【「スペンサー ダイアナの決意」評論】清らかな偶像ではなく、生身の戦うダイアナにオマージュを捧げたラライン監督の挑戦状
2022年10月15日 08:00
その存在自体がパンクであるようなクリステン・スチュワートと、ダイアナ元皇太子妃。この一見ミスマッチな組み合わせこそが、パブロ・ラライン監督の狙いであり、この作品を独創的にしている所以だ。なぜならここで描かれるダイアナは、運命の犠牲者ではなく、前代未聞の勇気ある選択をした女性だから。庶民には想像を絶する圧力のなかで、彼女がどんな思いであの決断に至ったのかが、エリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスの、「寒くても暖房を入れない」冷え冷えとしたクリスマス休暇のなかで描かれている。
もともとダイアナ好きだった母親の影響で、自身も彼女のファンになったというラライン監督は、とくに母としてのダイアナの姿に光を当てる。のちに恋多き女として語られた彼女ではあるものの、子供たちの前では良き母であり、彼らとともにいるときの表情は柔らかい。
一方、ひとりでいる際のダイアナは追い詰められ、手負いの鹿のような様相だ。「あの女と同じ真珠は貰いたくなかった」とつぶやき、Fで始まる四文字言葉を何度も口にする。ラライン監督は明らかにここで清らかで偶像的なダイアナではなく、生身の人間としての彼女をクローズアップする。
スチュワートはダイアナの上目遣いやしぐさを真似、驚くほど瓜二つであると同時に、型にとらわれることなくその内にある力強さや反抗心を解放している。いわば彼女のフィルターを通したダイアナなのだ。
ラライン監督のもうひとつのチャレンジ、それは本作にゴシック的な世界観を与えていることだろう。中盤、ダイアナが屋敷を抜け出し、近隣にある自身の生家を訪れる。いまは廃墟となったそこは父親と子供時代の思い出に満ち、彼女にある幻影をもたらす。この謎めいたシーンは、彼女の心に巣食う脅迫観念と、無垢な子供時代への郷愁を同時に表現しているように思える。
「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語」でアカデミー賞衣装デザイン賞に輝いたジャクリーン・デュランによる見事な衣装はもとより、ダイアナの心の不協和音を表現するようなジョニー・グリーンウッドの音楽もまた、本作の忘れられない魅力のひとつ。
すべてが綿密に計算された行き詰まるテンションは、だからこそラストシーンに鮮烈な開放感をもたらす。ラライン監督がフェミニストであることが確認できるはずだ。
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