【「すずめの戸締まり」評論】少女と小さな椅子の「場所を悼(いた)む」ロードムービー

2022年11月13日 12:00


「すずめの戸締まり」
「すずめの戸締まり」

九州で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)が、小さな椅子になった青年・草太と日本列島を北上しながら「地震を呼ぶ扉」を締める旅をする同作は、リアルタイムに新海作品を見てきた筆者にとって、直接的な繋がりはないものの「君の名は。」「天気の子」に続く3部作のように感じられた。

新海監督は、東日本大震災のときのことを「なぜ。どうして」と際限なく考え続けてしまうことがアニメーション映画づくりとほとんど同じ作業になっていったことを振り返りながら、「自分の底に流れる音は、2011年に固着してしまったような気がしている」と小説版「すずめの戸締まり」のあとがきに書いていた。

また、マスコミ向けの拡大試写会の上映前にサプライズ登壇した新海監督は、「自分がこのような映画をつくるようになるとは思っていなかった」とも話し、「すずめの戸締まり」は観客や映画館に導かれてつくらされた部分が大きいと語っていた。「君の名は。」の大ヒットによって、自作が多くの人に見られた結果、毀誉褒貶のさまざまな声をあびたことが「天気の子」以降の創作活動に繋がったと新海監督はインタビューなどで折にふれて話しているが、次回作を前作の反響へのアンサーとしてつくり続けた結果、たどり着いたのが「すずめの戸締まり」だったのではないだろうか。そこにあえて「空気を読まない」スパイスが入っているのがすごいところで、本作でも賛否両論になることを覚悟して描いていると思われるところが随所に見られる。

三本脚の椅子になった草太とふたりで謎の猫・ダイジンを追うコミカルな描写で物語を引っ張りつつ、旅の途中で出会う人との交流ですずめの内面が次第に明らかになっていく。初めて「地震を呼ぶ扉」が登場する場面や、東京ですずめが橋から飛び降りる場面でのカメラの横移動のショットなど、何度見てもハッとさせられるシーンが多くあり、「場所を悼(いた)む」ロードムービーとして何度も見返したくなる魅力がある。両作を見た人の多くが感じるであろう、ある部分での「ドライブ・マイ・カー」との類似も、時代と並走しつづけてきたからこその興味深い偶然のように思えた。

(五所光太郎)

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