池松壮亮が刻んだ、肉体の記憶【「シン・仮面ライダー」特別インタビュー】
2023年4月1日 18:00

庵野秀明監督・脚本の「シン・仮面ライダー」が3月17日の最速上映を経て、翌18日から全国478スクリーンで公開されている。主人公の本郷猛を演じると発表されてから約1年半、オーディションを含めれば2年以上にわたり今作に向き合い続けてきた俳優・池松壮亮がいま、どのような思いを胸に秘めているのか話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)
「変身」ポーズが社会現象となり、昭和の少年たちを熱狂させてから半世紀--。仮面ライダーの生誕50周年を記念して製作された「シン・仮面ライダー」は、1971~73年に全98話が放送され、1号&2号とショッカーの戦いを描いた「仮面ライダー」をベースにしたオリジナル作品だ。仮面ライダーとして作品世界を生きた池松は、穏やかな面持ちで筆者の前に現れた。

オーディションへの参加を即決したというが、庵野監督の存在が大きかったのかと問うと「もちろんですよ」と微笑む。ただし、「あまりにも色々なことがあり過ぎて、まだうまく振り返ることができません。『シン・仮面ライダー』という相手は強敵でしたね(笑)」と本音をこぼす。
庵野監督は2021年9月に行われた会見で、池松の起用理由をこう話している。
「池松君はオーディションを受けてくれて、その時がすごく良かったんです。僕の中での本郷猛は、藤岡弘、さんのイメージが強い。これを踏襲したとしても、自分では消化できない。別のキャラクターとしての本郷猛を作らざるを得なかった。池松君がやるのであれば、“違う本郷猛”になってくれるんじゃないかと思った」

その期待に十二分に応えた池松は、撮影を振り返り「あの日々がどこへ向かっていくのかを見届けるのが、楽しみなんです。どのような作品に仕上がったかというのは分かりましたが、この作品をどれくらいの方々が観てくださるんでしょうね……」と現在の心境を語る。庵野監督と現場で対峙し、驚きを禁じ得なかったことは「底なしにストイックであること」だという。「作品のためならば、NOと言い続けられる方でした。本当に凄いと思いました」。
常に作品ファーストのマインドを大切にし続けてきた庵野監督だけに、一切の妥協を排除して製作に臨んだことは、想像に難くない。池松も全力を尽くし、撮影に向けてアクション練習に励んだ結果、靭帯を痛めてしまったこともあった。
「うまく説明できないのですが、撮影中はあまりにも疲れすぎて、どのくらい疲れていたかというと、いつも持ち歩いている鞄を車のボンネットに置いたまま発車してしまい、台本などを道路に散らかして、家に着いてから気づいたことがありました(笑)。それくらい大変でした。
大きなケガをしたこともありましたが、最終的にスーツアクターの方ではなく自分でほとんどライダースーツの中に入っています。常にスーツアクターの方が待機してくれていたし、スーツアクターで何度もパターンを撮り直してもいたのですが、当初から変身後もなるべく自分でやりたいとお願いしていました。

肉体の記憶としてこの現場を体感できたことは、この役を演じるうえで唯一の助けとなりました。ヒーローの痛みと言いましょうか……。アクションをやれば痛いことがたくさんあるし、スーツの中はとにかく暑い。スーツもコートも重さがあるので戦闘能力は落ちますし、体重もどんどん減っていきました。仮面ライダーという仮面の男を演じるうえで、中にいる時のことを自分で体感できたことは大きな経験になりました」
池松はこの数年、アジアでの映画製作に積極的に参加してきた。コロナ禍にあっても中国映画「柳川」「1921(原題)」に出演したほか、韓国に長期滞在して石井裕也監督作「アジアの天使」を撮影。国境もキャリアも異なるスタッフ、キャストと触れ合うことで、ある思いにかられたことを、かつて筆者に話している。
「結局、人間の考えていることなんてたいして変わりはないということ。そこに育った環境や文化が乗っかっているだけ。もっと純粋な心を持って、誰かを思うとか、人の機微に思いを寄せるとか、そういう根源的な純粋なところに立ち返ると、結構通じ合えるものなんですね。撮影では、通訳を介してですが、なんとなく目を見ていれば言おうとしていることがわかる。その人のことをこちらが思えば、伝わるものだと。それが映画言語なのかはわかりませんが、そういったことで、まだまだやれることはあるんじゃないかと思いました」

「シン・仮面ライダー」の撮影は、「深く深く潜ったこともあり、日々一筋縄ではいかない作品だった」という。「答えが見つからない。今日もうまく見つからなかった。撮影は進むのに蓄積されない。またやり直し。みんなが苦しんで、そういう思いを越えてできあがった作品」だからこそ、純粋な部分に立ち返ることが重要なのかもしれない。「喜びは……、お客様に届いた時に報われるのかな。初号試写を僕は現場にいたみんなと一緒に観ることがかなわなかったんです。でも、ものすごい拍手が起こっていたと聞いて、ホッとすることができました」。
トム・クルーズ主演作「ラスト サムライ」で銀幕デビューを飾って、今年で20周年ということになる。その間の出演本数は56本に及ぶだけに、映画を「自分の人生と対等なものになってしまった」と池松が言っても、誰も驚きはしないだろう。

これからの10年を見据えたとき、映画との付き合い方に変化は生じるだろうか。
「年齢的にも、立場的にも、だいぶ責任が変わってきたと思うんです。20代では若手と言えたけど、もう若手とは言えない。30代って、肉体的にもある程度動くという意味では、ひとつのピークなんじゃないかな。そこで何ができるのか、どういう責任の取り方ができるのかを常に考えています。20代の頃よりは、完全にギアは上がっていますしね」
22年に取材した際、「いまどんな夢を持っていますか?」という質問に対し、池松は「まだまだ映画という夢に恋しています」と恥ずかしげもなく言い切った。現在は、「その思いはより深まっているかもしれません。どんどんピュアになっている気がするんです。以前はてらいもあったし、恥ずかしさから色々な言い方をしていたけれど、もっと真っ直ぐになった気がする」という境地に至っている。

そのうえで今一度、今作の製作現場に思いを馳せてもらうと「不思議な体験でした。いいものを目指すためのアプローチに答えはありません。二度とないような、大きな、大きな事件に巻き込んでもらったような2年間でした」ときっぱり。最後に、庵野監督への謝意が口からこぼれ出た。
「僕が仮面ライダーを演じる日が来るだなんて思っていませんでしたし、あの庵野秀明さんが監督を務める実写映画に出演する日が来るとも思ってもみませんでした。庵野監督が満を持して『仮面ライダー』を手がけられるという大きな事件に巻き込んでもらえて、貴重な体験をさせていただきました。誰にも奪えない、僕の中にしかできない経験をさせてもらいました」
庵野監督のもとで過ごした日々があればこそ、これまでと趣の変わった池松の姿を我々は今後目にすることがあるかもしれない。既に撮り終え、発表を待つばかりの作品が幾つもあり、現在も別の現場で躍動を続けている。「シン・仮面ライダー」で本郷猛に扮した経験は血となり骨となり、池松を唯一無二の境地へと導いてくれるだろう。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
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執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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