【「マッシブ・タレント」評論】“Not Himself”。俳優ニコラス・ケイジの新章を告げる痛快作
2023年3月26日 16:00

ニコラス・ケイジが演じるのはニック・ケイジ。まるで悪い冗談のような話だ。だが侮るなかれ、「偉大なる才能の耐え難き重さ」と題されたこの映画には、畏敬の念とアイデアが満ち溢れ、片時たりとも飽きさせない。
起死回生を賭けて“一生もの”の役を狙う元スター俳優のニックは、脚本家との打合せの後、さわりを演じて見せる。だがこれがいけない。次のアポに気が向く作家は、手垢まみれの仰々しい猿芝居に辟易する。一発逆転のはずが一発退場の憂き目にあう。
妻娘と別居中のニックはセレブ御用達のホテル暮らし。だが宿泊費が払えず締め出され、明日を過ごす現金もない。そんな時、スペインの大富豪から誕生会に出席するだけで報酬100万ドル がもらえる破格のオファーが舞い込む。背に腹は代えられぬ、渋々チャーター機に乗った先には熱烈ファンのハビが待っていた。
この映画を観て、尽きることのない“ロッキー愛”でフランチャイズに新たな命を吹きこんだライアン・クーグラー監督の「クリード チャンプを継ぐ男」(2015)が思い浮かんだ。アポロに隠し子がいた。スタローンですら思いつかなかった着想を起点に、黒人青年クリードを登場させてロッキーのその先を見事に描いたのだ。
トム・コービガン監督は、心の声まで用意する周到な脚本の開発に一年を費やすと、ニコラス・ケイジへの最大級のリスペクトを捧げた長い手紙をしたためる。ケイジは「心躍る冒険に連れ出してくれる脚本だ」と確信し出演を決める。愛すべき大富豪ハビには、「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011~19)や「マンダロリアン」(2019)で注目され、近作「The Last of Us」(2023)も大評判のペドロ・パスカル。この御仁もニコラス・ケイジの大ファンだというから笑ってしまう。
劇中では、ケイジ本人も了解済みの限界突破スレスレの自虐ネタが怒涛のごとく押し寄せる。豪邸内の隠し部屋には、ニックのフィルモグラフィを辿るコレクションが並び、中央には「フェイス/オフ」(1997)のキャスター・トロイが金色に輝く二丁拳銃で屹立している。「グロい」と言いながらも目の前の蝋人形に「2万ドル出す」と値付けする姿にも大爆笑。
監督が「5回ジャンルが変わる」と言う通り、マヨルカ島に到着するや先が読めない物語が猛スピードで暴走する。ハビが「俳優を辞めないで」と胸に秘めた願いをぶちまけ、ニックにはCIAからの極秘ミッションが下される。軽快なバディムービーに軸足を置きながら、サスペンスとアクションが入り交じり、遂には家族も巻き込む大団円へと駆け抜ける。
この作品の最重要ポイントは“Not Himself”。つまり彼自身を演じているのではないこと。俳優生活42年、酸いも甘いも噛み分けたニコラス・ケイジにとって、バディなアドベンチャー快作「マッシブ・タレント」は、俳優としての新章の始まりを告げる作品になるだろう。
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