軽薄な元ポルノ俳優が魅惑的な少女と見る甘くビターな夢物語 「フロリダ・プロジェクト」監督最新作「レッド・ロケット」
2023年4月21日 17:00

「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」など米インディペンデント界の俊英として知られるショーン・ベイカー監督の最新作で、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「レッド・ロケット」が公開された。落ちぶれた元ポルノ俳優が無一文で故郷に戻り、魅惑的な少女と出会ったことでポルノ界での再起を夢みる物語だ。
救いようのない生き方をしているがどこか憎めない主人公、貧困ゆえ時に違法な仕事に手を出して暮らす人々、そんな町を出て未来を切り開くために手段を選ばない高校生……弱さと逞しさを併せ持った人々の生き方をジャッジしない、ベイカー監督ならではの視点と、片田舎の工業地帯の風景を16ミリフィルムで映し撮った甘くビターな物語だ。ベイカー監督がオンラインインタビューに応じた。

2016年のアメリカ、テキサス。元ポルノスターでいまは落ちぶれて無一文のマイキーは、故郷である同地に舞い戻ってくる。そこに暮らす別居中の妻レクシーと義母リルに嫌われながらも、なんとか彼女たちの家に転がり込んだが、長らく留守にしていた故郷に仕事はなく、昔のつてでマリファナを売りながら生計を立てている。そんなある日、ドーナツ店で働くストロベリーとの出会いをきっかけに、マイキーは再起を夢みるようになる。

まずはキャラクターありきで作りました。同じくセックスワーカーを描いた「チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密」(12)の取材時に、「スーツケースピンプ」という言葉を知りました。簡単に言うとポルノ業界で女性を利用して生きている男性のことです。そういうキャラクターをメインにした物語の構想がかなり以前からありました。
この企画を進められるようになったのが2021年で、当時はコロナ禍の真っただ中。僕は、この映画でその問題に触れたくなかったので2016年に設定しました。また、今のポルノ界も全てオンライン化され、スカウトもネットで行われます。セックスワークの世界も昔とやり方が変わったのです。それに比べてマイキーは古い、昔のやり方をしている昔の人間。そういうタイムスタンプとして2016年として選びました。
また、ちょうど当時は大統領選挙のスピーチがまるでリアリティーショーのようにエンタメ性たっぷりに作られ放送され、アメリカ人は皆それを見ていました。そういった部分にも興味がありました。

その点に関しては本当に様々です。興味深かったのは、「ストロベリーには主体性があるよね」という意見。彼女はこの町から抜け出すためにマイキーを利用し、彼女は解放されていて、セックスが好きなひとりの若い女性と捉えることができる。もちろん、「どうしてこんなに年齢の違うふたりにこんな関係性を持たせるのだ?」と怒る人もいました。あとは、「世の中複雑なことはあって、単純に白黒分けられない、そういう部分を描いている」と言ってくれる人もいました。僕自身は作り手なので、あまり分析はしたくありません。いろんな解釈をしてほしいし、ディスカッションが起こって欲しいのです。

実は面白い話があって、ポルノ映画出演者の出身地で多いのが、オハイオ、フロリダ、テキサスだという統計を知ったんです。でももう僕はもうフロリダの映画を作っているので、テキサスが面白そうだと思って、シナハン、ロケハンに臨みました。湾岸に石油精製工場が立ち並ぶテキサスシティに決めました。
テキサスシティは、石油精製工場が作り出す、一つの惑星のような感じなのです。石油の匂いもすごいですし。どこにカメラをむけても、少しさび付いていたり、歪んでいたりする金属、蒸気や炎を撮ることができた。超低予算映画の僕たちにとっては、最高のロケーションでした。
そこで働く労働者と町並み、そして石油は国と世界を分断させる化石燃料です。環境的にも、政治的な問題にもなっていて、特に政治的なパフォーマンスに利用されています。それが、マイキーの仕事とテーマにはまったのです。ストーリーテラーとして、いろんな形で解釈してくれるとうれしいですね。

サイモン・レックスは、2013~14年頃、Vineというアプリで彼がクリエイターとして投稿していたパフォーマンスを見ていたんです。彼はまた映像業界で活躍できると思っていて、この企画が急に進んだので、声をかけました。スージーは、僕がパートナーと訪れた大きな映画館で見かけたのです。彼女に「レッド・ロケット」がぴったりだと思った。インスタでストロベリーブッチャーというアカウントをやっていて、ストロベリーという名はそこからもらったし、17歳でマイキーと関係する人物だとはっきりわかった。僕は本当にスクリーンで見たい人を、本当にじっくり時間をかけて選ぶのです。
アドリブについては僕の映画のコメディっぽいところを理解してくれる人が多いから、どんどんやってもらいます。上手く行かなければ僕はその後の編集でカットできるので、自由を持って演じてもらって多くのものが出てきた方が良いと考えます。僕はニュージャージー出身なので、実際に石油精製工場で働いているキャストには、テキサスのイントネーションを確認してもらったりもしましたね。

(C)2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
執筆者紹介

松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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