【「キャメラを止めるな!」評論】アカデミー賞受賞監督の一途な愛情と、仏人気俳優たちの嬉々とした暴走ぶりが沁みる
2022年7月16日 08:00

「上田慎一郎監督のとても知的な脚本に感嘆し、スリルを感じた」というミシェル・アザナビシウス監督が、思い余ってフランスのキャストでリメイクしてしまった本作。なにせアカデミー賞受賞作「アーティスト」で、今日日(きょうび)モノクロのサイレント映画を復活させてしまった監督である。何があっても驚かないが、これは意外に素直に、オリジナルに忠実に作っている。役名にわざわざ日本語まで付けているところなども、一途な愛情を感じる。
今年のカンヌ国際映画祭ではオープニング作品として上映され、会場は大袈裟ではなしにげらげらと笑いに溢れ、喝采を浴びた。
ではオリジナルを知る観客にとってどこが新鮮かといえば、フランスの演技派俳優たちが大真面目にこの“偽ゾンビ映画”に取り組み、暴走しまくっていることだろう。本国では出演作が後を絶たないロマン・デュリスは、「速い、安い、質はそこそこ」のしがない監督、日暮を、そのコメディ・センスを発揮して演じている。アザナビシウス監督のパートナーであり、彼の作品に欠かせないベレニス・ベジョは日暮の妻に扮し、切れたら止まらない“カンフー・マスター”として(フランスでのカンフー映画の認知度を意識し、B級感を加速させている)、ゾンビに対峙する。
フランスの国立劇場コメディ・フランセーズに所属する名優で、ふだんはシリアスな役の多いグレゴリー・ガドゥボワ(「オフィサー・アンド・スパイ」)が一転、呑んだくれのカメラマンに扮し、その巨漢を存分に駆使して、鈍感なゾンビぶりを披露するのも可笑しい。またフィネガン・オールドフィールド(「GAGARINE ガガーリン」)がインテリぶりと虚栄心が鼻に付く売れっ子男優に扮し、「キャピタリズムの害悪」について熱弁を振るうところなどは、アザナビシウス版ならではのセリフの妙と言える。物語が軌道に乗るまでの冒頭は、よりアップテンポな印象を抱かせる。
もっとも、竹原芳子をゲスト出演させるあたりに上田作品へのリスペクトを感じさせるし、ゾンビ映画へのオマージュも見られる。
所違えば勝手も違うのであるから、本作とオリジナルを単純に比べることは無粋というものだ。フランスの俳優たちが嬉々として日本のリメイクを演じている、というのが単純に面白いし、何よりこの物語の根幹にある父と娘の絆という普遍的なテーマ、そして映画への情熱と何が起こるかわからない映画制作の苦労がひしひしと伝わり、やっぱり映画愛って世界共通だなと思わせられる、そこがもっとも魅力だと思う。
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