【「ベイビー・ブローカー」評論】是枝裕和監督が映画製作で示した、誠実な“落とし前”のつけ方
2022年6月18日 14:00

日本を代表する映画監督の是枝裕和が初めて韓国映画を手がけ、第75回カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門に選出されると、主演のソン・ガンホに韓国人俳優として初となる男優賞をもたらすなど、2冠に輝いた。
「ベイビー・ブローカー」は、子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていく「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」を介して出会ったブローカーと母親、そして“追跡”する刑事が織り成すロードムービーだ。子どもの取り違えをテーマにした「そして父になる」(2013)製作時に、是枝監督が赤ちゃんポストや養子縁組といった問題に興味を持つようになったことがきっかけと明かしており、同作が起点になったといって過言ではないだろう。
16年に「ゆりかご」というタイトルの簡単なプロットを書いてからは、韓国で様々な取材をしながら脚本を書き進めていくわけだが、そんな中で出会ったベイビー・ボックス出身の子どもたちの生に対する根源的な問いが是枝監督の胸を射抜く。
「自分は生まれてきて良かったのか?」。これは、異母妹を迎えた3姉妹が一緒に暮らすことで家族になっていく姿を描いた「海街diary」で、広瀬すず扮する浅野すずが繰り返す自問自答と重なる。この点について、是枝監督も筆者の指摘を認めている。それだけに…なのか、だからこそ…なのか、是枝監督はひとりの映像作家として、その問いに対するアンサーを本編中に用意している。
映画では、ベイビー・ボックスに預けられた赤ん坊のウソンの養父母を探すべく、“ブローカー”のサンヒョン(ソン・ガンホ)と児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)、母親のソヨン(イ・ジウン)は“疑似家族”のように振舞いながら旅を続ける。この道中に繰り広げられる対話の積み重ね、感情の交錯により、“追跡者”であったはずの刑事たちも含め主要な登場人物たちの胸に共通の思いが芽生えてくるようになる。
それは、“素敵な眉毛”(真意は本編にあり)のウソンという男児にとっての幸せのあり方を、誰もが真剣に考え始めるということだ。疑似家族として旅を続ける3人(と予期せぬ形で加わる1人の少年)の姿は、「万引き家族」の登場人物たちと被る部分もあり、前述した作品群が地続きで繋がっているように解釈することもできる。とはいえ、観る者に委ねる締め括り方をしてきた是枝作品にあって、今回はこれまでと趣の異なるエンディングが用意されている点にも言及しておきたい。
日本映画界を代表する立場として精力的に作品づくりを続ける是枝監督に対し、“集大成”という安直な言葉を使って記述することは、文筆を生業にする端くれとして断じて出来ない。ここでは敢えて“落とし前”という表現を採用するが、「ベイビー・ブローカー」は直近10年間のブレることなき自らの仕事に対し、文字通り誠実に“落とし前”をつける作品になったのではないか。
世界中から喝采がおくられた50代から、60代へ。次なる一手が、今後どのような“落とし前”へと発展するのか、同時代を生きる世界中の映画ファンにとっても楽しみがひとつ増えたといえるのではないだろうか。
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