高所恐怖症の方は要注意 シンプルな設定が怖い縦落ち系サバイバル・サスペンス【「FALL フォール」評論】
2023年2月4日 22:00

男臭いアクション映画に定評のあるスコット・マン監督の最新作。上空600mの鉄塔に取り残された女性クライマー決死の脱出を描く。300万ドルの低予算ながら全世界興収1,700万ドル超を稼ぎ出した話題作。
クライミング中の事故で夫ダンを亡くしたベッキー(グレイス・フルトン) は、心配する父(ジェフリー・ディーン・モーガン)と反目したまま、無為な日々を過ごしていた。そこに、やはり当日同行していた親友のハンター(バージニア・ガードナー)が1年ぶりに現れる。今やインフルエンサーとして有名になった彼女は、ベッキーに新たな一歩を踏み出させるため、新たな計画を立てていた。それは、放置された古い電波塔に登りダンの遺灰を散骨することだった。ベッキーはトラウマ克服のために挑戦を決意、錆びた鉄骨むき出しのタワーを登り始める。そしてついに頂点に達したとき、朽ちていたハシゴが崩落し、2人は600mの上空に取り残されてしまう。
観ていて腰の辺りが落ち着かなくなる縦落ち系アクション。スカイツリー並みの高所に留まり、わずかな装備と知恵を絞って脱出を試行錯誤、ここに2人の女の友情を再構築するドラマが交錯する。襲いかかる自然の猛威に、対照的な性格のベッキーとハンターが困難を乗り越えチームとなって能力を発揮する物語は、途中に仕込まれたトリックを含め、なかなかの見応えだ。
これまで手がけた「タイム・トゥ・ラン」ではバスの車中、 「ファイナル・スコア」ではスタジアムと、限定スペースでの作劇を得意とするマン監督。今回は宙に浮かぶ直径1mのプラットホームという、究極の孤立空間を舞台にして、キャリア最高のヒット作を生み出した。撮影に際してはモハベ砂漠にある山の崖上に高さ30mの鉄塔上部を造築。コロナ下に加え砂嵐や強い日差し、昆虫やヘビ、ネズミなどと格闘しながら撮影を敢行した苦労は報われたようだ。
ポルシェやレクサスなどのCMも多く手がける撮影監督マクレガーは、これまで培った手法を駆使。大自然を疾走するスポーツカーを超望遠から超近接までシームレスに撮るのと同様に、ポツンと居残るクライマーを真横や上からのフルショットで捉え、ドラマ部分では俳優が互いにiPhoneで撮り合うなど、メリハリの効いた映像が楽しめる。
なお本作の登場人物はアドリブでFワードを連発していたが、PG13のレイティングに合わせるため削除か再撮影の必要に迫られた。しかし、予算不足や撮影の危険性を配慮し、該当する約30カ所の表情と口の動きを、すべてディープフェイク技術で修正したという。今のAI技術には凄まじいものがあるのだ。
(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
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