「西部戦線異状なし」あらすじ・キャスト・トリビア 英雄譚ではない、あるがままの戦争を描く
2023年3月8日 18:00
3月12日(現地時間:日本時間は13日)に開催される第95回アカデミー賞授賞式。作品賞にノミネートを果たした「西部戦線異状なし」は、脚色賞、視覚効果賞、美術賞、撮影賞、国際長編映画賞、音響賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、作曲賞の候補にもあがっています。
映画.comでは、同作の概要&あらすじ、キャスト、トリビアをまとめました。本記事でしっかりと予習を行ってから、興奮必至の授賞式に臨みましょう!
[概要&あらすじ]
[評価]
[スタッフ&キャスト]
[トリビア1]第一次世界大戦を描いた原作に見出した“現代性”
[トリビア2]戦争を英雄譚としてではなく、いかに描くか
[トリビア3]可能な限り“本物”にこだわった衣装、小道具、セット
[トリビア4]映画初出演にして初主演! 新鋭フェリックス・カメラーを大抜てき
ドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルクの同名小説を、母国ドイツで映画化した戦争ドラマ。「ぼくらの家路」のエドワード・ベルガーがメガホンをとり、「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」「キングスマン ファースト・エージェント」などハリウッドでも活躍する俳優ダニエル・ブリュールが製作総指揮に名を連ねた。1930年に、ルイス・マイルストン監督が同じ原作を映画化している。
舞台は、第一次世界大戦下のヨーロッパ。17歳のドイツ兵パウルは、祖国のために戦おうと、意気揚々と西部戦線へ赴く。しかし、その高揚感と使命感は、凄惨な現実を前に打ち砕かれる。ともに志願した仲間たちと最前線で命をかけて戦ううち、パウルは次第に絶望と恐怖に飲み込まれていく。
・第76回英国アカデミー(BAFTA)賞(作品賞、監督賞、脚色賞、非英語作品賞、撮影賞、作曲賞、音響賞)
監督:エドワード・ベルガー
脚本:エドワード・ベルガー、レスリー・パターソン、イアン・ストーケル
撮影:ジェームス・フレンド
美術:クリスティアン・M・ゴルトベック
編集:スベン・ブデルマン
衣装:リジー・クリストル
音楽:フォルカー・ベルテルマン
フェリックス・カメラー(パウル・ボイマー)
アルブレヒト・シュッフ(スタニスラウス・カチンスキー/カット)
アーロン・ヒルマー(アルベルト・クロップ)
モーリッツ・クラウス(フランツ・ミュラー)
エディン・ハサノビッチ(スタックフリート・チャーデン)
アドリアン・グリューネバルト(ルードヴィヒ・ベーム)
ティボール・ド・モンタレンベール(フェルディナン・フォッシュ)
ダニエル・ブリュール(マティアス・エルツベルガー)
デービト・シュトリーゾフ(フリードリヒ)
プロデューサーのマルテ・グルナートは、再映画化のきっかけを、第一次世界大戦を描いた原作に見出した“現代性”だと語る。言葉や物語が現代的であるだけではなく、現在の世界情勢に、驚くほどリンクすることが多かった。
「ロシアによるウクライナへの侵略戦争、ナショナリズムの高まり、繰り返す軍国主義、かつて確かなものとされ、過去70年にわたって私たちの共存と繁栄を保障してきた民主主義への疑問……こうした動きは、欧米の全ての国で見られます。原作者のレマルクが描いた、若い高校生たちが熱狂的に前線に引き寄せられ、すぐに戦争の恐ろしい現実に直面する物語は、確かに第一次世界大戦に根ざしていますが、現代にも容易に当てはまるのです」
グルナートは、最初から英雄譚を語りたかったわけではないと強調する。「古典的な戦争映画とは異なり、本作では、敵の死は良い出来事でも、目標達成のためのステップでもありません。敵の死は、仲間や上司の死と同じように、ひとつの死なのです。視点が完全に入れ替わることが重要で、登場人物全員が同じ恐怖を味わうことになります」。
レマルクの原作は凄惨な描写も多いが、本作では、「主人公と同世代のティーンエイジャーが映画を見られるようにしたい」という考えが、暴力描写のパラメーターとなった。さらに、暴力を漫画的、またはクールに描くことを避け、決して魅力的ではなく、不愉快で恐ろしい、観客が見た瞬間に痛みを感じるものとして描写した。
