ウド・キア主演、90年代~現在までのゲイカルチャーも真摯に見つめるゴージャスでハートフルなロードムービー「スワンソング」予告
2022年6月14日 17:00
実在の人物をモデルに、引退したヘアメイクドレッサーが亡き親友の最後のメイクを施す旅を描き、世界各国の映画祭で感動を巻き起こしたゴージャスでハートフルなロードムービー。現役生活をとうの昔に退き、老人ホームでひっそりと暮らすパット(キア)は思わぬ依頼を受ける。かつての顧客で、街で一番の金持ちであるリタが、遺言で「パットに死化粧を」とお願いしていたのだ。ゲイとして生き、最愛のパートナーであるデビッドを早くにエイズで失っていたパットは、リタの遺言によってさまざまな思い出が去来する。
監督のトッド・スティーブンスは、17歳の時にオハイオ州のゲイクラブで“ミスター・パット”ことパトリック・ピッツェンバーガーが踊っているのを見て衝撃を受ける。映画の道へ進んでからも、いつか同郷のこの人気ヘアメイクドレッサーを題材にした作品を撮りたいと思い続け、その念願を叶えた。自身もゲイであるスティーブンス監督による本作は、実在の人物をモデルに、エイズが蔓延した90年代から現在に至るゲイカルチャーを真摯に見つめている。社会的な立ち位置、相続問題などのリアルなトピックも物語に取り込みながら、誠実に描いた作品となっている。
予告編では、老人ホームでジャージ姿という、過去のゴージャスな姿の見る影が無くなったパットが、葛藤しながらも徐々に輝きを取り戻してゆく姿を切り取っている。
8月26日からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
1984年、私は初めて故郷の小さな町にあるゲイバー、“ザ・ユニバーサル・フルーツ・アンド・ナッツ・カンパニー”に足を踏み入れた。そこに彼がいた。ダンスフロアでキラキラ輝いている。フェザーボアを首に巻き付け、柔らかなフェルトのつば広帽をかぶり、お揃いのパンツスーツを着た“ミスター・パット”・ピッツェンバーガー。まるでボブ・フォッシーの世界から抜け出したような動きで踊っている。
17歳の私にとって、パットは神のごとく輝いていた。
数年後、自伝映画「Edge of Seventeen」に着手しようと思っていた私は、すぐに“ミスター・パット”のことが頭に浮かんだ。彼のことを追跡しようと故郷に戻った私は、彼が動脈瘤を患い、一時的に話せなくなってしまったことを知った。だが、彼の恋人デビッドが私に物語を聞かせてくれた…。パットがかつてオハイオ州サンダスキーでどれほど素晴らしい美容師だったか、彼の有名な女装パフォーマンスについて、1970年代、彼がどんなふうにキャロル・バーネットのようなドレス姿でスーパーマーケットに買い物に行っていたか―。彼は、常に勇気をもって自分自身でいようとした。それが安全とは言えない時代でも。
実のところ、“ミスター・パット”に刺激されて私は「Edge of Seventeen」を書いた。重要な“パット”のキャラクターを主人公の良き相談相手として書いていたが、撮影の途中でその役はカットされた。だが私はいつも、自分の女神をいつかはもう一度書くことになるだろうとわかっていたのだ。そして何年もあとに彼はついに戻ってきた。私はもう一度パットを探したが、彼が最近亡くなったことを知った。悲しいかな、パットの有名な手作りのラインストーンのドレスはすべて失われてしまっていた。ただ靴箱がひとつ残っていた。中には、いくつかの色あせた宝石と半分吸いかけの煙草がひと箱だけ。
「スワンソング」は、急速に消えていくアメリカの“ゲイ文化”へのラブレターなのだ。クィアであることが以前よりずっと受け入れられてきた矢先に、昔栄えていたコミュニティが、あっという間に社会の中に溶けてなくなっていく。同化作用とテクノロジーのおかげで、“ザ・ユニバーサル・フルーツ・アンド・ナッツ・カンパニー”のような小さな町のゲイバーは消えていく運命にある。
「スワンソング」を、忘れ去られたすべてのホモセクシャルのフローリストと美容師たちに捧げよう。彼らがゲイコミュニティを築き、私たちの多くが今日までしがみついてきた権利のための道を切り開いてくれたのだ。だが、何よりも、私にとってこれは、もう一度生きるのに遅すぎることは決してないということを教えてくれる映画なのだ。
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