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【「チケット・トゥ・パラダイス」評論】みっともない中高年に見えることに一切の躊躇がない、ベテランスターの至芸

2022年11月6日 08:00

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「チケット・トゥ・パラダイス」
「チケット・トゥ・パラダイス」
(C)2022 Universal Studios. All Rights Reserved.

ジュリア・ロバーツジョージ・クルーニーが5度目の共演、と聞いて「おお!」と心が動くのは中年以上の世代だろうか。ハリウッドスターらしく全然しょぼくれてはいないが、ロバーツ54歳、クルーニー61歳。そんな彼らが久々にオールドスタイルのロマンチックコメディに帰還したのが「チケット・トゥ・パラダイス」だ。

2人が扮するのは離婚した元夫婦。大学を卒業したばかりのひとり娘が旅先で現地男性と恋に落ち、スピード結婚すると知らされて、別れさせようとバリ島に飛ぶ(コロナ禍のため撮影は主にオーストラリアで行われた)。しかし長年いがみ合ってきた犬猿の仲。目的は一緒でも、心を合わせて一致団結できるのか? そして首尾よく娘の結婚を阻止し、まだ惹かれ合っていた時代を思い出して、焼けぼっくいに火がつくのか?

最近のロマコメはいろいろとアップデートされ、意外にビターな展開も飛び出すので油断ならないが、本作に関しては「収まるところに収まるんでしょう?」という先読みを否定しない安心仕上げ。とはいえ一昔前のハリウッド映画なら、エキゾチックな南の島で愛娘が恋に落ちるのは、現地の青年ではなく、同じリゾート客の白人男性だったのではないか。それこそジュリア・ロバーツがバリ島で撮った「食べて、祈って、恋をして」の時のように(あちらは一応実話ベースだが)。

ロバーツの過去作との繋がりでいえば、他人の結婚の邪魔をする筋書きは1997年の「ベスト・フレンズ・ウェディング」に通じ、本作で娘役を演じたケイトリン・デヴァーも、ディズニープラスで配信されたばかりの主演作「ロザライン」でロミオとジュリエットを別れさせようとする元カノを演じているのだから面白い。ジャンルの中で繰り返し描かれてきた定番ネタが、更新されたり、新世代に継承されたりしているのだ。

特に繁華街のバーに繰り出したロバーツとクルーニーが、酔っ払ってビアポンなるゲームではしゃぐ姿が素晴らしい。みっともない中高年に見えることに一切の躊躇がなく、尋常じゃないテンションで底抜けに楽しそうなのだ。若い世代には面倒な年寄りにしか見えないかも知れないが、思い返せばロバーツは、リミット知らずのコメディ演技を武器にロマコメ女王の称号を得た逸材だったし、クルーニーが晒すフルスイングのマヌケ面もプロの技。これは世界遺産級の至芸……いや遺産呼ばわりは失礼でした、まだまだ現役のベテランスターの堂々たる全力芝居をご覧いただきたいです。

(村山章)

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