【「午前4時にパリの夜は明ける」評論】少女だったシャルロットが成熟したアンニュイさとエマニュエルの凛々しさに心奪われる
2023年4月30日 20:30

「なまいきシャルロット」(1985)でみずみずしく登場したシャルロット・ゲンズブールと、「美しき諍い女」(1991)の日本公開時に“論争”を巻き起こしたエマニュエル・ベアール。このフランスを代表する2女優が共演しているというだけでも映画を見る喜びが溢れてくる作品だ。
「なまいきシャルロット」で思春期の多感な13歳の少女を演じたシャルロットのアンニュイな魅力に心を撃ち抜かれたひとりであるが、あれから37年後に製作された「午前4時にパリの夜は明ける」では母親役を演じていることに深い感慨を覚える。しかもシャルロット演じるエリザベートは夫に家を出ていかれ、思春期の2人の子供をひとりで養うことになるのだ。舞台は1980年代のパリ。エリザベートと家族が7年にわたって織りなす物語が描かれる。
子育てに奔走し、長いこと外での仕事から離れていたエリザベートは、なんとか深夜のラジオ番組の仕事に就く。エリザベートが開始当初から聴いていたそのラジオ番組のパーソナリティ、ヴァンダを演じているのがエマニュエルだ。長年深夜のラジオ番組を背負ってきた、男勝りで自分の強い意志を持ったヴァンダをエマニュエルが凛々しく演じる。面接に訪れたエリザベートとヴァンダが対峙する、シャルロットとエマニュエルという映画女優が一つの画面の中で一緒に映る最初のシーンには鳥肌が立った。
この2人の女優の起用と、物語の時代設定が80年代ということで、ミカエル・アース監督のプロフィールを調べてみると、やはり筆者と同世代であった。共同で脚本も手掛けているアース監督は「私は子供時代に過ごした80年代に飛び込み、あらゆる光景や音を再現したいと思いました。その感覚と色彩が私を作り、自分の中に存在しているのです」などと述べている。
ラジオ番組はアース監督が幼少期に放送されていた番組がモデルで、劇中に登場する楽曲も監督のこだわりが詰まっており、当時のヒット曲が目白押しだという。また、エリック・ロメール監督やジャック・リヴェット監督らの作品がオマージュとして多数引用されているほか、8ミリフィルムやビデオカメラのやわらかくて粗い映像による風景や家族の思い出のシーンが要所要所でインサートされ、80年代の雰囲気を表現。異国ではあるが、なんだか懐かしさがこみ上げてくる。ちなみに、エリザベートとヴァンダら劇中に登場する女性の多くが、外で黄昏ながら、家の中で食事をしながら、おいしそうにタバコを喫煙しているのに驚いてしまったのは、やはり時代の流れか。
日本でもここ数年、ファッションを中心に80年代回帰ブームが起きており、当時をリアルタイムに知らない若い世代も、今よりも変革と希望、自由で活発なムードに溢れていた80年代を、パリを舞台に味わうことができる作品だ。そして、愛する者との別れ、新しい出会い、子どもの成長など、人生の様々な変化に不安を感じ、戸惑いながらも、自分らしく前へ進んでいくエリザベートの姿は、多くの共感を呼び、家族の絆の大切さを教えてくれる。
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