズ・オブ・シネマ」が6月10日、同大で行われ、映画「怪物」の脚本家・坂元裕二是枝裕和監督が登壇した。

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、坂元の脚本賞、独立部門「クィア・パルム賞」の2冠を獲得した本作。6月2日に初日を迎え、公開日を含む週末の3日間で興収3億2541万9,020円を記録する大ヒットスタートを切っている。

会場には脚本賞のトロフィーも鎮座しており、会場からは坂元たちに向けて祝福の拍手が沸き起こった。「トロフィーを見るのは実は2回目くらいなんです」と意外な事実を明かした坂元は、「ずっと預けっぱなしだったので、今日は会えて良かったです」と付け加えた。

この日の講義では、脚本家・坂元が手がけるテーマ性を深く理解するために、「Mother」「それでも、生きてゆく」などの制作秘話をひも解き、さらに時系列に沿って「怪物」の脚本がどうやって生まれ、肉付けされていったのかを、約2時間にわたって語り合った。

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本作はシングルマザーの視点、教師の視点、そして子どもたちの視点による3部構成で展開。これは坂元が主戦場としてきた“連続ドラマ”の良さを生かし、1本の映画の中で3話の物語が展開するようなドラマに仕上げるということを主眼に脚本開発が行われたそう。「クリフハンガーと言うんですけど、連続ドラマでは来週はどうなるんだろうという不安と期待を持ちながら1週間待つということがとても大事なこと。それが映画の中でも、次はどうなるんだろうという、大きく何かが変わっていく瞬間が何度か生まれる、そういう映画をつくりましょうということなのかなと思った」と振り返る。

ネグレクトや加害者家族、少年の冒険物語など、興味を引かれるテーマに共通性を感じていたという両者。2011年のドラマ「それでも、生きてゆく」で“加害者”をテーマに描いていた坂元に対して、是枝監督が「加害者を書くのは難しいですね」とつぶやいたTwitterを見て「胸が痛かった」と振り返った坂元は、「その時は“ご覧いただいてありがとうございます”とリプを送ったんですが、それが是枝さんと接触した最初でした。そのときの加害者をどう描くかが12年間の重荷であり、是枝さんとともにやりたかったことでもあります」とその思いを語った。

どんな作品にも“自己が投影されている”と語る坂元が「3つ目の(少年たちの)話は、子どもの時の友だちのことを思い出しながら書いていて。その子との関係性みたいなものや、秘密基地をつくったり、でも学校では話せなかったりというようなことをたくさん思い出しながら書いていた」と切り出すと、「だから自分としては黒川(想矢)くんの役になった気持ちで完成した映画を観たんですが、ふと柊木(陽太)くんを見たら、僕の記憶の中にいる友だちの顔が柊木くんだったんだと。実は名前も顔もなんとなく忘れていたんですけど、同じ子だったんじゃないかと思うような不思議な感情が動いてビックリした記憶がありました」と述懐する。

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それを聞いていた是枝監督が「これは不思議な話なんだけど、友人から、カンヌで僕と坂元さんが立っていた姿が、あの男の子ふたりが大きくなった姿のように見えたと言われて。大きさ的なバランスなのかなとも思ったんですが」と付け加え、会場からは笑いが漏れた。

そんな坂元からの脚本を受け取った際、「これは坂元さんの中でどの系譜の作品だろうか」と考えたという是枝監督は、07年のドラマ「わたしたちの教科書」のことを思い浮かべたという。「あの作品を見直した時に、あれも秘密基地が出てくるんですよね。それよりも何よりも『世界を変えることができますか』という問いがすごく重要なものとして出てくる。おそらくこの映画にはそのセリフが出てこないけど、たぶんそういった問いかけがあの二人を通して投げかけてくるんだろうなと考えていたんですよね。そのひと言を、作り手である自分に問いかけながらつくろうというのが、この脚本を受け止めて僕がどう関わるかというスタンスの一歩でした」と明かす。

これまで自分自身で脚本を手がけてきた是枝監督だが、本作では坂元の脚本を尊重しながら撮影を行った。「決定稿はかなり試行錯誤されて、これしかないという形にたどり着いているので、納得度があった。でもそれだけの本であっても、スタッフ全員でこの芝居が正しかったのかと問いかけながら探していく作業に変わりはなくて。窓ガラスの向こうに何があるのか探ってる状況がずっと続く。それは自分としては発見でしたし、楽しいなと思いました」。

その流れで「これはちょっとした話なんですけど、(脚本には)ところどころ監督のアイデアで足されたセリフがあって。それがオセロをひっくり返すようにすばらしい。それがなければ違う印象を受けるんじゃないかというセリフがいっぱいあるんです」と明かした坂元。「子どもたちふたりがジャングルジムに上りながら、宇宙が破裂する話をしていて。その締めに“じゃ準備をしなきゃね”と。それは監督が足したセリフなんです」と続けると、「もし映画の脚本の勉強をしている形がいらっしゃったらこれについて考えてほしいんですけど、この簡単なセリフがあるのとないのとで、映画の面白さがどれだけ違うか。カンヌのレッドカーペットで『監督、あのセリフすごいですね』と言ったんですけど、もしまた見る機会ありましたら、このセリフのことを考えてもらえれば」と話した。

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さらに安藤サクラ演じる早織が、学校にクレームを言うシーンでの「神崎先生(森岡龍)はいい先生でした!」というセリフも是枝監督が付け加えたシーンだという。「最初はなんでかなと思ってたんですけど、あがったのを見ると大事だなと思いました」とコメントする坂元に対して、是枝監督も「あそこは褒められることで、校長や教頭から『お前だけ褒められて』という感じでいたたまれない感じになると思って、ちょっと足しています。ああいうのが好きなんです」。

さらに坂元が「ちょっと意地悪な言い方をすると、監督のてのひらに乗せられているというか。ちょっとボタンを押すだけで、おまえの書いたものなんて全部変わるんだぞと。マジックを見せられるような。ちょっと塩を入れるだけでうまいんだよという感じで」と評して会場を沸かせる。「よく是枝さんを語る時、ドキュメンタリータッチとか、即興とか言われているけど、僕はこれほど脚本がうまい監督はいないと思うんです。しかも世間が思われているものと違って、ハリウッド脚本術のような教科書に書かれているものがしっかりと踏襲されている。セットアップがあって、3幕構成で、ミッドポイントがあってと。教科書的なものが網羅されて、こんなにもしっかりとした脚本というのはないんですよ。それが現場でつくられているにしても、前もって書かれているにしても、本当に脚本がいいというのが是枝さんの映画なんですよ。それを、何もかも現場でアドリブでつくっているドキュメンタリータッチという、世間の声は違うと思っています」と持論を展開した。

その言葉に「そろそろ終わりますかね」と照れくさそうな顔を見せた是枝監督は、「僕はテレビのドキュメンタリー出身で、現場で自分で書いたものを変えていくタイプなので、よく自然だと言われるんですけど、映画で見て自然だと言われることほど、裏でとても不自然なことをやらないととても自然には映らない。もちろん役者もそうですが、子どもたちが自然に見えるのは、しっかりと演じているから。好きに演じてねと言って、自然に見えるかというと絶対にそんなことはないので。もし作り手目線で見るなら、そこは注意しながらやっています」と付け加えた。

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