【第73回ベルリン国際映画祭】スティーブン・スピルバーグに名誉金熊賞 「E.T.」「フェイブルマンズ」など製作秘話、キャリアを振り返る
2023年2月24日 11:00
日本公開を控えた自伝的な新作「フェイブルマンズ」が話題のスティーブン・スピルバーグが、第73回ベルリン国際映画祭で名誉金熊賞を授与された。
授賞式に先立っておこなわれた記者会見場は、終始にこやかでエネルギッシュなスピルバーグと、記者たちによる熱気にあふれた。予定の25分を超えたところで司会者が打ち切ろうとしたところ、彼自身が「もう終わりかい? もっと続けて構わないよ」と言い出し、延長するほどの協力ぶりだった。
「子どもの頃から今に至るまで、映画に対する情熱はまったく変わっていない。このような素晴らしい賞を頂けるのは、とてもエキサイティングなことだ」と切り出し、「フェイブルマンズ」について、「パンデミック中、ずっと家に居て、死や年を取ることについて考え、恐怖を感じた。家族と過ごしながら自分にできることは何かと考え、決心したのが、自分の両親、家族についての物語を作るということ。長いこと、いつか家族についての映画を撮りたいと思っていたから」と、パンデミックが制作のきっかけになったことを明かした。
また「E.T.」に関して、「未知との遭遇」に出演した友人、フランソワ・トリュフォー監督とのエピソードを披露。「『E.T.』は彼に負っている。というのも彼から、『君のなかには子供の部分がある。子供についての映画を撮るべきだ』と背中を押されたことで生まれた」と語り、「映画を作ることがセラピーと考えたことはないが、無意識のなかにはあるかもしれない。たとえば僕の両親が離婚しなかったら、『太陽の帝国』は生まれていなかっただろう」と打ち明けた。
どの作品がもっとも好きか、と尋ねられると、「自分の作品は自分にとって子供と同じ。だから優劣はない」と答えた。さらに監督志望の若い学生にはどんなアドバイスをするか、という質問には、自分が若い頃にジョン・フォードに言われた言葉を引き合いに出し、「俺のオフィスから出て行け、とは言わないよ(笑)。でも彼が語ってくれた、“多くでもなく、少なくでもない”というのは、とても言い得て妙だ。年をとって、それがわかるようになった。若い人たちには、いかに撮るかよりもいかに語るかを心がけろと言いたい。観客はつねにストーリーに心を惹かれるものだから。すべてのキャラクターは映画を語ることに貢献する。だから重要ではないキャラクターなどいない」と持論を展開。
最後に、次回作は決まっていないと言いつつも、キューブリックの企画であった「ナポレオン」をテレビのミニシリーズとしてプロデュースする予定であることを明かした。
授賞式では、ベルリナーレ・スペシャル部門で披露されたドキュメンタリー「Kiss the Future」のプレゼンテーションで訪れていたU2のボノが登壇し、スピルバーグへ賛辞を述べた。76歳を迎えなお、「わたしはまだ終わっていない」と、制作意欲をのぞかせる巨匠に、会場はスタンディング・オベーションに沸きかえった。(佐藤久理子)