【「夜明けまでバス停で」評論】安易な絶望よりも、ささやかな連帯に支えられた希望の原理を見出す
2022年10月8日 07:00
2020年11月、東京・幡ヶ谷のバス停で寝泊まりしていたホームレスの女性が暴漢に殴り殺されるという事件は、深い衝撃を持って受け止められた。コロナ禍で加速する不安定な就労状況が続く中で起こった、この今という時代を象徴する痛ましい出来事をモチーフに、真っ向から挑んだのが「夜明けまでバス停で」である。
高橋伴明監督は、ピンク映画出身で、三菱銀行人質事件の犯人を主人公にした初の一般映画「TATTOO<刺青>あり」(82)を始めとして、連合赤軍による同志リンチ事件を描いた「光の雨」(01)など、実話をベースにして、どちらかと言えば、加害者側の視点に立ちながら、混沌とした社会の矛盾や歪みを見据えてドラマを構築してきたといえよう。
「夜明けまでバス停で」では、しかし、徹底してヒロインに寄り添うことで、安直な正義や社会派的なメッセージを謳い上げることを拒み、この事件が生み出された時代背景を真摯に見据えようとしている。
居酒屋チェーンで働く三知子(板谷由夏)はコロナ禍で、緊急事態宣言を受け、店が休業を余儀なくされ、突然、解雇される。長年、一緒に務めていた中年のアジア人女性も馘首されるのだが、演じるのは、なんと「月はどっちに出ている」(93)で陽気で溌溂たるフィリピーナに扮したルビー・モレノだ。すでに皺が目立つルビー・モレノが「ワタシ、日本に30年以上もいるジャパゆきさんなんだよ!」と片言の日本語で叫ぶ時の表情には、バブル崩壊後の日本の衰微していった“時間”が刻み込まれているようにも感じられる。
失職した三知子はアパートを追われ、あっという間にホームレスとなってしまう。所持金もなくなり、ゴミ箱の残飯を漁るまでに落魄した彼女を受け止めるのは公園に棲むホームレス仲間たちだ。センセイ(下元史朗)、派手婆(根岸季衣)、元過激派とおぼしいバクダン(柄本明)は皆、訳ありの過去を背負っており、全共闘世代である高橋伴明は彼らを、同志のように愛おしいまなざしを込めて描いている。マスク姿が常態と化し、テレビや街頭映像に映り込む安倍晋三や菅義偉の空虚な貌ーー。淀んだ不穏な空気が支配するコロナ禍の東京を、これほどあざやかにとらえた映画は少ないのではないだろうか。
映画は、定石をなぞれば、三知子というヒロインを見舞う悲劇に刻々と向かって完結するはずだが、高橋伴明は、安易な絶望よりも、ささやかな連帯に支えられた希望の原理を、そこに見出そうとする。意外や、「仁義なき戦い」の「間尺に合わん仕事をしたのう」というアイロニーたっぷりの名セリフも聞こえてくる。私は、痛快なエンドクレジットを見ながら、同じ深作欣二の「誇り高き挑戦」(62)のラストシーンを連想した。今、まさに必見の映画である。
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