「仕掛人・藤枝梅安」は「時代劇の世界発信」に成功するのか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2023年4月8日 07:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末4月7日(金)から「仕掛人・藤枝梅安2」が公開されました。
これは、2023年2月3日に第1弾の「仕掛人・藤枝梅安」、連続して「仕掛人・藤枝梅安2」が公開される、という形になっています。
とは言え、内容的には99.9%独立しているので、「仕掛人・藤枝梅安2」から劇場で見ても問題ない作りになっているのです。
ちなみに、残りの0.1%は、前作「仕掛人・藤枝梅安」のシーンがチラッと出てくるからですが、前作を見ている人は、より楽しめ、そうでない人でも十分に楽しめるイメージです。
「仕掛人・藤枝梅安2」は、メインの「藤枝梅安」(豊川悦司)と相棒の「彦次郎」(片岡愛之助)の過去が明かされるので、「仕掛人・藤枝梅安 ビギニング」といった作品なので本作から見始めても大丈夫なのです。
そもそも、この作品は、【池波正太郎生誕100年】を記念し、「世界に時代劇を届けるべく作られた映画」です。
「仕掛人・藤枝梅安」は、「鬼平犯科帳」「剣客商売」とともに池波正太郎の時代小説3大シリーズとして認知されています。
そして、このプロジェクトによって「鬼平犯科帳」も映画化され、2024年5月公開予定となっているのです!
私は、「仕掛人・藤枝梅安」を全く知らなかったのですが、この2作品を見たら非常にクオリティーが高く、とても引き込まれました。
本作の面白さの1つに、主人公の役柄があります。
今に通じる「ダーク・ヒーロー」として、表と裏の顔がはっきりと分かれているのです。
腕の良い医者として人の命を救う「鍼医」という「表の顔」を持ちながら、人を殺める「仕掛人」としての「裏の顔」も持つなど登場人物には不思議な魅力があり展開から目が離せなくなっていきます。
その結果、知らず知らずのうちに豊川悦司が扮する「仕掛人・藤枝梅安」の世界観に入り込むことができたのです。このシリーズにより、あらためて「時代劇」というコンテンツの強さを実感しました。
本作は「時代劇専門チャンネル」が幹事会社ですが、冒頭の製作委員会の会社の数に驚かされました。
次のように系列などの枠組みを超え、全国のテレビ局、新聞社などがズラッと並んでいたのです!
この規模の製作委員会を私は見たことがなく、おそらく史上最多の製作委員会なのでは、と思われます。
これは、2つのことを意味していると思います。
1つ目は、やはり時代劇映画というのは、製作費が高くなり、リスクが高いということ。
そのため、幹事会社の「時代劇専門チャンネル」が、仕事で関係している会社に声をかけ、出資してもらう形にし「リスクヘッジ」をしている面があるのでしょう。
2つ目は、クオリティーの高い作品を作り、日本が誇る時代劇を積極的に世界に発信し、リターンを得るという大きな構想で動いていることです。
実際に、4月1日から世界配信を開始しています!
メガホンをとったのは、2005年に柳楽優弥主演の「星になった少年」で興行収入23億円のヒットを放ったフジテレビの河毛俊作監督です。
実際に作品を見てみると分かりますが、かなりこだわって作られています。
そのため、製作費も高くなりますが、本作の場合は2作を同時に作ることで、製作費を抑える工夫がされています。
とは言え、このスケールの作品となると、2作品で興行収入10億円くらいは欲しいところでしょうか。
もちろん、リクープラインは、海外への配信でどれだけの収益が得られるのかによって変わってきます。
海外では、日本の「サムライ」や「ニンジャ」はかなり認知されているので、日本の時代劇が流行る素地は十分にあると思います。
果たしてどこまで本作の試みが上手くいくのでしょうか?
海外で成功するには、日本国内での成功が大きなカギになると私は考えています。
それは、宣伝文句として大きく機能するからです。
そのためにも、まずは私たちが本作に関心を持つことが重要だと思います。
本作は、「時代劇は興味がない」という層にも楽しめるように現代に通じる明快な内容になっているので、この壮大なプロジェクトが世界に届くためにも、ぜひ劇場で体感してほしいです。