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女系で繋がる家族の関係性を神話的に、リリカルに描く少女の物語 「秘密の森の、その向こう」セリーヌ・シアマ監督インタビュー

2022年9月27日 12:00

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セリーヌ・シアマ監督
セリーヌ・シアマ監督

燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけた最新作で、2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品された「秘密の森の、その向こう」が公開された。映画は、娘・母・祖母の3世代をつなぐ喪失と癒しがテーマ。ドラマチックな「燃ゆる女の肖像」から一転、今回はリリカルでかわいらしい小さな物語だ。このほど、シアマ監督にオンラインインタビューを敢行した。

画像2(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema
<あらすじ>
大好きだった祖母を亡くした8歳の少女ネリーは両親に連れられ、祖母が住んでいた森の中の一軒家を片付けに来る。しかし、少女時代をこの家で過ごした母は何を目にしても祖母との思い出に胸を締め付けられ、ついに家を出て行ってしまう。残されたネリーは森を散策するうちに、母マリオンと同じ名前を名乗る8歳の少女と出会い、親しくなる。少女に招かれて彼女の家を訪れると、そこは“おばあちゃんの家”だった……。
――娘と母を主題にした作品をこのような形で描かれることに驚きました。どのような構想、きっかけから、この物語はうまれたのでしょうか?

このアイデアは夢のようにふっと映像が浮かんできたものなんです。それがどんなものだったかというと、この写真(下部)で、森の中に小屋があってその前にふたりの女の子が立っているというものです。それで、そのひとりがお母さんでひとりが娘ということにしたら面白いんじゃないかと思いました。斬新で驚きのある設定であると同時に、ストーリーとしてはすごくシンプルだと感じました。すでに誰かがこういう設定で撮っていてもおかしくないのに、今まで聞いたことはなかったし、古代神話などの世界にもありそうな、母性というか、女系で繋がっていく関係性を描いてみたら面白いんじゃないかと思ったんです。

画像3(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema
――映画初出演で双子のジョセフィーヌ&ガブリエル・サンス姉妹がネリーとマリオンを演じました。ネリーとマリオン役にはそもそも双子を想定されていたのでしょうか?

自分自身がこのシチュエーションだったら、自分と同じ年の時の母親に出会ったら姉妹のように感じるのか?だったら同じ母親がいるのか?など色々考え、それを演じてもらうなら姉妹であるべきだと思ったんです。それで、キャスティングディレクターには双子ではなくてもいいけど姉妹にしたいと話していました。最初に来てくれたのがこのふたりで、ふたりが自分に向かって歩いてくるのを見た時点で「完璧。一緒にやりたい」と思い、シンプルに進んだキャスティングです。即決でした。

画像4(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema

演じるふたりが双子であることをさほど重要視してはいませんでしたが、結果的によかったのは、ふたりの存在の間にある対等な関係です。双子というのは、人生の同じタイミングで出会う奇跡のような対面ですよね。自分の他の作品もそうですが、登場人物が常に対等な関係であることをとても重視しているので、今回はそんなふたりが見つめ合う……ということを実現できて、いい部分が沢山ありました。もともと双子で一緒に生活しているのでお互いのことをよく知っているし、すでに強い絆もあります。実際一緒に生活して知っているはずのふたりが初めて会うような設定というのは、不思議な感覚もあります。それを実現できて、様々なダイナミズムが働いてよかったです。

――サンス姉妹の息の合った演技に魅了されますが、演出面など、大人の俳優とは異なる指導をされたのでしょうか?

ふたりには、撮影に入る前に映画に関しての情報、つまりこれがどういう映画でどんなことを描こうとしているのかということを最大限共有しました。子どもたちと一緒に仕事をすることはそれ自体が面白いことですが、一緒に構築し、一緒に何かを考えていくという部分がすごく面白いですね。シーンについて話をする時は、こういう感情を出してほしいとかこういう風に演じてほしいということではなく、コミュニケーションをしながら引き出していった感じですが、リハーサルは特にしていません。唯一リクエストとして伝えたのはリズム感です。これは子どもに限らず大人に対しても同じですが、映画が持つテンポというものがあるので、それは撮影の合間などにも注文をしていきました。

画像5(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema

演技をしてもらう上であまり指示やセリフが多くなってしまうと制約も多くなってしまいますが、子どもというのは自然とシリアスさも持ち合わせているように思います。その奥深さがこれまで余り描かれてこなかっただけなんです。子ども達は今まさに生きているのに、つい未来の存在、未来の世代のように捉えられがちで、大人は子ども達のために何かをしてあげるとか言いがちだけど、子ども達と一緒に何かをする……その時を一緒に分かち合える現在進行形の存在であるということを描きたかったんです。

――姉妹はSF的ともいえるこの物語、脚本をすぐに理解しましたか?

子どもは想像力が豊かで、もともと不思議な感覚に対する感受性や“なんとかごっこ”というのは得意なので、逆に設定をすぐ理解してくれて演技指導はしやすかったです。例えばネリーとマリオンが最初に出会うシーンも、「この時はまだ自分のお母さんであるとは分からないよ」と伝えたら「うん、わかったわかった」という感じで。映画の中でひとりは侯爵夫人でひとりは刑事をやるというロールプレイみたいなことをやったりしても、シチュエーションがおかしくてもすんなり受け入れてくれました。

画像6(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema
――「水の中のつぼみ」「トムボーイ」など過去作もありますが、子役やティーンエイジャーをメインキャストにした映画を撮ることの喜び、面白さを教えてください。

子どもと一緒に仕事をするのはすごく楽しいです。映画では、中心となる人物の視点を通して世界を見ることになりますが、子どもの視点はすごく鋭いし、観察力があるので、作品の中心に据えるのにすごく適していると思います。もともと子どもは好奇心も旺盛ですが、ただ無邪気なだけではなく自分が生き延びていくために自分を取り囲む周りの世界を理解しなければという必然性にかられて、周りのことをしっかり理解しようとしています。映画の中でも、好奇心や観察力があって、それを働かせながら成長していくという風に描くことができます。

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