エドワード・ベルガー監督は、アメリカやイギリスの戦争映画は、自動的にヒロイズム(英雄主義)と結びつく傾向にあると指摘する。「もちろん、戦争は恐ろしいものでもあり、アメリカやイギリスにも大きな損失をもたらしたことは間違いありません。しかし、同時に成功体験でもあり、最近、アメリカやイギリスの監督が映画で戦争を描くと、その感覚が勝手に浸透してしまうのです」。
そこでベルガー監督は、ドイツの視点を取り入れて物語を作り上げることを決意した。「ドイツの視点は、現代の戦争映画にはもはや存在せず、それを見せる勇気も機会も普段はないのです。私たちドイツ人の戦争観は、悲しみと恥、不幸と死、破壊と罪悪感で形成されています。そこには肯定的なものも英雄的なものも、何ひとつありません。どちらの側であろうと、全ての死は死であり、単に恐ろしいだけです。死んだのは、ひとりひとりの人間なのです。私たちの歴史、背景、戦争への姿勢を映画の原動力にすることは、とても大きく、魅力的な挑戦だと感じました。ドイツの視点を世界に発信することが、興味深いと思ったのです」。
本作を英雄譚ではなく、あるがままの戦争について描く作品にすると決めた以上、衣装、小道具、セットなど、全てを“本物”に近付け、歴史に忠実に作ることが重要だった。そこで、あらゆるセクションが歴史的なリサーチ、信憑性のチェックを丁寧に行いながら、製作が進められた。プロデューサーのグルナートは、印象的なエピソードを披露する。
「アルブレヒト・シュッフやフェリックス・カメラーとの、撮影現場での会話を紹介しましょう。彼らは、留め具のないブーツを履くことは俳優として違和感がある、と言っていました。画面上では全く見えないので、留め具があるかどうか、観客は気付かないと思います。ですが、衣装のリジー・クリストルが言ったように、『当時、彼らが持っていなかったものは、私たちも持たない』ということなんです。さらに、軍服を着たり脱いだりするのも煩雑で、濡れるととても重くなる。そうした全てを、当時の人々と同じように、役者も経験しなければなりませんでした」
その言葉通り、撮影は想像を絶する困難を極めた。クリスティアン・M・ゴルトベック率いる美術チームは、チェコ・プラハ郊外で、ドイツとフランスの塹壕(敵の銃砲撃から身を守るため、陣地の周りに掘る穴・溝)、その間の無人の空間と後背地、有刺鉄線、爆弾のクレーター、動物の死骸などを再現し、“戦場”を作り上げた。撮影は雪が降る3~4月に行われ、キャストとスタッフは凍えるような寒さを経験したが、雪が解け始めても事態は好転せず、セットは“泥風呂”のような状態になったという。
主人公パウルを演じたのは、本作で映画初出演にして初主演、カメラの前で演技をするのも初めてという新鋭フェリックス・カメラー。95年生まれ、オーストリア・ウィーン出身で、2019年からウィーン・ブルク劇場のアンサンブルメンバーとして活躍している。プロデューサーのグルナートは、劇場の運営チームで働いていた妻を介してカメラーと出会い、その才能を目の当たりにして、「彼は本物のパウル・ボイマーになる」と感じ、同役に大抜てき。グルナートは、「本作の文脈で考えれば、ほかの役と結びつかない若者が主人公を演じることは、観客に良い形で作用したと思います」と明かす。
カメラーは4カ月半にわたる準備期間とその後の撮影に、「体当たりで臨んだ」と述懐。役づくりの一環で、美術チームが用意したダミーの銃を握りながら脚本を読み、“武器”を装填する動作を習慣づけた。日常生活で持ち歩くことがない、ある種の“異物”である銃を単なる装備ではなく、自身の体の延長として使いこなすレベルにしたかったという。さらに、過酷な撮影に備え、重さ10キロのベストを着て、週に3回、10キロの距離を走った。しかし、撮影中に雨が降ると、泥まみれの軍服やブーツはもっと重くなる。実際の撮影では1日16時間、膝まである泥のなか、往復1.2キロもの距離を動き回った。
カメラーは体力的な準備だけではなく、役づくりにも余念がなかった。撮影前には、手に入る戦争映画を全て見て、第一次世界大戦や戦争全般に関する本を15冊ほど読み、インターネットや本で、戦争に関する約400枚の写真を集めた。カメラーは、「完全に情報を飽和状態にしたかった」と振り返っている。
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